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第33話 風聖vs風魔

 そして、魔王城本丸前。

 風聖ショウヤと風魔ヤシロの戦いが始まった。


 少しの睨み合いの後、ヤシロは全方位に向けて暴風を放った。


 激烈な風を受けて城の壁や石畳が削れ、土埃が激しく舞い上がる。普通の人間であれば倒れるどころか城外まで吹き飛ばされてしまうほどの風圧だった。


「ウィンドバリア!」


 将也は咄嗟に風のバリアを張った。


 薄緑色の風壁に黒色の暴風が衝突する。二つの風が混ざり合い、互いにその威力を弱めていく。だが、魔力はヤシロのほうが圧倒的に強い。


 将也のバリアは相手の風を打ち消しきれずに崩壊した。


「くっ!」


 守りを失った将也に強風が襲いかかる。

 彼は左腕で頭を守った。


 先ほどのバリアで風攻撃の大部分を殺したおかげで、立っていられる程度に風は弱い。しかし、土埃が空中を埋め尽くしているため、視界は悪い。


 その時、新たな魔力が前方から向かってくるのを、将也は感じ取った。

 将也は反射的に右へ低く跳び、地面を転がる。


 間もなくして、彼の数十センチ上を風の刃が三枚通り過ぎ、遥か後ろの城壁を斬り裂いていった。


 将也はそれらを回避したことに安堵し、息を吐いた。


 だが、気を抜いたわけではない。彼の注意は周囲のすべてに向き、ヤシロがどのような攻撃を仕掛けてきても対処できるようになっていた。


 将也は転がる勢いを利用して跳ね起き、ヤシロが居た方向に体を向ける。

 その瞬間、将也の背後から強力な魔力反応が湧き起こった。


 将也は即座に後ろを振り向く。

 その時にはすでに、強大な風塊が数メートル先まで迫って来ていた。


「ウィンド!」


 将也は両手を突き出し、手の周囲に強力な風を発生させる。

 次の瞬間、二つの風が激突した。


 黒い風弾と白緑色の風球が同時に破裂し、爆発する。続いて凄まじい勢いの竜巻が発生し、将也を飲み込んだ。しかし、咄嗟に取った防御行動のおかげで、将也へのダメージは軽いもので済んだ。


 将也は竜巻の中で、前方に人影を視認する。

 直後、その姿は一瞬にして消えた。


 そして間を置かずに、将也の背後から強大な魔力の波が襲いかかってきた。

 将也は咄嗟に反身を翻し、左手を後ろに突き出す。


 向かってくる風を、再び風のバリアで防ごうとした。しかし、敵の放った風はあまりにも強く、彼の腕は上方に逸れてしまう。


「があっ!」


 将也は背後からの暴風に煽られ、吹き飛ばされた。


 そして竜巻に巻き込まれ、その体は遥か上空にまで打ち上げられてしまった。それだけに留まらず、黒風は容赦なく彼に斬りかかった。


 瑞々しい肌に、無数の浅い傷が刻まれていく。

 将也はその痛みに耐えながら、体を地面に向けて両手を突き出す。


 「ウィンドデストロイ!」


 将也は全力で魔力を放ち、ヤシロの風攻撃を打ち消しにかかった。


 相手の力は凄まじいほどに強大で、将也の受ける抵抗は凄まじいものがあった。全身の血管が浮き出て、服が一瞬で濡れてしまう程に汗が噴き出す。意識のすべてを風魔法の消去に向けてもなお、竜巻の抹消には至らない。


 だが、風の勢いは格段に弱まっていた。それに伴って将也は身動きが取れるようになった。


 竜巻は残っていて、いまだに体を傷つけてくる。それでも戦況を変えるため、将也は急降下を始める。


 彼は地面すれすれで風を起こして浮遊した後、ヤシロの前に着地した。

 それと同時に風が止み、風聖と風魔の姿が明確に現れる。


 静かな魔王城本丸前で、二人は再び睨み合った。


「ほう。あれだけの攻撃を受けてまだ立っていられるか……四狼将と三魔将を相手にしてきただけのことはあるな」


「そりゃどうも……お前は無茶苦茶な魔力持ってるよな……さすがは魔王の側近って感じ」


 ヤシロは感心したように言い、将也は呆れたように息を吐いて、互いに称え合う。穏やかな空気がこの場を流れた。


 それを断ち切るかのように、風魔は妨害者を睨み付ける。


「だが、貴様の戦いもここで終わりだ。おとなしく魔王様の供物となるがいい!」


 ヤシロは自分の魔力を爆発的に放ち、再び全方位に暴風を起こした。


 この風攻撃には、さきほどのものとは比較にならないほどの威力が込められている。将也はそれを瞬時に悟った。


「ウィンドバリア!」


 彼はヤシロの魔法発動と同時に球状の風壁を作り出す。

 バリアが形成された直後、暴風が押し寄せた。


 黒い豪風を受け、風の防御が一瞬にして弱まる。力負けしているのは一目瞭然だ。仮に魔力を防御ではなく消去に使っていたら、将也は直撃を受けて戦闘不能状態に陥っていたことだろう。


