表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/37

第30話 阻む者たち

 将也とルシアが城門を飛び越えた頃。


 城郭外の水堀では、火魔の巨体が半分ほど水に沈んでいた。水聖からの先制攻撃によるダメージが大きく、火魔は体を自由に動かすことができない。堀は深く、このままではベルブティの全身が水に呑まれてしまうだろう。


「ふん!」


 火魔は魔力を使い、強引に体を浮上させた。


 水中から脱し、水面から数センチ離れたところまで浮く。苦手な水から抜け出したことで、ベルブティの体毛は再び燃え上がった。


 そんな魔将の前に、リーシャが降り立った。

 彼女は水面に足を着け、感心半分嘲笑半分で目を細める。


「ほう、溺れなかったか……たいしたものだな、火魔ベルブティ」

「貴様は、水聖……ッ! あの忌々しい一族の犬め」


 火魔はリーシャを睨み付け、歯ぎしりをする。


 水聖は敵の威嚇を意にも介さなかった。彼女は錬成魔法で周囲の水から槍を作り出し、それを両手に構え、銀色の穂先をベルブティに向ける。


「お前にはもう一度眠ってもらう。一年前と同じようにね」

「この小娘が……いいだろう、やってみるがいい」


 火魔は拳を握り締めて冷静さを取り戻し、臨戦態勢に入った。




 メディが将也とルシアの背中を見送った直後。


 彼女は表情を引き締め、目の前で倒れている巨大な獣人に視線を突き刺した。


「おい、いい加減起きろよ。地魔ブロス」

「グウゥ……」


 地魔は唸り声を出しながら、その長い両腕を使って起き上がった。そのまま両手を地面に押し付け、メディを見下げる。


 白マントの少女は、自分より三倍以上大きい獣を前にしても臆さない。

 彼女は悠々とした動作で腰の鞘から剣を抜き、右わきに構えた。


「一年ぶりの再戦じゃねえか。楽しくやろうぜ」

「あの時の、小娘……コロス!」


 火聖は不敵に笑い、地魔は両手で地面を殴り割る。

 それが、戦いの合図となった。




 同時刻。

 城郭付近の森では、水魔ウィシュチェルが土だらけの体で、ふらつきながら立ち上がっていた。


「ぬぅ……この力……間違いなく地聖じゃな。分が悪い……わらわは身を隠して門前に戻り、火聖を潰すほうが得策じゃ……」


 水魔はそう言って右手で頭を押さえる。


 痛みに耐えながらも、ウィシュチェルは歩き出した。そのとき、彼女の頭上から落ち着いた少女の声が降りかかってきた。


「そうはさせませんよ」


 その言葉の直後、アイリスが黒葉の天井を突き抜けてきた。

 ウィシュチェルは足を止め、怖気づいたかのように身を後ろに引く。


 水魔の前に降り立ったアイリスは、大斧の柄で自分の右肩を叩きながら獰猛な笑みを浮かべた。


「一年ぶりですね、水魔ウィシュチェル。また眠らせてあげますよ。今度は前よりも早く、ね」


「うぬぬぬ……この土臭い小娘めが……」


 水魔は地聖を睨み付けながら数歩下がり、状況を好転させる方法を考え始めた。





 将也とルシアは城郭内に突入した後、本丸に向けて走っていた。


 この世界でのスタート地点に戻ったことに、将也は妙な感慨深さを抱いていた。あの時は魔物が恐ろしく感じて逃げることしかできなかったのに、今は魔族の本陣に殴り込みをかけている。自分も随分変わったものだと、彼は微笑んだ。


 余計なことを考えていても、将也は足を止めない。襲ってくる魔物に対してはフェイントと急停止と急ダッシュを巧みに使い、戦闘を回避していく。道中の櫓や関所などは風魔法で飛び越えた。


