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第18話 火魔・ベルブティ(2)

「大丈夫か!」


「がはッ! げはッ! くっ、あ、ああ、なんとか、な」


 将也の呼びかけによって、メディは自我を取り戻す。彼女は左手を自らの胸に当てて、治癒魔法を使った。


 緑色の光がメディの胸を包み込み、全身へと流れる。それからほんの数秒で、彼女の体は完治した。


 胸骨が折れるほどの大ダメージだった。しかし、その治癒速度から、将也はメディが軽傷で済んだのだと思った。他人にはそう見えてしまうほどに、彼女の治癒魔法は熟達したものだった。


 メディは上半身を起こし、竜巻に捕えられた火魔を見据える。


「速い、デカイ、力も魔法も強い。周りをよく見てる。やるな、アイツ」


「どうすんだ。このまま閉じ込めるのもキツイぞ」


 そう言う将也の声は掠れていた。火魔に向けられた彼の右手は大きく震え、肩から指先にかけて血管が浮かび上がっている。彼が魔力を送り込むのも、そろそろ限界だ。


 メディは少し考えた後、悪ガキのように口元を上げた。


「いや、それでいい。アイツをキレさせるんだ! このままありったけの魔力で弾をぶち込みまくるぞ!」


 彼女はそう意気込んで立ち上がる。

 その時、火魔が空に向かって吠えた。


「ぐおおおおおおおおおおお! この程度の風で我を倒せると思うたかああああああああ!」


 ベルブティの怒号とともに大爆炎が起こる。


 それは魔将を拘束していた竜巻を消し飛ばし、周囲に強力な熱波をまき散らした。


 将也とメディはその場に伏せ、力を温存しながら爆発の衝撃に耐えた。




 少し経って、戦場が静かになった。

 さすがに疲労を感じたのか、火魔が大きく息を吐く。


 ベルブティの体からは力が抜けている。動き出すような気配は微塵も感じられない。まさに、戦場にそびえ立つ木偶の坊だった。


 その直後、メディが起き上がった。


 彼女は敵に向けて左手を伸ばし、間髪入れずに火の玉を連射する。放たれた紅い炎は豪速で空を翔け抜け、火魔の胴体に直撃した。


「ぬう!?」


 その強力な攻撃に、火魔はよろける。


 しかし、魔将はすぐに体勢を立て直して防御の姿勢をとり、メディたちを睨み付けた。その目はすでに冷静さを取り戻している。


 将也は伏せたまま目を見開く。


 聖者の魔族特効のおかげで、メディの攻撃はかなりのダメージを与えられている。しかし、決定打にはなっていない。このまま長期戦になるのかと、彼は覚悟した。


 そこに、メディの一喝が飛んでくる。


「怯むな! ショウヤも撃ちまくれ!」


 その声が耳を貫いた瞬間、将也は目が覚める思いがした。

 彼はすぐに立ち上がり、倒すべき相手に向けて両手を突き出す。


「ウィンドショット!」


 将也は風弾を連発する。


 それから彼はメディとともに攻撃魔法を使い続けた。強大な火と風がベルブティに襲いかかり、魔将はその場から身動きできなくなる。


「効いてるな……効いてるけど、こっからどうすんだよ」


 この状況で、将也は一抹の不安を感じた。

 そんな彼に、メディが穏やかな声で言葉をかける。


「ショウヤも見ただろ。あの爆炎の後のアイツを。隙だらけだったよな。このまま攻撃を続けてアイツの冷静さを奪って、もう一度あの爆炎を起こさせる。その隙に、あたしが聖者の魔力を直接流し込んでやる」


 メディは確信した顔で言う。


 彼女が言った通り、あの大爆炎の直後、火魔は戦える状態ではなかった。復帰自体は早かったが、戦いにおいてはそのわずかな隙が命取りになる。冷静な魔将が自我を失うほどの怒りを発した、という光景は聖者側にとって大きな収穫だったのだ。


 将也は、彼女を信じることにした。


「わかった。なら、このまま近づきながらぶっ放し続けてやる!」


 将也は風弾を発射しながら、メディとともに火魔に向けて歩き始める。魔法弾の軌道を操り、四方八方からベルブティに向かわせた。


 全方位からの風と炎の集中砲火により、魔将は完全に身動きが取れなくなった。


(魔力は、残り70パーセントってところか)


 将也は攻撃を続けつつ、唾を呑む。


 魔力の消費が激しい。それでも、相手を早く倒すためにはこのまま続けるしかない。火魔の激昂が先か、聖者の魔力が尽きるのが先か。それが戦いの分かれ道になる。


(残り50パーセント……)


 将也は自らの魔力残量に注意を向けながら、歯を食いしばった。


 火魔はいまだに耐え続けている。体力が大幅に削られていても、ベルブティは冷静さを失わない。大爆炎以外の突破口を見つけようとしているのだろう。


(残り、30パーセント。早く)


 将也は焦りから、額に汗を流した。


 火魔に行動を起こす気配は無い。聖なる風に体を揺さぶられ、聖なる炎に身を焼かれながらも、魔王軍の元ナンバー2はその誇りを失っていない。聖者の魔力切れを、ベルブティは狙っている。


(残り、20パーセント、早く、早くしろ)


 将也は焦燥感で足が震えた。


 攻撃の手を緩めるわけにはいかない。少しでも緩めれば火魔は動き出し、その巨体を使って物理的な攻撃に出るだろう。そうなっては戦闘の決着が先延ばしになる。


(残り、10パーセント……も、もうダメかも)


