06-上位怪物
~王子サイド~
王都王城の大門前---------
レッドを除く《ナイト・ファイブ》の面々が、夜遅く、北東方面へと出立しようとした時に、それは起こった。
「殿下!! あれを!!」
それは、第三王子が、ナイト・ファイブの面々を送り出そうと口を開いた瞬間、隣にいた近衛の一人が気付いた。
近衛の指差す先、星のようなものが、こちらの方へと向かって来ているのが、はっきりと見えた。
その星のようなものが、王城の一区画---------方角からして、騎士団の訓練場がある辺りに、落下して、激しい地響きと共に、爆音が空気を震わせた。
「隕石か………?」
誰もが、そう思った。
しかし、その直後、けたたましい悲鳴と共に、何かが、崩れ去るような音が耳に入って来る。
「……………まさか…………」
これも、あれに関わってしまったが故か、第三王子には、今、何が起きているのか、直感的に、察してしまった。
「殿下!?」
「皆の者、戦闘体勢の元、私に続け!!」
第三王子は走った。
走って、走って、落下した訓練場の辺りへと到達して---------
「ぎゃああああーーー!!!!」
------人々を殺戮している怪物の姿があった。
蠢く奇怪な触手を巧みに使い、近くにいる者の心の臓を手当たり次第に、突き刺し続けている。
それも、とある場所へと一直線に向かって------------
まずい!!
「全部隊、速やかに、怪物を掃討せよ!!」
怪物の意図を悟り、第三王子は、追い付いて来た近衛騎士とナイト・ファイブに、怪物達への掃討を速やかに命じた。
だが---------
「い、いや………!! やめ---------」
そんな中、怪物の進路上に、逃げ遅れたであろう尻餅を付いた一人のメイドの胸に、怪物の触手が貫く。
その瞬間、メイドの身体が、突如として、発光し出して、怪物と同じ姿へと変貌を遂げた。
見れば、殺された者達も、静かに起き上がると、同じように、怪物と同じ姿に変わって行っている。
「増殖型か!! 厄介な………!!」
《増殖型》
それは、特異な力を有した上位の怪物の総称だ。
触れた生物を自身と同じものへと作り変えて、その数を爆発的に、増やして行く。
しかも、対象は、人である必要もない。
牛や豚などの家畜---------木々や草、花々などの植物でも、コピーを作り出せるだけの質量が足りれば、それが可能だ。
それに、あの怪物のドロドロした形状は、どう見ても、スライムのような液状型。
あの資料の通りなら、もし剣で斬り付けて、その液を浴びてしまえば、たちまち、あの怪物の仲間入りが確定してしまう。
「四式装備を全面に出せ! 魔法を使えるものは、その支援だ!」
だが、手が無い訳ではない。
こちらにも、増殖型に対抗する為の装備がある。
《対怪物用四式連射銃ストロング・ガンナー》
勇者の遺産の一つで、対怪物専用の特殊な中距離武装の銃型魔導具。
要するに、連射式のマシンガン型の魔道具だ。
これなら、増殖型との距離を取りつつ、体液を浴びる心配はない。
実は、妹が怪物に変えられたとの報告を近衛から聞いた第三王子は、王都近辺に、あのタイプの上位怪物が近くにいるのは分かっていた。
だから、その為の装備を整えていたのだ。
近衛の手にしたのガンナーの弾丸が、怪物達に命中する。
《マジック・ブラスター》
ナイト・ファイブの面々の加勢もあり、何とか、怪物を押し留めてはいるが、何せ、急場凌ぎ。
ガンナーとナイト・ファイブの武装は、増殖型に効果はあるが、多勢に無勢。
押し切られて仕舞えば、元も子もない。
特に、あれを失う事になれば、尚更、まずい事態になる。
「殿下に加勢するんだ!!」
「突撃ぃいいいーーー!!」
「馬鹿者!! 下がれ!!」
事態を聞き、応援に駆け付けて来た他の騎士達が、第三王子達を助けようと、怪物達に突撃を開始し始める。
だが、それは、逆効果だ。
「喰らえ!!」
「おい、何だ!? これ------」
「た、たすけ………」
突撃して、怪物の体液を浴びて、何人かの者が、怪物になっていく。
いや、それだけではなかった。
飛び散った体液が、周囲の草や木々にも付着して、数を増やして行っている。
「あの馬鹿者共を下がらせろ!! ブルーとホワイトは、後退の手助けを---------」
「殿下!!」
「っ!?」
一瞬、第三王子が、気を放した時だった。
怪物の触手が、ガンナーの弾丸の雨を掻い潜り、彼の身体を貫こうと迫って来ていた。
「っ………………」
間に合わない!!
