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勇者に討たれた元悪役、回帰して平穏に生きたいのに世界が許してくれない〜ネメシスリバース〜  作者: Tonkye
第一章 元悪役、回帰する

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第3話 心機一転

 俺の人生の分岐点となったあの日、未来の英雄、レオン・ソルブレイドとの、本来なら敗れていた決闘で俺は勝利した。


 代償……。その言葉だけが頭の中に響いた次の瞬間、激しい眩暈に襲われた。


 ああ、やっぱりこれは夢で、漸くそれが終わり、天に帰る時が来たのか……とも思ったが、そうではなかったらしい。

 眩暈はすぐに治まり、周りは変わらず懐かしの闘技場のままだったから。


 であれば、今はこの場を収拾させないと、このままだと傲慢不羈・カイン・ヴェイルハートが、落第ギリギリのレオンを虐めただけになってしまう。


 そこで、俺は改めて宣言する事にした。


「この決闘は、互いの退学を賭けた戦いだったが、俺にその意思は無い! あくまで、自分の秘めた力に気付いてなかったレオン・ソルブレイドを奮起させるためのものだったのだ。よってカイン・ヴェイルハートは、この決闘における勝利に対する褒賞を放棄する事を、ここに宣言する!」


 俺の宣言に、観客は静まり返っていた。 およそ傲慢不羈と畏れられるカイン・ヴェイルハートから出る言葉ではなかったからだろう。


 決闘による報酬は絶対とされているが、勝利した俺自ら決闘の報酬及び代償を放棄すれば、レオンが退学になる必要はない。

 あとは、レオンに自力で頑張って落第を回避してもらうしかない。


 なにより、これで俺は最大の後悔をやり直した。あとは心置きなく夢から覚めるだけだ。


 それが……死、だったとしても。




 ――神歴783年・春季 第129日



 ……翌朝。


「……はぁ、やっぱり夢じゃなかったのか」


 朝、目覚めると俺は、学生寮の自室で目を覚ましていた。


 昨日はあれから、いつ夢から覚めてあの世に旅立つのか……と思いながらも、目覚めているうちは新たな自分を全うしようと過ごした。


 正式に今回の決闘は無効だと教師に告げ、更にはレオンの才能を説明し、退学させるのは愚の骨頂だとも進言した。

 まあ、そこは俺との決闘の際にレオンが将来の英雄たる片鱗を見せた事で、教師陣の評価も一変していたのだが。



 まあそれはそれとして……問題はこの状況だ。


 俺は死ぬ前の走馬灯……夢を見ていたんじゃなかったのか? まさか、本当に学生の頃に回帰したと?


 まてまてまて、そんな事が可能なのか……と考えて、ひとつだけ思い当った。

 あの、レオンに心臓を貫かれて死んだと思っていた時に頭に鳴り響いた言葉。そして、昨日も絶体絶命の中で聞いた声。そして俺が呟いた言葉。



 “――因果、逆転。ネメシスリバース、発動”



 ネメシスリバース……意味は、因果の逆転、もしくは反転。


 決闘の際、俺はあの声の言う通り、どうしたらあの状況を凌げるのかをイメージし、結果的に不思議な現象により勝利を収めた。


 もしかしたら、これはなんらかの攻撃における、俺が受けるハズだったダメージを相手にリフレクト……因果を逆転するスキルなのだろうか?


 いや……このスキルを最初に発動したのは、今思えば死の間際だ。だとすると、俺が回帰したのも……死の運命という因果すらも変えるほどのスキルだというのか?


 あの時、英雄となったレオンに斬られた瞬間に俺の脳裏を過ったのは、過去の後悔と、平穏な生活への渇望。

 まさにかつての決闘の、あの瞬間への後悔であり、もしやり直せるならば平穏に生きたいという強い願いだった。


 それがネメシスリバースのトリガーとなり、過去に回帰したと考えれば?


 考えれば考える程に馬鹿馬鹿しい推論ではあるが、昨日の決闘にてレオンを倒した一件が、この推論が俺の中で完全な誤りだとは言えなくしている。


 そんな破格なスキルに、なんの代償も無いのだろうか?


