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第24話 地魔・ブロス(2)

 この巨岩乱雨により、キターノ軍の攻撃が一斉に止まった。また、旗艦には岩が一つたりとも落ちてこない。聖者たちにとっては、魔力を回復させる絶好の機会だった。


 だが、将也には周囲の惨状を見過ごすことなどできなかった。


「クソ! やらせるか!」


 将也は目視できる範囲で、周囲の船に風のバリアを張る。


 強風の渦が軍艦の上に巻き起こる。これによって船は岩雨の直接的な被害から守られた。しかし、岩は軌道を逸らされても勢いは失わず、海面を大きく揺らして間接的に船へと襲いかかった。


「ショウヤだけじゃ足りませんね!」


 アイリスは左手を高く掲げ、風壁に魔力を送った。


 地の魔力が追加されたことにより、バリアは対地属性の力を得る。激突した岩はその魔力によって砂へと分解され、風に煽られて周囲に散らばっていく。


 清々しいほどに青かった空と海が、土煙で茶色く染まる。戦場が様変わりしても、地魔はそれを気にも留めずに岩を降らし続けた。


 将也とアイリスは額に汗を浮かべ、歯を食いしばる。


「まずい! このまま続いたら魔力が!」


「物凄い威力ですからね! 三魔将なだけあります! ですが、これ以上被害を出すわけには……ッ!」


 二人は焦った。


 岩の大雨は無限に続く。キターノ水兵も防御に全力を注いでいるが、彼ら彼女らだけではこの乱撃を防ぐことはできない。聖者がバリアを解けば、その瞬間にこの大艦隊は一気に壊滅してしまう。


「ウゴオオオオオオオオ! コロス! コロス! コロオオオス!」


 ブロスの咆哮が将也とアイリスの耳奥を揺らす。


 二人は思わず背を丸めてしまう。鼓膜が破けそうになるほどの叫びだった。


 地魔の大声が響くなかで、将也はよろめきながら敵に目を向けた。


 ブロスは甲板に手を押し付け、天に向かって吠えながら、大岩降らしを続けている。その攻撃は凶悪なものだが、魔将自身は隙だらけだった。周囲のことなど、その目にも耳にも一切入っていない様子だ。


「おいアイリス! あれチャンスじゃねえか?」


「ええ。激昂して周りが見えていないようですね。それに、魔力の無駄撃ちもいいところです。地魔が攻撃を止める前に、こっちから仕掛けましょう!」


「オー、ケーーーーッ!」


 将也は声を上げて自らを鼓舞し、体から魔力をひねり出した。


 船団を守るバリアには最小限の力だけを残し、その他はすべて攻撃に回すことにした。彼はいくつもの竜巻を旗艦の周囲に作り上げ、砂や木片を巻き込んで風渦の威力を高めていく。


 一方、アイリスは大半の魔力を軍艦上のバリアに送り込みながらも、密かに転移魔法を使って自分の足元に一本のツタを呼び出していた。


 将也の竜巻が、周囲の破片物を取り込み終える。攻撃手段は十分に強化された。


 そして、彼は最大限の力を込めて両手を高く挙げた。


「喰らええええええええええええ!」


 将也は気合とともに両腕を振り下ろす。


 すべての竜巻が蛇のようにうねり、地魔へと向かっていく。ブロスはそれらの接近に気づかない。そんな巨人に、竜巻は容赦なく襲いかかった。


 風渦は槍と化し、獣魔の体に次から次へと突き刺さる。


「ウグ!? ウゴオオオオオオオオオオオ! 誰だ! 誰だあああアアアアアア!」


 地魔は苦痛に満ちた声を上げる。


 ここでようやく、ブロスは自分が攻撃されていることに気付き、我に返った。魔将は巨岩の召喚を止め、長い腕で頭を庇いながら防御態勢を取る。


 だが、もはやそれは意味を成さなかった。魔力の大量使用によって地魔の防御力は落ちていた。将也の風魔法がその堅い皮膚を削り、傷ついた箇所からは黒い霧が噴き出していく。絶え間なく撃ち込まれる風槍に、ブロスは為す術も無かった。


 やがて、将也は竜巻を撃ち尽した。


 地魔は腕で頭を覆っているが、体は大きく揺らいでいる。全身には大量の傷口があり、防御は崩れていると言っていい状態だ。


 将也とアイリスの顎から、大粒の汗が伝い落ちる。


 彼女は軍艦上の防壁をすべて消し去り、大斧を両手に構えてブロスを見据えた。


「トドメを刺します! ショウヤ! 手を貸してください! わたくしだけでは魔力が足りません!」


「おうよ!」


 将也はアイリスのもとに駆け寄り、大斧の柄を両手で掴む。


 風聖と地聖の二人が斧を挟んで隣り合う。彼女たちは目を合わせて頷き合い、その超重量武器を持って駆け出した。


 ここで、地魔が両腕の隙間から聖者二人を睨み付けた。


「小娘、コロス!」


 ブロスは唸り声とともに、右手を振り上げる。


 このままそれを振り下ろせば、巨魔は小娘どもを叩き潰せるだろう。二人は回避行動に移れなかった。魔力のほとんどを使い果たした上で、重い大斧を掲げて全力で走っている状態だ。他の行動ができるわけがない。


(死ぬっ!)


