レモンステーキと幼馴染
フ~
「おいって。」
パチパチッ
「明日香。悪かったって。」
パタパタパタ・・・
「・・・お前なぁ・・・わかったよ。今からでも兄ちゃんと交代して」
「バカッ!やめてよっ!」
赤くなった炭をつかんだトングを宗介のほうに向けた。
熱気を目の前に差し出された幼馴染は、驚いて一歩後ずさる。
同じ年の兄弟と姉妹がいるお隣さん。
必然的に家族ぐるみで仲良くなり、毎年恒例の河原バーベキューも今年で十年目だ。
「別に、そんなんじゃないって言ったじゃん。大介さんはお姉ちゃんと付き合ってるんだし。彼女の妹より、彼女と料理するほうが楽しいでしょ。」
「じゃあお前も一緒にやってくればいいじゃん。火起こしは俺だけでもいいだろ。」
「いいよ別に。邪魔したくないもん・・・」
そう言って、また目の前の炭に目を落とした。
好き、だった・・・ってほどではないけど、お姉ちゃんの嬉しそうな報告に胸が痛んだのも事実。
まだそれほど経ってないのに二人が並んでる姿を見たくないのも、それを宗介に知られてるのも事実。
両家の親たちは二人が付き合って嬉しそうだし、さっそくテントのそばでお酒なんて飲み始めちゃってるし。
ここで暗い顔してるのなんて自分だけなんだから、お肉焼いてりゃ空気も壊さずに済むんだもん。
なのに、宗介が何かと大介さんと二人にさせようとしてくるから、軽い失恋の痛みやモヤモヤがイライラに変わってしまってるんだ。
「・・・お前がさ、さっさと兄ちゃんに告って振られてりゃよかったんだよ。」
ぼそっと呟かれた言葉で一気に頭に血が上る。
「・・・っ!!なんでっ・・・アンタにそんなこと言われなきゃっ・・・!」
顔の表面を照らす火が、だんだん大きくなってきた。
こぼれそうな涙も、早く乾かしてくれればいいのに。
「あっ!宗ちゃんってば。もうそれ焼いちゃうの?!」
おばさんの声が遠くから聞こえて顔を向けると、いつの間にかテントの近くに行ってた宗介が何か手に持って帰ってきた。
「ん。これ焼くぞ。」
網の上に乗せられたのは大きくてちょっと薄めのステーキ肉。
宗介の手には、ステーキソースとラップに包まれスライスされたレモン、それに小分けになったバター。
「・・・なに、それ。レモン?」
「レモンステーキ。長崎のばあちゃん家に行った時に食べて美味かったから、明日香にも食べさせようと思って持ってきた。」
「・・・美味しいの?」
「うん、めっちゃ美味い。お前、肉好きだろ。だから、これ食べたら・・・元気出るだろ。」
「食べないとわかんない。」
「うはっ!それもそうか。」
大介さんと同じ笑い方に、キュンとしてチクリと痛む胸。
「・・・あたしのためにわざわざレモンもバターも準備してきたの?」
「おう。」
「・・・もう、優しいんだか意地悪なんだか・・・。」
「優しいだろ。お前の報われない恋が終わるのずっと待っててやってんだから。早く吹っ切れてくれないと、いつまでも俺の事見ないだろ。」
「・・・え?」
「あ、バカ、お前、焦げてんじゃん!早く引っくり返せって!」
「え?あ、うわ!真っ黒!」
「あ~あ、高い肉なのにもったいねぇ~!」
「なっ、宗介のせいじゃん!」
「トング係は肉係だろ?!いや、まだ食える!ほら、あっ!皿がねえ!」
ちょっと焦げたステーキに、甘酸っぱいレモンのソースとバターの香り。
いつの間にか乾いてた涙は、笑いすぎて出た涙と合わさって流れていった。




