第11話 戦争勃発
風聖試験の翌日、大魔法使いルシアの家にて。
この狭い小屋の中で、四人の聖者はテーブルを囲んで静かに立っていた。水聖リーシャ、火聖メディ、地聖アイリス、そして風聖将也は、主人であるルシアの帰りを待っている。
やがて昼になり、暖炉の近くが黄色く光った。
そこに四人全員が目を向ける。光が弾けた後、黒ローブの金髪美少女が姿を現した。
「たっだいま~」
ルシアは能天気な笑顔を浮かべて、右手を高く挙げる。
大陸全土を巻き込む戦争が始まろうとしているのに、彼女には緊迫感の欠片も無い。ただ、主人がシリアスな面を見せないのはいつものことなので、四聖はルシアの態度に何の感情も抱かなかった。
四人を代表して、将也が真剣な表情でルシアに尋ねる。
「それで、セルトア国のお偉いさんは、なんだって?」
「予定通り、キターノ国の攻撃部隊は私たちがソッコーで倒すことになりました。いや~、話の分かる人たちで助かりましたよ~」
ルシアは右手で頭を掻きながら口元を緩めた。
次に、リーシャが真面目な顔で問いかける。
「セルトア国の今の状況は?」
「えーとですね、まずセルトア国の国境は私が即席でバリアを張っておきましたから、ひとまずはキターノ国軍の侵攻を防げてますね。でも、あくまで即席ですから、私と聖者二人の計三人はバリアの維持に回らなくてはいけませんね~」
ルシアは気楽そうな声で言いつつも、肩をすくめた。
三つ目の質問を、メディが険しい顔で投げかける。
「キターノ国の主要部隊はどうなってんだ?」
「大きく分けて三つの侵攻部隊と一つの本国防衛隊ですね。それぞれキターノ国最強の軍人、四狼将と呼ばれる人たちが部隊長です。筆頭の風狼将軍ウィンがキターノ国の防衛に、炎狼将軍アレフが飛竜部隊を率いて東のヒガトン国へ、岩狼将軍マーカスが騎馬部隊を率いて西のウェッセイ国へ、水狼将軍クリスが海上に散らばっていた水軍を集めて南方のサウナン国へ、それぞれ進行中です」
ルシアは大陸地図を空中に青い線で描き映し、状況を説明する。それぞれの部隊の現在地点には四狼将の名前が浮かび上がっている。
「また、侵攻部隊は三魔将の支配を受けています。炎狼将軍には水魔ウィシュチェルが、岩狼将軍には火魔ベルブティが、水狼将軍には地魔ブロスが憑依しています。それらに加えて、本国防衛の風狼将軍は魔王側近の風魔ヤシロに支配されているようですね」
ルシアは将軍たちの隣に魔王軍幹部の名を示す。
これまでの説明を聞いて、アイリスが穏やかな笑みを浮かべて頷く。
「状況は理解いたしました。では、誰が、どの順番で、侵攻部隊と魔王軍幹部を撃破していくのでしょう?」
「まずはショウヤとリーシャで炎狼将軍と水魔を、次にショウヤとメディで岩狼将軍と火魔を、その次にショウヤとアイリスで水狼将軍と地魔を倒した後、私たち五人全員でキターノ国に行って風狼将軍と風魔を倒します。四狼将の戦闘センスは常人では到底たどり着けないクラスのS以上ですから、有利属性でゴリ押します。魔王軍幹部は、聖者には魔族特効があるので不利属性でなければ余裕で倒せるでしょう」
ルシアは地聖の質問に対し、淡々と答えていった。
その内容に、将也は一歩前に出て反論する。
「おい! 俺だけ連戦じゃねえか! どういうつもりだ!」
「まあまあ、ショウヤにしてもらうのはレベリングと相方のサポートですから。主に戦うのはリーシャ、メディ、アイリスですから、そんなに疲れませんって。ショウヤは隣でステータスを上げて、魔族島への殴り込みに備えてください」
ルシアは両手を顔の前で広げて、将也をなだめる。
将也は怒りを抑えたものの、しかめ面のままだった。
「サポート役なのはわかった。でもな、レベリングなら俺をさっさと呼んで雑魚魔族でも倒させてればよかったじゃねーか」
「あー、私もそれを考えたんですけどね……それをすると、魔族狩りの超強い賞金稼ぎ五人組に目を付けられてしまって、面倒なことになるんですよ。しかも、その五人組が魔王側近の風魔に支配されて敵側に回るんです。想像しただけでも嫌でしょう? そんなの」
「ま、まあ、たしかに。そういう理由ならしょうがねえな」
将也は一歩引き、息を吐いて元の顔つきに戻った。
彼としても、できれば戦闘回数は最小限に抑えたいものだった。三回の風聖試験で、特に最後のアイリス戦で、彼は何度も命の危険を感じた。将也だって進んで死にたくはない。避けられる戦いなのであれば、しないほうが絶対に良い。
「聞き分けのある従者で助かります」
ルシアはそう言って満足そうに微笑んだ。
それから彼女は咳払いをし、聖者の四人を見渡す。
「では、これより世界の平和と未来を守るための戦いを始めます! 被害を最小限に抑えるためにも、そして私が石板に刻む文字数を少なくするためにも、ボス敵だけを狙って戦闘を素早く終わらせましょう!」
ルシアは気合を入れて右手を高く突き挙げた。
しかし、この場でやる気満々なのはルシアだけだった。手を突き挙げているのは彼女一人のみ。その他の四人は呆れたような視線を大魔法使いに向けていた。
四聖の気持ちを、将也が代弁する。
「石板の事情が九割くらいあるだろ、それ」
「うるさいですよ! では、ジャーンプ!」
ルシアは将也の指摘を誤魔化すかのように、前触れも無く転移魔法を発動させる。
五人の足元に魔法陣が現れ、それぞれの体が光に包まれて消えた。