 将也は直感でそう思った。


 だがそのとき、彼の横を緑色の何かが高速で通り過ぎていった。ツタだ。植物の太い糸が彼の後ろから伸びていき、ブロスの右腕に巻き付いた。


 地魔の動きが止まり、将也は目を見開く。

 彼の驚愕に応えるかのように、アイリスが高らかに声を上げる。


「わたくしは地の聖者、ですからね!」


 彼女がそう誇らしげに叫んだ瞬間、二人の足が甲板を強く踏みつけた。


 二人は同時に踏み込み、助走の勢いに乗って跳ぶ。彼女たちは背中が反れるほどに巨斧を大きく振り上げ、ブロスに向かっていく。


 ツタの妨害で体勢を崩した地魔は、迫りくる二人の姿を見ることしかできなかった。


「はああああああああああああああ!」


 将也とアイリスの声が大海原に響き渡る。

 そして、二人は魔将の脳天めがけて大斧を振り下ろした。


 巨獣の頭蓋に超重量の刃が激突する。その衝撃は地魔の全身に襲いかかり、彼女たちが乗る船をも大きく揺らした。


「ぐうううううう!」


 ブロスは自らの歯を砕きながら、低いうめき声を漏らす。


 その頭部の皮膚に、斧の刃がめり込む。そこから黒い霧が盛大に噴き出し、周囲を黒く染めていく。地魔の強固な防御は、完全に破られた。


 追い打ちをかけるように、将也とアイリスは聖者の魔力を放出した。


 白い光が二人の手から斧へと伝わり、地魔の体へと流れ込んでいく。聖なる力が体内の邪悪な力を塗りつぶし、ブロスの全身が白い光に包まれた。


 この浄魔の力に侵されている間、地魔は放心状態で二人の少女を眺めていた。


「オ、オレ……退く……」


 ブロスは穏やかにそう言って、両目を閉じる。


 その直後、魔将の体は輪郭を崩し、黒い霧となって大空へと霧散していった。周囲に撒き散らされていた魔の残滓も、跡形も無く消え去っていた。


 これまでの激闘が夢幻だったかのように、周囲は青の景色に戻り、静寂に包まれた。


 地魔の体が消え、大斧は支えを失う。

 その刃が甲板に刺さるのと同時に、将也とアイリスは船の床に足を着けた。


「や、やったな……」

「え、ええ……なんとか、終わりましたね」


 二人は斧の柄を持ったまま顔を見合わせ、微笑みながら達成感を分かち合う。


 そこに、ルシアの目玉が上空からまっすぐに降りてきた。


「ショウヤ、アイリス、お疲れ様でした。長い戦いでしたね……地魔ブロスは魔族島に撤退し、水狼将軍率いる部隊は魔族の支配から完全に解放されました。これで、サウナン国およびキターノ国艦船部隊は守れました」


「だ、だいぶ、とっ散らかってるけどな……」


 ルシアの言葉に、将也は居心地の悪そうな顔で応える。


 それも無理はない。辺りの海面には無数の木片や帆が浮かんでいて、旗艦も含めて周囲の軍艦はボロボロ。もはや艦隊としての機能は失われている。また、遥か遠くのサウナン国の海岸には、地魔が降らした巨岩が無数に転がっていた。


 そんな大惨事を見ても、ルシアの眼球は黒目の部分を閉じて笑った。


「はい! 内陸部が荒らされるのに比べれば、こんなの被害には入りませんよ! しかも、船は一隻も沈んでいませんし! これでいいんですよこれで」


 目玉は自信満々にそう言って、この場から消える。


 そこから間を置かず、ルシア本人が二人の目の前に現れて船上に立った。


「というわけで、これでサウナン国編は終了です! 将也のステータスはレベル90、体力45、魔力94、力41、速さ85、防御35、戦闘センスB+になりました。では、セルトア国防衛線へジャーンプ!」


 ルシアは喜々とした声でそう告げ、右手の人差し指を天高く突き出す。


 お馴染みの黄色い光が三人の体を包み込み、彼女たちはサウナン国の南海から離脱していった。






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