表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/37

第10話 地の聖者・アイリス(3)

「ウィンドカッター!」


 将也は風の刃を射出し、足首に巻き付いていたツタを切り離す。足が自由になると同時に彼は飛び起き、低空を飛行してアイリスから距離を取った。


「フォレストブラスト!」


 将也は着地するや否や魔法発動した。


 森全体に強風が吹く。木々が風にあおられ、その枝葉が擦り合う。アイリスの魔法によって起きていたあの森のざわめきを、彼は風魔法によって再現した。


 常人であれば立つのもやっとな強風の中で、アイリスは微動だにしなかった。彼女は右手で大斧を持ち上げて肩に担ぐ。


「この程度の風で、わたくしがあなたを認めると、お思いですか?」


 アイリスはその場から動かず、落胆した表情を浮かべる。

 そんな彼女に向けて、将也は得意げに口元を上げた。


「ああ、認めさせてやるよ……この程度の風でな!」


 将也は魔力をさらに込めて風を操った。


 その直後、森の至る所で火花が散った。意思を持った風が、森を強く揺らしていく。堅い枝どうしが激しくぶつかり合い、火花の発生が止まらなくなる。やがてそれは発火に繋がり、その火は風を受けて一気に燃え上がった。


 小さな火はわずか数秒で森全体に広がった。涼しく澄んでいた空気も、わずかな時間で灰を含んだ灼熱の空気に変わった。


 アイリスは森の激変に目を見開き、木々を見上げる。


「火!? そうですかこの風で!」

「まだまだ……ウィンドカッター!」


 驚愕する地聖を尻目に、将也は風の刃を射出する。それは周辺の木の幹を次々と切り倒していった。


 燃え盛っている枝葉の部分が、地面に触れる。その炎は地表の植物に移り、短時間のうちに広がっていった。


 森の天井も地面も火に覆われ、火炎地獄と化す。


 将也は風で火を操り、アイリスと自分の周りを炎で囲んだ。これにより、アイリスは植物魔法も使えず、移動範囲も大幅に制限されてしまう。


「あーはっはっはっ! 派手にやってくれますね!」


 アイリスは楽しそうに笑い声を上げ、斧を地面に叩きつけた。その直後、彼女の表情が一転して険しくなる。


「ですが、火を味方につけただけでは、わたくしには勝てませんよ!」


 アイリスは将也に向けて突進する。だが、その速度は火災発生前と比較して明らかに遅くなっていた。


 彼女は斧を二回水平に振るが、将也は後ろに下がることでそれらを難なく回避した。


 間髪入れずに、アイリスが大斧を将也の頭に向けて振り下ろす。

 将也は大きく横に跳んで彼女から離れた。


 超重量の斧が地面にめり込み、強大な振動と轟音をまき散らす。だが、その発生源から遠くに避難していた将也には、それほど脅威にはならなかった。


 彼は炎の壁の近くに着地し、反撃に移る。


「ウィンドファイアー!」


 将也は風を操り、それに火を巻き込んだ。


 火の粉を纏った風が彼の周りを渦巻き、アイリスに向かっていく。


 彼女はその場から動かず、左腕で攻撃を防いだ。火の直撃を受けた左腕では、シスター服の袖が焼け落ち、火傷した皮膚が露わになっていた。


「よし! このまま連撃! ウィンドファイアー! ウィンドファイアー!」


 将也は確かな手応えを感じ、火の風を再びアイリスへと放つ。


 その容赦ない連撃をアイリスは左腕で防ぐが、その顔は次第に苦痛で歪んでいく。


 地の聖者は圧倒的な戦闘力を持つとはいえ、彼女にとって火は弱点属性だ。周りを火炎で囲まれ、火と風の混合弾を立て続けに受けるのは、少々分が悪い。


 アイリスは地面から斧を引き抜き、回避に移った。

 しかし、その直後から追撃を受け、アイリスは歯ぎしりをした。


「ああ! もう! しつこいですねええええ!」


 アイリスは怒声を上げ、反撃を開始した。


 彼女は左手を強く握り締め、魔力を地面にばら撒く。それから間もなくして土の塊が大量に浮かび上がる。それらは拳のほどの大きさがあり、岩石と同等の硬さを持っていた。


 地の聖者は左手を強く振る。

 その直後、土の塊は将也に向けて発射された。


 無数の土弾が襲いかかってくる。将也はそれを目で捉えた瞬間、自らの周囲に火の嵐を巻き起こした。


 迫りくる塊は、その一つ一つが強烈な破壊力を秘めている。それでも、属性の有利不利による影響は大きい。土弾は業火に呑まれて消え、一つも将也に届くことは無かった。


 将也は火のバリアを消し飛ばした。

 それと同時に、彼の視界からアイリスの姿が消えた。


 だが、彼はそれをすでに予想していた。彼はすぐに後ろを向く。案の定、炎の近くにもかかわらずアイリスはそこに転移してきた。


 アイリスは現れた直後、斧を水平に薙いだ。


 空を断ち切るその横撃を、将也はしゃがんで回避した。頭上の空気が乱れるのを感じながら、彼は左手で土を掴む。


 アイリスは水平斬りの勢いのまま体を回転させ、斧を振り上げた。


 そこで、二人の目が合った。


 今度こそ標的を潰そうと、アイリスは目を大きく開いて将也をその眼に映している。一方、将也は目を細め、次の攻撃の機会を冷静に見定めていた。


 そして、アイリスが将也めがけて斧を振り下ろした。


 その瞬間、将也は左手を振り、アイリスの顔めがけて土を放った。


 完全な不意打ちだった。大きく開かれていたアイリスの目に、大量の土が覆い被さる。アイリスは反射的に目を閉じてしまい、斧の勢いが鈍った。


 将也は小さく横に跳んで斧を避けた。


 斧は地面にぶつかるが、その威力は弱く、轟音も振動も生み出さなかった。斧は地面にめり込み、その持ち主に大きな隙ができる。


