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勇者に討たれた元悪役、回帰して平穏に生きたいのに世界が許してくれない〜ネメシスリバース〜  作者: Tonkye
第一章 元悪役、回帰する

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第2話 ネメシスリバース

 ――神歴783年・春季 第128日



 闇の世界で生きて来た俺、カイン・ヴェイルハートは、英雄となった勇者レオン・ソルブレイドに心臓を貫かれ、その短い生涯に幕を閉じた……ハズだった。


 なのに、今俺は学生の頃の……15年前の決闘の日に戻っていた。



 なんか死ぬ前に変な声が聞こえてたけど……なるほど。多分これは死ぬ前の走馬灯ってやつか?

 それにしてはリアルだし、ピンポイントで俺の人生の分岐点が浮かんでくるとはな。


 なんにしても……せめて死ぬ前の夢の中だとしても、あの日の過ちをやり直せるなら願ってもない機会だ。


 なんとか立ち上がると、レオンは緊張しながらも強い意志を秘めた視線を俺に向けている。


 正直、戻れるのなら決闘前に戻ってくれれば良かったのに、よりによって負けかけてる瞬間かよ。


 本来ならこの時、油断した俺はレオンの反撃を喰らい、一撃で失神したのだ。

 この走馬灯という夢の中では、失神したもののすぐに意識を取り戻した事になっているのだろう。



 なんとか立ち上がったが、観客席はまだどよめいている。そりゃそうだ、学年首席の俺を、学年最下位のレオンがダウンさせたのだから。それほどレオンの攻撃は凄まじいインパクトを観客にも与えたのだろう。


 さて、これが夢なのだとしたら、どう振る舞うのが最適だろう? なんなら、思うがままに全力でレオンを打ちのめす事も可能な状況だ。


 だが、そうはしない。


 ここでレオンを容赦なく打ちのめしたら、以前の俺と変わらないし、それをした所でなんになる?

 俺はもう傲慢不羈と呼ばれた自分を捨てると誓ったんだ。


 正直、この夢の中でだけでもリベンジしたいと思わないでもないが……それではかつての過ちを繰り返す事にも繋がる。


 なら、どう立ち回れば以前の傲慢不羈と呼ばれたカイン・ヴェイルハートではなく、善良とまではいかなくとも、少なくとも無駄に他者から嫌われることの無いカイン・ヴェイルハートとして、この決闘に巧い結末を用意出来るか……。



「……やれば出来るじゃないか、レオン・ソルブレイド。それこそが、おまえの秘められた力だ」


 レオンが真の力を眠らせていた事を最初から知ってた風に語りかけた。


 夢なのに身体は痛むが、この程度なら動けない事はない。こっちは無法者が闊歩する裏社会で15年以上も生きて来たんだからな。


「僕の、秘められた力? 確かに今の一撃は、まるで自分じゃ無いみたいな感覚があったけど……」


 レオンは俺の言葉に戸惑っている。


「そうだ。おまえは素晴らしい素質……それこそ、英雄になれる素質があるのに、これまではそれを活かせずにいた。このままだと今学期で退学になる可能性だってあるだろうな」


 アカデミーでは、1年が3学期制となっており、その学期の成績で基準点に至らずしかも下位3名の生徒は落第として自動的に退学させられる。


 確か、本来ならこの決闘でレオンは覚醒し、首席の俺を倒したことで評価を覆した。

 逆に言えば、ここで俺が普通に勝てば、レオンの未来は変わらず、落第してしまうかもしれない。


 なので俺が考えた作戦は、俺が決闘を持ち掛けたのはレオンが憎いからではなく、彼に奮起を促し、退学を回避させるためだった……という事にするのだ。


「……じゃあ、君は僕が退学にならないよう、こんな荒療治を仕掛けたと? まさか、傲慢不羈と呼ばれる君が……ふざけてるのか?」


 レオンも俺の言葉の意図が分かったのだろう。それでも、これまでの傲慢だったカイン・ヴェイルハートの印象からはかけ離れた言動なだけに、信じちゃいないみたいだ。



「ふざけてなどない。おまえは見事に俺の期待に応えてくれたし、もうこれ以上決闘を続ける理由も無い。ここは、お互いこの決闘を無効に……」


 衣服の乱れを直し、この決闘を無効にしようと提案するつもりだったが、突然観客が騒ぎ出した。


「負けそうになったから言い訳するな!」


「レオン、騙されるな! その傲慢不羈にトドメを刺してやれ!」


 ……ああ、嫌われ者の俺の負けを望んでる奴等がこんなにも多かったとは。


「……カイン・ヴェイルハート。聞きなよ、この観衆の声を。皆が君の傲慢不羈な態度に不満を抱き、その鬱憤を僕に払してくれと言ってるんだ。勿論、僕自身も君に対する恨みがない訳じゃない」


 まいった……。確かにこの頃の俺は周囲にも傲慢な態度で接していたし、レオンに於いては今回の決闘以前にも散々嫌がらせをしていたんだ。

 そんな俺がいきなり、おまえを強くする為に決闘を申し込んだんだ……なんて言っても信じてもらえなかったか。



 さて、どうする? この場で完膚なきまでにレオンを叩きのめし、とりあえずリベンジだけは果たすか?