 だが、被害を免れたとはいえ、このままでは十秒もしないうちにバリアを破られてしまう。そうなれば、将也は島外にまで吹き飛ばされるだろう。彼が危機的な状況下にあるのは変わりない。


 だが、将也は不敵に口元を上げた。


「でもまあ、お前はやっぱり魔力だけだよ」


 将也はその場で身をかがめ、クラウチングスタートの体勢を取る。

 その時、風の防球が剥ぎ取られた。


「ウィンドバレット!」


 防御が打ち破られた瞬間、将也は自身に風を纏わせて飛び出した。


 彼は迫る黒風を割り、弾丸のように風魔へと突進していく。二人の距離は一瞬で縮まった。風聖は右手を握り締め、この勢いのままヤシロに殴りかかろうとする。


 将也が眼前に迫るまで、風魔は彼の突進に気付けなかった。暴風の中を突き進んで現れた敵の姿に、ヤシロは目を見開く。


 豪速の勢いを乗せたまま、将也の右手がヤシロの顔面めがけて放たれる。

 風魔は咄嗟に転移魔法を使った。


 相手の体が瞬時に消え、将也の右手は盛大に空振りする。

 だが、ここで終わる風聖ではない。


 将也は右足を地面に押し付け、膝が悲鳴を上げるのもお構いなしに体を無理矢理に反転させる。そして左手を前に突き出し、間髪入れずに叫んだ。


「ウィンドショット!」


 将也は巨大な風弾を放つ。

 それと同時に、その軌道上にヤシロが姿を現した。


 将也の読み通り、風魔の転移先は自分の真後ろだった。渾身の一撃に見えた突進からの殴打は、実はフェイント。将也にとって、本命の攻撃はこの風弾の発射だった。


 転移完了と同時に迫ってくる風塊に、ヤシロは意識的に反応できなかった。


 ヤシロは反射的に右手で風弾を払い飛ばす。しかし、物理的に対処するには、この攻撃は威力が高すぎた。


 風魔の体勢が大きく崩れ、隙が出来る。


「ウィンドバレット!」


 将也はこの機を逃さず、右足で地面を蹴りつけた。


 彼は再び自身に風を纏わせ、猛烈な速さで空中を突進する。そのまま右拳を大きく後ろに引きながら風魔に接近。


 将也とヤシロの目が合う。

 そして、将也が全力で右拳を前に突き出した。


 拳がヤシロの顔面にめり込む。超速突進の勢いと拳突そのものの威力が合わさり、とてつもない衝撃が彼に襲いかかった。


 ヤシロの体は大きく突き飛ばされ、盛大に宙を舞った。ほぼ直線状に飛んだ後、背中から地面に激突する。それでも体は止まらず、地面を三回跳ねた後、派手に転がった。


 将也は前方に飛びながら速度を緩め、空中で一回転して地面に足を着ける。


 彼が直立するのと同時に、周囲に渦巻いていた黒風が消えた。その一方で、ここでようやくヤシロの横転が止まった。


 静かになった城内で、将也は風魔に向けて歩き出す。

 ヤシロは仰向けに倒れたまま動かない。


 将也は相手のそばにしゃがみ、真剣な眼差しをヤシロに向ける。

 ヤシロは顔から黒い血を流しながら、言葉にならない唸り声を上げていた。


「魔力が強いだけじゃ、戦いには勝てねえよ」


 将也はそう告げて、風魔の胸に右手を置いた。


(四狼将と三魔将のほうが、よっぽど強かったぜ)


 彼はそう思いながら、ヤシロに聖者の魔力を流し込んだ。


 右手から白い光が伝わっていき、風魔の全身が白い光に包まれる。邪悪な力が清浄な力に塗り潰され、その焼け焦げた体が小さく跳ねた。


 その時、ヤシロが大きく笑い出した。


「ハハ……フハハハハッ! フハハハハハハハハッ!」

「っ! なにが可笑しいっ!?」


 将也は魔力を流しながらヤシロを睨み付ける。

 ヤシロは数秒間笑い続けた後、不気味な笑みを浮かべて将也の目を見た。


「オレを倒したところで、無駄だ。もう遅い。魔王様の封印は、すでに解かれている……ッ!」


 ヤシロはそう言って、苦しげな声を上げる。それから間もなくして、彼の姿は黒い霧へと変化した。


 黒い濃霧は浮き上がり、魔王城本丸の最上階に吸い込まれていく。


(魔王の封印が、もう解かれてる……?)


 将也は眉をひそめながら、その黒霧を目で追った。

 視線の先で風魔の力が取り込まれ、完全に姿を消す。


 その直後、強烈な揺れが魔族島全体を襲った。





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