 将也はアイリスの懐に入る。

 彼は右手を相手の腹に当てて、魔力を込めた。


「しまっ!」

「ウィンドショットおおおおおおお!」


 アイリスが動くより早く、将也は風弾を放った。


 圧縮された暴風がアイリスの腹部に直撃する。その強烈なダメージは胴体だけでなく彼女の全身にまで及び、両手が斧の柄から離れる。彼女の体は浮き上がって後方へ大きく飛び、炎の壁を突き破っていった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 将也の息と火炎の音だけがする。一人残された灼熱の隔絶空間の中で、将也は右手を伸ばしたまま炎の壁を見つめていた。


 そのとき、周囲の炎が一瞬にして消えた。


 将也の視界が明瞭になり、温度も急激に下がって元通りになる。周囲の草木はすべて焼かれ、目の前には灰にまみれただけの平野が広がっている。そして、彼の右手の遥か先では、アイリスが仰向けになって静止していた。



「そこまで! アイリスの背中が地面につきました! よって、ショウヤの勝ち!」



 どこからともなく、ルシアの声が響き渡る。

 その言葉を、将也はすぐには理解できなかった。


 ルシア、リーシャ、メディの三人が将也の近くに姿を現す。彼女たちは皆、誇らしげな顔をしていた。


 将也はそこでようやく状況を呑み込んだ。


「勝った! 勝ったぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 将也は両手を高く突き挙げ、雄叫びを上げる。


 聖者の背に土を付けたことに、彼は大きな喜びを感じていた。しかも、相手が一切の手加減をしていない状態で、だ。リーシャとメディのときはハンデ有りの戦いの上で反則勝ちだった。将也は自分の成長を噛み締めた。


 そんな彼に、リーシャとメディは拍手を送る。


「へぇ、なんだかんだでやるじゃないか。段階を踏ませた甲斐があったというものだ」


「確かにな。つっても、森を焼き払うのは、やり過ぎだと思うけどな」


 そう言って、リーシャは誇らしげに微笑み、メディは呆れたように目を細めた。


 そのとき、突如としてアイリスが飛び起きた。彼女は灰まみれの顔を手で拭い、血走った目を将也に向ける。


「まだです……まだですよおおおおおおおおおおおお!」

「へ?」


 アイリスは金切り声を上げ、将也に向けて突進した。


 風聖試験が終わったというのに、アイリスが襲ってくる。その予想外の出来事に、将也は口を間抜けに開けて彼女を見ることしかできない。


 アイリスが将也に迫る。


 その時、二人の間に半透明のバリアが出現した。急に現れたその壁に、アイリスは頭から激突する。


 アイリスは頑丈なバリアに弾き返され、再び背中から地面に倒れた。


 そこに、ルシアの怒声が響く。


「こらー! アイリス! もう試験は終わったでしょーが! もう攻撃しない! いいですか! あとこの森を早く戻してください!」


「す、すみませんでしたぁ……」


 アイリスは仰向けで目を回しながら、しおらしい声で謝罪した。


 その後、彼女はすぐに復活して立ち上がり、両手を強く握って魔法を発動させた。すると、周囲の地面がうごめき出し、土が灰を取り込み始めた。草木が地面から芽を出し、目を見張る速度で成長していく。そして、数分のうちに森は風聖試験前の姿を取り戻した。


 この森林の劇的な回復に、将也は驚愕で顎が外れそうになった。


 一方、アイリスは額に汗を流しながら、一仕事を終えたかのように爽やかな息を吐いていた。


 彼女は腕で汗を拭い、咳払いをしてから将也に歩み寄った。


「先ほどは失礼いたしました。ショウヤ、見事な戦いぶりでした。わたくしは、あなたを風の聖者として認めます」


 アイリスはそう言って、微笑みながら右手を差し出す。


「改めまして、わたくしはアイリスと申します。大魔法使いルシアの従者の一人、地の聖者でございます。最善の形で魔王を封印できるよう、共に戦っていきましょう」


「あ、ああ……よろしく」


 将也はとりあえずといった形で返事をする。


(戦いの前と後で別人じゃねーかこいつ)


 彼はそう困惑しながらも、その小柄で可愛らしい戦闘狂シスターの右手を取った。相手の目をしっかりと見ながら、二人は固い握手を交わす。



 その直後、ルシアが場の空気を破壊するかのように声を上げた。


「さあさあ! さっきの試験で、ショウヤのステータスはレベル60、体力30、魔力90、力28、速さ26、防御22、戦闘センスBになりました! 若干不安は残りますが、十分に育ったと言えるでしょう! さあ皆さん、さっさと私の家に戻りますよ!」


「ええ!? もう!? もうちょっとレベリングしねえの!?」


「そんな時間はありません! 戦争は明日始まるんですよ! ですからさっさと帰って英気を養いましょう! では、ジャーンプ!」


 ルシアは将也の抗議を跳ね除けて転移魔法を使用した。


 将也、リーシャ、メディ、アイリス、そしてルシアの足元に黄色い魔法陣が現れる。そこから放たれる光が五人それぞれを包み込み、光が弾けると同時に五人の姿は森の中から消えていった。




 そして翌朝、北方のキターノ国が突如として大陸全土への宣戦布告をし、各国への侵攻を開始したのだった。





第一部「四聖編」はこれで終了です。第二部「戦争編」からは基本的に週一更新となります。モチベーション次第では更新頻度や話数が増えるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