 ふと鏡を見る。注意深く前髪を見れば、数本の白髪が混じっていた。

 若白髪か……? いや、俺は黒髪だが、間違いなくこの頃は白髪など無かった。


 これが代償? ふと、白髪を触ると、妙に気分が悪くなった。何かを失ってしまった様な……そんな不安を覚えて。



 とりあえずだ。これが本当の回帰なのであれば、俺は人生をやり直す機会を得たのだ。

 それに気付いた瞬間、心が躍り、鏡の前で小さくガッツポーズをしてしまった。


 今の俺には、ネメシスリバースも、その代償も、回帰した現実も何一つ分かっていない。それでも人生をやり直せる喜びの方が勝っていた。


 だとすれば、今後の方針は……当然、傲慢不羈を正し、出来るだけ周りにも優しくする。

 その上で、アカデミーで剣術を磨き、今度は魔法の基礎もしっかりと学ぼう。


 そうすれば、レオンやブレイブハートのオリジナルファイブとまではいかなくとも、ヴェイルハート家の跡取りとして恥じない男には成長出来るだろう。


 そして、ヴェイルハート家の当主となった暁には、望み通りの平穏な一生を過ごすのだ。


 決して無理をしない。間違っても、レオン率いるブレイブハートの面々と共に世界を襲う魔族に立ち向かうなどしない。そんな事したら命が幾つあっても足りないからな。


 ただ、同級生であり公爵家の跡取りとして、全く協力しないのは外聞が悪いから、金銭面や物資面での協力は惜しまないつもりだ。



 そうと決まれば、心機一転。


 傲慢不羈と呼ばれたカイン・ヴェイルハートは死んだ。

 これからは新たなカイン・ヴェイルハートとして、このアカデミーで学生生活を謳歌しようじゃないか!



 ……そう、決意を新たにしていると、隣の部屋からメイド服に身を包んだ女性が現れた。


 身長は高くない。赤髪のポニーテールに白い肌、大きな瞳が印象的な少女……いや、確か俺より年上だったハズだから女性と呼ぶべきか。


 俺の部屋は10階建ての男子寮の最上階、侯爵家以上の貴族が住む事を許されるVIPルームなので、使用人の部屋もある。伯爵家以上の生徒には、使用人を1人付ける事が許されているからだ。


「カイン様、朝食の準備が出来ましたが……」


 昨日もそうだったが、どこかオドオドと、俺の機嫌を伺う様に声を掛けて来たのは、確か専属メイドの……しまった、名前を覚えてない。

 かつての俺は、多分このメイドにも辛辣に当たっていたハズ。それはメイドの萎縮した態度を見れば分かる。


「ああ、ありがとう。着替えたらいただくよ」


 とりあえず、今日からは優しく接しようと、穏やかに返事をする。


「え……? あ、承知致しました」


 するとメイドは、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まった後、慌てて頭を下げて戻って行った。


 かつての俺……どんだけ傲慢だったんだよ。



 キッチリ身支度をし、寝室からリビングに移動する。

 テーブルの上には、パンとサラダとハムエッグに暖かいスープ。一見質素な朝食だが、全てが最高級の素材を用いられており、ハムエッグの火加減もバッチリだしサラダも新鮮だ。なによりこのスープが香りだけでも絶品なのが分かった。


「ありがとう。これは美味そうだ」


「え……? あ、ありがとうございます!」


 俺が礼を言うと、またもメイドはアタフタと頭を下げる。これじゃ逆に申し訳ないな。


「えっと……すまない、これまでの俺は君にも迷惑をかけたと思う。だが、これからは次期公爵家の跡取りとして恥ずかしくない人間になりたいと思ってる。 だから、そんなに畏まらないでくれるとありがたい」


 そう言うと、またもメイドは固まった。しかも、今度は俺を凝視しながら、たっぷりと。


「……なあ、そんなに見られると居心地が悪いのだが」


「昨日から思ってたのですが、あの……傲慢不羈と畏れられたカイン様が、私などに謝罪を? しかも、これからは真っ当に生きると? ああ、これはきっと夢ね。早く起きなさい、アンナ」


 メイド……もとい、アンナは自分の頬を叩き、俺の言葉を夢の中の出来事だと思ってるみたいだ。


 ホントに、かつての俺よ……。



「夢じゃないぞ、アンナ。これからは君に傲慢な態度で接する事はないと誓おう。じゃあ、朝食をいただこうかな」


「え……? カイン様が、私の名前を? あの、貴様の名前など人口数百人の島国に暮らす原住民だけが使う母国語を覚えるよりも無駄だと早口で捲し立てていた、あのカイン様が、私の名前を覚えて?」


 ……かつての俺は相変わらず毒舌だった様だが、それにしてもどんな例えだ? いや、まあ現にアンナの名前覚えてなかったし。


「すまなかった、これからはそんな事は言わない。 だから、今後も宜しく頼む」


「え……? あの、失礼ですがカイン様、昨日は確か決闘されたと小耳に挟みましたが、まさか頭でも打たれたのでしょうか?」


「いや、確かに頭は打ったが、それでおかしくなったとかはないぞ」


 実際に回帰したのが決闘のタイミングだから、アンナの疑問は当たってるともいえるが。



「とにかく、今後とも宜しくな、アンナ」


「え……? は、はい! このアンナ、これまではカイン様が生意気過ぎて一切やる気がなかったんですが、これからは心機一転、しっかりメイドを勤めさせていただきます!」


 いきなり態度を急変させ、満面の笑みで応えるアンナ。なんか……この人、ちょっと変な人だな。


 でもまあ、心機一転という気持ちには同感だ。


 この“やり直し”が俺にとって本当に都合の良い事かはまだ分からない。

 それでも、この時の俺は、平穏で平和な生活を送るべく、人に優しく自分にも甘く生きていくと、希望に満ちていたのだ……。

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