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第3話 風の聖者、召喚!(3)

 あの島から脱出してしばらく経つと、薄暗くて荒れた海はしだいに穏やかな青い海へと変わっていった。


 空気も禍々しいものから清々しいものになっている。夜明けを迎えた空はまだ薄暗いが、爽やかな赤色が微かに見えていて、新たな一日の始まりを告げている。


 後方を確認すると、あの島の周辺だけは依然として黒紫色のもやがかかっていた。どうやら、あの島は時間帯に関係なく不気味な空気に包まれているらしい。


 遥か上空を飛んでいると、やがて目的地である大陸の全貌が見えた。そこは山脈によって、東、西、南、北、中央の、五つの地域に分けられている。


「大陸の真ん中っていうと……あのあたりか」


 将也は目を凝らしながら大陸中央を見る。


 その地域は他に比べると遥かに小さい。だが、四方とは平地で繋がっているため、大陸の中心地として機能していることは容易に想像できた。


 ふと、ここで金髪少女が将也の背中でお気楽そうに声を上げた。


「ああ、別にもうこのあたりで構いませんよ。私の転移魔法でちゃっちゃと家まで飛んじゃいましょう」


「え? そんな便利な魔法があるなら、あの変な島の時点で使ってくれよ」


 少女の言葉に対し、将也は嫌味ったらしく返す。

 彼女は申し訳なさそうに笑った。


「あのう、そう言うわけにもいかないんですよ。どういうわけか、私はあの島では魔法を上手く使えなくなるんです。それに、この飛行はあなたの風魔法の練習も兼ねてますから」


「はあ、そうですか……てか、やっぱり俺、魔法使ってるのか。つーか、わけわかんねえことばっかりなんだけど、ちゃんと説明してくれるんだろうな?」


「もちろんです。というわけで飛びますよー。私の家まで、ジャーンプ!」


 少女は左腕で将也にしがみつきながら、右手を高く挙げる。

 すると、その手から黄色い光が放たれ、あっという間に二人を包み込んだ。




 光が弾けて消えると、将也の目に映る景色が一変していた。


「うわっ、なんだここ!?」


 将也は驚きのあまり素っ頓狂な声を上げる。


 彼は慌てて顔を左右に振って周囲を確認した。目の前には煙突付きの小屋があり、周辺の庭は殺風景ながらもそれなりの広さがある。庭は木々に囲まれている。どうやらここは森の中のようだ。


「ふふーん。どうですか、私の転移魔法は」


 将也の背中で、黒ローブの少女が鼻を高くしてふんぞり返る。


 その偉そうな態度に、将也の驚きは消え、代わりに彼女への呆れの気持ちが生じた。


「ああ、すごいすごい」


「なんですかその反応は! ……まあ、いいです。時間がありませんから、早く中に入って説明を始めましょう」


 少女はそう言うと将也の背中から降り、そそくさと小屋の中へ入っていった。

 将也は考えるのを止め、彼女の後を追った。


 小屋の内装は簡素なものだった。部屋の真ん中には木製のテーブル。奥には暖炉が設置されていて、火はついていない。壁際には一人用のベッドが置かれている。生活に必要なもの以外は一切見当たらない。


 将也は少女に指示されるまま、テーブル手前の椅子に座った。

 少女はテーブルを挟んで将也の正面に立つ。


「では、始めますよ。いったいここがどこなのか、私はいったい何者なのか、あなたにはいったい何が起きたのか、そして、あなたがこれからどうするべきなのか。そういったことを説明します。時間が惜しいので、あまり口は挟まないでもらえるとありがたいです」


「お、おう……じゃあ、始めてくれ」


 将也の返事の後、少女は何も言わずに大陸地図を空中に浮かび上がらせた。


 青い光の線で描かれたそれは、将也が上空から見たものと同じだった。北東、北西、南東、南西に伸びる四つの山脈が、大陸を五つの地域に分けている。


 少女は咳払いをし、話を始めた。


「まずはこの世界について。あなたからすれば、ここは異世界です。この世界の生命はみんな魔力を持っていて、水、火、地、風の四大属性が基本です。そしてこの大陸の名は、オッキーナ大陸。五つの人間の国に分かれていて、それぞれ中央のセルトア国、北のキターノ国、東のヒガトン国、南のナウナン国、西のウェッセイ国です。千年前の人魔戦役以降、この五国で協力しながら平和を保っていますね。中央は交易、西は学術、東は工業、南は農業、北は魔族対策の軍事がそれぞれ得意分野です。んで、大陸の遥か北にあるこの島が、先ほど私たちが逃げてきた魔族島です。簡単に言えば魔族の本拠地ですね。ここまでオッケーですか?」