 将也は目を閉じてしまいそうになった。


 火魔の体は大きく震えている。その場で身を固めながら、ベルブティは必死に耐え続けていた。将也がこのまま撃ち続けても、火魔が倒れることはない。


(あ、あと5パー……)


 将也は諦めを感じ、目を閉じた。


 その瞬間、メディの攻撃が爆発的に勢いを増した。


 風を巻き込みながら、彼女の炎がベルブティを呑み込む。その炎は天に伸び、敵を燃やし尽くさんとばかりに激しく渦巻いた。


 これが決定打となり、火魔の理性が切れた。


「ぐおおおおおおおおおおおおおお! いい加減にしろおおおおおおおおお!」


 ベルブティは上を向いて吠え、魔力を最大限に高める。

 二度目の激昂が訪れていた。


「今だ! 風を打ち消せショウヤ!」


 メディは叫ぶと同時に駆け出す。

 彼女の声で将也は目を開く。


 その刹那、火魔の咆哮が焦土に響き渡った。


「爆裂業火あああああああああああああああああああああああ!」


 ベルブティが怒りに任せて魔力を解き放つ。


 その力は爆発的に広がり、爆炎と爆風へと姿を変える。それらは火魔を捉えていた炎風を消し飛ばす。それでもなお、邪悪な魔力の爆発は勢いを失わなかった。


 莫大な量の黒炎と風が将也たちに襲いかかってくる。


「ウィンドブロック!」


 将也は残り少ない魔力で風を打ち消す。

 その対象はメディに向かってくる風のみ。


 メディも正面の炎を打ち消しながら走った。黒炎の海に、ただ一本の細い道が作られていく。


 彼女は炎の嵐を駆け抜け、火魔に接近した。


 黒炎を突き抜ける。魔将の周囲だけは何もなかった。半人半馬の巨体と火聖は正面から向かい合う形となった。


 ベルブティは激昂し続けていて、彼女の突破に気付いていない。


 そこに、メディが飛びかかった。


 彼女の姿が突如として火魔の瞳に映り込む。この突然の出来事に、魔将は息を止めて目を見開くことしかできなかった。


「なっ!?」


 ベルブティは爆炎風を起こし続けながら、驚愕の声を上げる。


 メディは相手の目を見ながら、逆手に構えた剣を両手で握り締めた。


「あたしらの粘り勝ちだ!」


 メディは跳躍の勢いを乗せて、火魔の額に剣を突き刺した。彼女はそのままベルブティの体に足をかける。


「はあああああああああああああ!」


 メディが気合を入れ、剣が白く光った。


 その魔力は火魔の体に流れ込み、ほんの数秒で全身に行き渡る。半人半馬の巨体が白い光に包まれ、硬直した。


 耐えがたい苦痛が体中を駆け回っているというのに、この魔将はそれを表には出すまいと歯を食いしばって耐えていた。


「ぐぐぐぐっ、む、無念……」


 やがて、火魔は静かに両目を閉じた。


 その直後、黒炎の嵐が一瞬にして止んだ。雲一つない青空の下に、灰に覆われた広大な平地が姿を現した。


 間もなくして半人半馬の輪郭が崩れ、火魔は黒い霧となって消えた。




 メディは支えを失い、空中で慌てて脚を伸ばす。彼女はなんとか両足で着地できたものの、少しよろけてしまった。


 そんな彼女のもとに、将也が駆け寄った。将也はメディの後ろで足を止め、両膝に手をついて息を荒げる。


「はぁ、はぁ……た、倒せたのか?」

「ああ、無事にな」


 メディは涼しげな顔で彼に応えると、華麗な動作で剣を鞘に収めた。

 その姿を見て、将也は眉をひそめる。


「てかメディ……お前、攻撃の魔力をケチりやがったな」


「ははっ、そこは配分が上手かったって言うとこだろ。役割分担。ショウヤが足止めして、あたしが決める、的な? ま、結果オーライっつーことでいいだろ!」


 メディは後頭部に両手を当て、愉快そうに笑う。


「俺はめちゃくちゃ冷や冷やしてたんだけどな」


 将也はそう言って恨めしそうな顔でメディを見る。しかし、メディはそんなことなど気にも留めていない様子だった。


 そこに、ルシアの目玉が上空からまっすぐ降りてきた。


「ショウヤ、メディ、お疲れ様でした。火魔ベルブティは魔族島に撤退し、岩狼将軍率いる部隊は魔族の支配から完全に解放されました。これで、ウェッセイ国は守れましたね」


「ほ、ほんとに? これで守れたって、言っていいのか?」


 将也は周囲を両手で示す。


 一面、灰の海だった。白黒の地面がただそこにあるだけ。青々とした草原どころか、周囲の森林すら見る影も無かった。


 将也の疑問を受け、目玉が上下に大きく動く。


「はい! 耕作地や居住地が荒らされるのに比べれば、こんな被害は些細なものに過ぎません! というか、これくらいの被害はあったほうがいいんですよ。だから私たちが気に病む必要はありません!」


 目玉は自信満々にそう言うと、瞬時に消えた。


 その直後、代わりにルシア本人が将也とメディの目の前に現れた。彼女はその場で仁王立ちをしながら、聖者二人に満面の笑みを向ける。


「というわけで、ウェッセイ国編は終了です! 将也のステータスはレベル80、体力40、魔力92、力37、速さ80、防御32、戦闘センスBになりました。かなりそだってきましたねー。では、セルトア国防衛線へジャーンプ!」


 ルシアは上機嫌な声で両手を高く上げる。


 見慣れた黄色い光が三人の体を包み込み、彼女たちはウェッセイ国とキターノ国の国境山脈付近の平原から去っていった。




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