そう瞬間的に、悟り第三王子は、目を閉じた。
------が、いくら待っても、身体に、奴の触手が貫いたような痛みが走らない。
「………………?」
不審に思い、恐る恐る、目を開くと、そこにあったのは、怪物の触手を掴んだ一人の少女の姿だった。
《ダイアモンド・バースト》
触手を掴んでいる手から強烈な光が放たれて、怪物の一団へと命中し、消し飛ばしていた。
見ると、命中した怪物の一団の辺りに、何人かの人が倒れており、その中に、先程、怪物に変えられたあのメイドの姿があった。
「まさか、怪物になった者を人に戻したのか?」
信じられないものでも見るかのように、目の前の少女を食い入るように見つめる第三王子。
よく見れば、その少女は、あの時、レッドが勧誘に失敗し、返り討ちにした少女だった。
妹の件で、怪物化した人間を元に戻せる事は、部下から伝えて聞いてはいた。
しかし、まさか、ここまでの力だとは、正直、想定外だった第三王子。
「君は………」
「………………」
少女に、第三王子が語り掛けようとすると、少女は、冷め切った瞳で、一瞥し、怪物達へと突撃して行った。
「待て!! そいつらに、触れたら------」
少女の拳が、液状の怪物へとめり込む。
このままでは、あの少女も、他の者達と同様に、奴らに変貌して---------
「………………………え?」
思わず、素っ頓狂な間抜けな声を上げる王子。
奴らの身体に触れたにも関わらず、少女の姿は変貌する事もなく、その拳が、怪物を消し飛ばしていた。
「まさか、浄化しているのか?」
少女の拳と蹴りが、奴らの身体に触れる度、光となって、消え去って行く。
それどころか、彼女へと襲い掛かる触手も、彼女に触れようとして、何か、壁なようなものに阻まれて---------いや、その先端が、焼き払われたように、消滅していた。
「そうか………そうか、これが………」
そんな少女の戦いぶりを見て、得心が行く第三王子。
「これが、かの勇者様が目指したヒロインの力か」
だとすれば、彼女に加勢して---------
《マジック・ブラスター》
「殿下!! 気を緩めないで!!」
「すまない!」
再び、敵の接近を許し、間一髪で、ブルーに守られる第三王子。
気を取り直して、彼女の援護を皆に支持しようとして、いつの間にか、目の前に、彼女の姿があった。
「邪魔………。じっと、してろ………。このクズ王子………」
見れば、先程、ブルーが倒した一体を残して、怪物共が、異形の姿から人の姿へと見える。
「あの数の怪物を………こんな、あっさり………」
「それで………? あっちの方に、何がある………?」
隣で倒れている怪物の浄化を行いつつ、彼女が、そう第三王子である私に尋ねて来た。
指差す方角には、あれが格納されている例の区画がある。
どうやら、彼女も、この状況の原因は何なのかを------
しかし、あれの情報を迂闊に、彼女に話しても良いのであろうか?
「成程………今回も、お前の所為か………」
私から、何かを感じ取った彼女は、路肩の石を見るような蔑んだ視線を私に向けて、その拳を振り上げた。
「ま、ま------」
「このゴミ野郎………」
「ぶっ………!!!」
その拳が、私の顔にめり込んだと同時に、私の意識は、そこで、途切れた。




