ビシソワーズ(冷製ポタージュ)の図書室
「隼人先輩って、何とかソワーズみたいですよね。」
放課後の図書室。
いつもなら校庭や体育館から聞こえてくる部活動生の声も、テスト期間中は聞こえてこない静かな校内。
駅前のカフェはテスト勉強をしている生徒だらけで、静かに勉強したい派の綾乃にとって図書室はうってつけの場所だ。
中学の美術部の先輩である隼人も同じ考えのようで、ここでバッタリ再会してからは、普段は静かに、だがわからない所を聞けば邪険にせず教えてくれる。
「なんだ、ソワーズって。」
隼人が怪訝な顔で教科書に線を引いていた蛍光ペンに蓋をした。
肘を付いた綾乃の顔を見るが、図書室に差し込む夕日と綾乃の姿が黒縁の眼鏡に反射していてその表情は読めない。
美術部女子の間で眼鏡男子ブームが起こった時、密かなイケメンとして人気があった隼人の眼鏡。
そこに映る自分を見ながら綾乃が続けた。
「こないだお父さんが誕生日だったんで、ご飯食べに行った時に出たスープです。なんか冷たいやつ。」
「ああ、ビシソワーズの事か。…じゃがいもみたいって事か?」
「え、あれ冷たいスープの事じゃないんですか?あたしが食べたやつ枝豆でしたけど。」
「それは知らないが…なんで俺がそれみたいなんだ?冷たいって言いたいのか?」
「パッと見は冷たいけど、優しくてほんのり甘い感じが似てるなぁ〜って。」
「…そりゃどうも。」
「あれ〜?かなり褒めたつもりなんですけど。他の人にも言われません?クールだけど実は優しいなんて!隼人くんカッコいい!とかって。」
「お前なぁ…。」
いつまでも勉強に戻ろうとしない綾乃に、向かいに座っていた隼人が眼鏡を外して身を乗り出した。
図書室の静かな空間に、手を付いた机の音がギシッと響く。
初めて見る裸眼の顔が近づき、目の前で囁かれる低いかすれ声。
「優しいのも甘いのも、お前にだけなんだから言われる訳ないだろ。」
目を見開き、みるみる赤くなる綾乃の顔に満足気な顔をすると、眼鏡をかけ直してスマホを触り始めた。
「…っ!せ、先輩、それってどういう…」
「あ、ほら。ビシソワーズは一度煮込んでから冷やすスープだって書いてあるぞ。」
「へ?あ、そ、そうなんですか?」
耳に残る甘い囁き声。
目の前には下を向いてスマホを触るいつも通りの先輩。
その温度差に戸惑う綾乃を上目遣いで見ると、口を開いた。
「もしかしたら、冷たさの中には煮込まれた熱い想いがあるのかもしれないな?」
イタズラっぽくニヤッと笑った顔。
想像してなかった返答と展開にその顔を直視出来ず、思わず下を向いた。
ノートの数式が目に入るが、脈打つ耳から全て流れ出ていくようだ。
正面からはフッと笑った気配と教科書をめくる音。
今日はもう集中出来なさそう…と冷たいシャーペンを握った手を熱くなった頬に当てた。