「お、おう」


 将也は躊躇いがちに頷いた。


 彼にとって少女の話は情報の濁流でしかなかった。だが、とりあえずは、この世界には魔法があり、魔法には四大属性があり、大陸には五つの国があり、先ほどの不気味な島は魔族の本拠地である、ということを覚えておけば良さそうだ。


 この世界の基本説明をした後、少女はふんぞり返って自らの胸に右手を当てた。


「第二に私についてですが、率直に言います。何を隠そう、私は魔王の封印維持を代々担ってきた一族の末裔にして、このオッキーナ大陸最高の大魔法使いルシア! 未来が視えるという凄い力の持ち主です! セルトア国の管理下にありますが、私の存在を知ってるのは各国の限られた人間のみ! そして、あなたを呼び出したのは他でもない私であります!」


 彼女の口から威勢よく放たれたのは、自己紹介という名の自慢だった。


 だが、この世界に来たばかりの将也にとっては、彼女の何が凄いのかはあまり理解できなかった。


「そ、そうか……んで、ルシアはいったい俺に何をしたんだ?」


 将也は彼女の話を受け流し、話を進めようとした。

 彼の問いかけを受け、ルシアは目で笑いながら美少女姿の少年を見た。


「あなたには風の魔力を与えました。こっちの世界で適合者がいなかったので違う世界にまで捜索の範囲を広げた結果、あなたが見つかったわけです。それで、あの島の魔力を借りて無理矢理召喚しました。体が女性になったのは、莫大な魔力の受け取りと強引な召喚の副作用みたいなものです」


「ああ、そういうことか……こっから先はだいたい予想がつくな……」


 話の全貌が見えてきた安心感から、将也は背もたれに体重を預ける。

 ルシアは彼を見つめながら、口元を緩ませた。


「そう言えば、あなたの名前を聞いていませんでしたね」

「将也。松峰将也だ。将也でいい」


 彼のぶっきら棒な名乗りに対し、ルシアは目を輝かせた。


「ショウヤ、ですね。では、ショウヤ。あなたに何をしてもらいたいのか、その説明に入ります。心して聞いてくださいね」


 ルシアは明るい声でそう言ったが、途端に真剣な表情を浮かべた。その顔を見て、将也は思わず背筋を伸ばしてしまう。


 大魔法使いの少女は一呼吸置いて、彼に告げた。


「ショウヤには私の従者の一人、風の聖者、つまりは風聖として、魔族の大陸侵攻から共に世界を救って欲しいのです」


 その言葉の後、小屋の中は沈黙に包まれた。

 数秒間の静けさを味わった将也は、口元を上げた。


「まあ、予想通りだな。どうせそうする以外にないんだろ? 魔族を倒さないとこっちの世界で暮らすことも、元の世界に戻ることもできないってことか。だったらやるしかないな」


「ありがとうございます!」


 ルシアは将也の手を取り、これでもかというほど目を輝かせた。


 将也は若干照れて目を逸らす。この大魔法使いは、言動こそは馬鹿っぽいが、見た目は美少女だ。こんな至近距離で喜びを露わにしていては、照れてしまうのも無理はない。


 ルシアは将也の手を上下に数回振ると、優しく手を離した。

 それから、彼女は再び真剣な顔をする。


「ここからが肝心な部分なのですが、まず、魔族は五つの国の中で最強の軍事力を持つキターノ国を乗っ取り、人間同士の争いとして各国に攻め入ります。その時まで、あと数日しかありません。そして、魔族は大陸全土で戦争を起こして人間の魔力や生命力を集め、それらを使って魔王を完全復活させた後、世界を支配する気でいます。私たちはそれを何としてでも阻止しなければなりません」


