軽口のサラダバー
「う〜わ!何、山川ってばサラダなんか取っちゃってんの?」
・・・サラダバーの前でやな奴に会っちゃった。
焼肉食べ放題にサラダバーとドリンクバー付き、ディナータイムに学生割引でニーキュッパ。
安くて食べ放題のメニューも豊富、そこそこ美味しいお肉が食べられるからウチの学校の生徒は何かあると大体みんなこの店に来る。
体育祭や文化祭みたいにクラスで打ち上げするほどでもない合唱コンクール。
こういう行事の時は仲の良いメンバーが集まってここに来るのが定番なんだけど・・・。
バッタリ会っちゃったのは、同じクラスの橋本タツヤ。
やたらと私にデブだなんだって絡んでくるうるさい奴!
本気で仲が悪い訳じゃないけど、仲良しって訳でもない、でも男子の中では1番喋ってるクラスメイトだ。
「うるさいわよ橋本。アンタこそ何でここにいるのよ。」
「は〜?俺がどこに居ようと俺の勝手ですぅ〜!」
むっかつく顔で舌を出したその上に手を伸ばし、思いっきりデコピンした。
「いってぇ!暴力反対!山川のアホ!デブ!」
「小学生みたいな悪口言わないでくれる?」
デブってほどじゃないし!まだポッチャリの範疇だもん!
気にしてるから焼肉来てまでサラダ食べてるのに!
サラダバーの前でヤイヤイ騒いでたら、すぐ後ろに他のお客さんがいる事に気がついた。
あ、邪魔だったかな?
すぐに避けようとすると、橋本がスッと私とオジサンの間に入り、そのまま私をサラダバーの端っこまで押していく。
「え、は?」
壁際の、柱で周りから見えにくい場所までグイグイ押されて、やっと止まった。
「ちょ、ちょっと、何・・・」
「山川さ、今日なんでそんな服着てんの?」
服?
下を見るけど、別に普通の私服。
一回帰って着替えたからいつもの制服じゃないけど、そういう橋本だって私服じゃん。
「そういうさ、胸とか脚とか・・・あんま出すなよ。今もだけど、見られるじゃん。」
「なっ、何よ。デブだから見苦しいって言いたい訳?!」
「は?!馬鹿、違えって。・・・別に、デブとかも本気で言ってねえし。」
何?
顔を上げると、何故か目を逸らして口を尖らせている。
いきなりしおらしくなってて不気味なんですけど。
横を向いた橋本の顔が、店内の明かりでほんのり赤くなってるように見える。
無言で見つめる私の様子に問いただされてると思ったのか、口をパクパクさせてから言葉を絞り出した。
「だから・・・あんまり、見せたくないの!俺が!他の男に!」
「・・・は?なんで?」
「だからっ・・・!そんなのわかるだろが!」
空っぽのサラダ皿を持ったまま口元を隠した橋本の顔は、お店の電気のせいじゃなく、赤い。
「・・・ねぇ。なんで見せたくないのかちゃんと教えてよ。」
「うるせえな、ニヤニヤすんなし!アイツら待たせてるし、もう戻る!」
真っ赤になった顔のまま、テーブルがある方に早足で歩いて行く。
その背中に、声をかけた。
「ね!今度またここ食べに来る?次は二人で!」
一瞬振り向きかけてこっちを見たけど、すぐ前を向いた。
そしてそのまま左腕を上げて・・・左手の親指だけ立てている。
何あれ、カッコつけちゃって。
一人で笑いを堪えていると、騒がしい店内で一際大きな声が聞こえた。
「は?!お前サラダ取りに行ったんじゃねーのかよ!空っぽじゃん!」
「うっ、うるさいな!いいんだよ、もう腹膨れたんだって!」
必死で言い訳をする橋本の声が聞こえて、今度こそ吹き出してしまった。