 一切の戦闘を避け、将也とルシアは魔王のもとへと急ぐ。


 そしてついに、二人は本丸の前に辿り着いた。


 少女たちは立ち止まらず、巨大な城に突入しようとする。その瞬間、二人は背後に悪寒を感じた。


 ルシアは後ろに振り向きながら一枚のバリアを張る。


 彼女が後ろを向き終わるのと同時に、黒い風弾が一直線に飛来してバリアに激突した。強固な魔法防壁が粉々に破壊され、周囲に強烈な風が吹き荒れる。


「うわあっ!」

「ルシア!」


 体勢を崩したルシアは風に吹き飛ばされてしまう。将也は素早く身を動かし、ルシアを背中から抱き止めた。


「大丈夫か!?」

「え、ええ。なんとか」


 ルシアは気の抜けた笑顔を作り、将也に支えられながら自らの足で立つ。

 その時、二人の背後から低い声が聞こえた。


「たった五人で乗り込んでくるとはな……そこまでしてオレの邪魔がしたいか?」


「ヤシロ……ッ!」


 将也は振り向き、その声の主を睨み付ける。それと同時に魔力を全身に巡らせ、戦闘態勢に入った。


 そんな彼の右手首を、ルシアが悲痛な顔をして掴む。


「いけません! あんなのは無視して早く魔王のところへ行きましょう!」


 ルシアは将也を引き止める。

 将也は彼女の目を静かに見つめ、首を横に振った。


「なんでですか! もう時間ないんですよ! 魔力の差がわからないんですか!?」


「だからこそだ。このまま無視して二人で突っ切ったところで、妨害されるだけだ。ルシアにだって、そういう未来が視えてるんだろ」


「そ、それはそうですが……っ!」


 ルシアは言葉を失い、視線を下げる。


 彼女は心配そうな表情を浮かべている。将也を一人で風魔と戦わせたくないという感情が、少女の顔から漏れ出していた。


 そんな不安げな主人の手を、将也は優しく振りほどく。


「安心しろって。別に巻き込まれたことは恨んでねぇ。あと、お前にそんな顔は似合わねぇよ。わかったら、俺とヤシロのステータスでも叫びながら、とっとと城の最上階に行ってこい」


「……っ! は、はい!」


 将也の言葉で、ルシアの表情は一転して明るいものになった。

 いつもと同じお気楽な顔をしながら、彼女は本丸内に向けて走り出す。


「ヤシロのステータスは前と同じでレベル99、体力30、魔力100オーバー、力30、速さ30、防御30、戦闘センスはCです! 対してショウヤのステータスはレベル92、体力46、魔力95、力42、速さ86、防御38、戦闘センスはAですよーーーー!」


 ルシアは絶叫するかのような、それでいて歓喜するかのような声を上げながら、駆けていく。


 そんな彼女を、風魔が黙って見過ごすわけがなかった。

 ヤシロは大魔法使いに向けて右手を伸ばし、強力な風弾を放った。


 しかし、その黒風塊は彼の手から離れるや否や、急激に勢いを失った。空中を進むごとにその威力は弱まっていき、ルシアに迫った時には消えてしまいそうなほどになっていた。


 ヤシロの攻撃が彼女のバリアに弾き返される。


「なっ!」


 風魔は目を剥く。

 彼が狼狽えている間に、ルシアは本丸の中へ突入していった。


 彼女の姿が見えなくなったところで、ヤシロは我に返る。

 彼はすぐ将也に目を向けた。


 風聖は歯を食いしばりながら、両手を前に突き出している。そこから送り込まれる聖なる魔力が、ヤシロの魔力を必死に抑えつけている。先ほどの風弾の弱体化も、将也の妨害によるものだった。


 風魔は将也を睨み付け、歯ぎしりをする。


「チッ! どいつもこいつもオレの邪魔ばかり」

「そりゃそうだろ。邪魔しないとこっちが危ないんだからさ」


 将也は額に大粒の汗を流しながら、笑ってみせた。


「魔王の復活なんてさせるかよ、側近の風魔ヤシロさんよ。日本人みたいな名前しやがって」


 全身が苦しいのもお構いなしに、彼は軽口を叩く。

 その言葉を聞き、ヤシロは眉をひそめた。


「日本人……? そう言えば貴様、ショウヤとか呼ばれていたな? そうか、貴様もそういうクチか」


「なんだ? ヤシロ、お前も呼ばれて来たのかよ。魔族になって焼け焦げたり、風の聖者になって女になったり、俺たち似た者同士だな」


 短いやり取りの中で、ヤシロと将也は互いの境遇を理解した。この数奇なる運命に、二人は小さく笑い合う。


 しかし、この場の空気は、より一層張り詰めていった。

 風魔は表情を引き締め、両拳を握り締める。


「だが、同郷の者だからといって手加減はしない。魔王様の復活を妨害するのであれば、オレは全力で貴様を潰す」


 ヤシロからの宣戦布告を受け、将也は一切の魔力消去を止めた。


 体が一気に軽くなり、風聖はその場で小さく飛び跳ねる。それから地に足を着け、首と肩を回しながら相手を見た。


「俺だって手加減しねえよ。魔力頼りのテメエなんざさっさと倒して、ルシアを手伝いに行かねえとな」


 将也は緊張をほぐしながらそう言って、口元を大きく上げる。


 風聖と風魔が無言で睨み合う。


 そのわずかな静けさの後、二人は全身に魔力を巡らせて戦闘態勢に入った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