 それは、あまりにも壮大な話だったため、将也は思わず息を呑んでしまった。


 ルシアは彼の双眸を見つめて、話を続ける。


「実は、ショウヤを呼び出さなくても魔王の復活は阻止できます。南のサウナン国のとある田舎で、その場所の次期領主の少年が奮起して大陸全土を人間の手に取り戻し、私と協力して魔王を再封印します。ですが、その本来の道筋では、大陸が受けるダメージが大きく、十年後にはまた魔族の侵攻を許してしまいます。また、普通の方法で再封印しても一年後にはキターノ国が再び乗っ取られます。これは、長年大陸を守ってきたキターノ国が負う魔族対策への重責と、他国の協力不足が原因なのです」


 ルシアは悲しげな顔を浮かべる。

 だが、彼女はすぐに意思の籠った目で拳を握り締めた。


「そこで、私は戦争が起こった直後に、私自らが聖者とともに魔族を討伐して魔王を再封印するのが最善だと結論付けました! キターノ国以外にも責任を感じさせつつ、犠牲を出さずに済む方法が、異世界から風の聖者を呼び出して鍛えた後、戦争開始直後に速攻で敵の各ボスを倒すというものなのです! これについては未来視として視えてこないので正解のルートなのです! たぶん!」


 ルシアは語気を強めて力説した。

 その勢いに押されて、将也は感心したように唸る。


「なるほどな……つまり雑魚は捨て置いて、攻め込んでくる部隊の大将だけを倒して撤退させるってわけか……ん? たぶん?」


 将也は眉間にしわを寄せた。ルシアの話の最後に、どうにも引っかかる単語があったのだ。


 ルシアは苦笑いをした。


「あはは……未来視と言っても、視えるのはあまり良くない未来なんです。わかりやすく言うと、バッドエンドとかノーマルエンドとかグッドエンドは視えても、トゥルーエンドだけは視えないって感じです。最善のルートで何が起こるのか、ということについては未知数なんですよね……」


「便利なのか不便なのかよくわかんねえ力だな、それ」


「まったくです」


 ルシアの口から大きなため息が漏れる。

 それからすぐに、彼女は気を取り直して両手を腰に添え、声を上げた。


「ということで話を整理します。ベストな未来のために、私たちは戦闘の時間を必要最低限に抑えながら魔王を封印する。これが私たちのやるべきことです。あと、これにはもう一つ切実な理由があるのですが……」


 そのとき、ルシアの腹からえげつない振動音が鳴り響いた。

 少女の顔が急激に青白くなり、彼女はその場にうずくまる。


「おい! 大丈夫か!?」


 将也は反射的に椅子から立ち上がった。


 駆け寄ろうとする彼をルシアは手で制し、何も言わずに両手を虚空に伸ばした。すると、彼女の手の先が異空間に繋がり、そこからノミとハンマーと一枚の石板が現れた。


 ルシアは石板を目の前に浮かして固定する。彼女は左手でノミを、右手でハンマーを掴み、その金具を使って石板に文字を刻み始めた。


 すると、どういうことなのだろうか。ルシアが石板を叩き始めた直後、彼女の腹から聞こえていた苦痛に塗れた音が一瞬で鳴り止んだ。


 ルシアの血色が元通りになる。


 金具の衝突音と石の破砕音が絶え間なく聞こえるなか、ルシアはうわ言のように語り出す。


「わ、私……自分と従者がした戦闘をですね、こんなふうに自分で石板に彫って記録しないと、お腹がめちゃくちゃ痛くなっちゃうんですよね……大魔法使いに代々受け継がれる呪いみたいなものです……力を制限するためにご初代が受けたみたいでして……まあ、お腹が痛いと言っても下しはしないので助かりますが……」


 彼女はそう説明する間にも、石板に文字を彫り続けていた。


 この時間で刻めた文字はたったの二つ。そんな手間のかかる作業を見ているうちに、将也は気の毒になって眉をひそめてしまった。


「なんか、すげえ面倒くさそうだな」


「そう! それ! 石板にいちいち彫るのめんどくさいんですよ!」


 ルシアは石板を彫りながら心からの叫びを上げた。

 そして、彼女は作業を中断し、将也にハンマーを向ける。


「なので! 私たち大魔法使い一行は! 戦闘記録がめんどくさいので最速で世界を救います!」


 大陸最高の大魔法使いルシアは、今日一番の力のこもった声でそう宣言した。


 その言葉とともに、将也たちの戦いが始まるのだった。






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