 いや、例え夢だとしても、死ぬ直前の最後の機会を貰えたんだ。だったら、俺は傲慢だった過去の後悔をやり直す。


 ここでレオンを倒せば、未来の英雄がアカデミーを退学になる可能性だってある。……となれば、彼の英雄となる道に狂いが生じるだろう。

 それは、魔族との戦いにも大きく作用するだろう。


 ならば、本来の予定通り俺がわざと負ければいいのか? ……頭ではそれが正しいと分かっているが、どうしても許容する気になれない。

 それは、後悔の中で過ごした15年後と同じ末路を、俺が辿る事に繋がるのだから。



「……おいレオン。確かに、壁を乗り越えた者だけが、新たな道を拓ける。だが、引き際を弁えないと痛い目を見るぞ?」


「なら、どんな壁も乗り越えてみせるさ! それが、僕の正義だから!」


 やる気満々か……だとすると、とりあえず決闘を続行するしかない。まあ、すぐに追い越されるとしても、現段階ではまだ俺の方が強いハズだから。


 すると、レオンは意を決して飛びかかって来た。


「どこまでも余裕だな……その態度が、いつも気に食わなかったんだよ!」


 今までの俺の嫌がらせに対する復讐か。まあ、自分で言うのもなんだが、結構陰湿な絡みだったのは否定できないからな。


 レオンは物凄い勢いで剣を振るって来た。既に壁を1段階ぶち破った後だからか、その攻撃は凄まじい威力とスピードを誇っていた。

 ……が、俺はその攻撃を躱す事なく剣で弾くと、そのままレオンの脇腹を打ち抜いた。


「がはっ!?」


 今のは確実に肋骨が数本折れただろう。



「正義ね……。いい言葉だが、使う人によっては形が変わる、厄介な言葉だ」


 俺は正義って言葉が嫌いだ。どんな立場でも、どんな悪人ですらも、その人にとっての正義は存在する。勿論、かつての裏社会に染まった俺にも。


 そんな俺の正義は、より強者である勇者レオンの正義によって飲み込まれてしまったのだから。



 吹っ飛ばされたレオンだったが、なんとか立ち上がった。


「クソッ……やはり強い。さっきのはマグレだったのか」


 いや、本来ならさっきの一撃で俺は気絶してたんだ。レオンはこの決闘で確実に強くなっている。


 それでも……。


「分かったか? 今のおまえでは“まだ”俺には勝てない。だが、これから研鑽を積めば、おまえならいつかはこの俺を凌駕する可能性を秘めている。もう一度言う、この決闘はここまでにしよう」


「くっ……」


 レオンは決闘を続けるべきかどうか悩んでいる。 このまま戦っても、俺には勝てないと既に悟っているんだろうが……。


「……僕は引かない。ここで、おまえの様な悪党に屈したら、僕は僕じゃなくなる!」


 ……だよなぁ。どんな状況でも屈しない意志の強さがあったからこそ、コイツは英雄になった。俺を殺したあの日も、きっとこんな目をしていたんだろうな。



「まだ来るか? ……やれやれ、諦めの悪い化け物め。ならばこの決闘、おまえの敗北で終わらせてやる」


 レオンが引かないのなら仕方ない。もう遠慮なくやらせてもらう。


 剣を構え、一気にレオンに斬りかかる。するとレオンは俺の高速の攻撃に対応出来ず、一方的な展開となった。


 腐ってもこの頃の俺は剣術科首席、しかもその上、海千山千の裏社会を支配した経験を積み重ねた俺の剣技は、将来の英雄といえどまだ学生の身分では捌ききれまい。



 ……その時、再びレオンの身体から真っ白なオーラが溢れ出した。


 これこそが俺との決闘で発現した、レオン・ソルブレイドのコモンスキル・“ブレイブフォース”。 

 詳しくは測れないが、このスキルが発動した時のレオンは通常の戦闘力が数倍にもなると云われていた。


「僕は……絶対に負けない!」


 次の瞬間、レオンの振り降ろしを辛うじてブロックしたものの、あまりの衝撃に膝を着いた。


 ちょっと待て。この衝撃……本当にこれは夢なのか?


 この痛み、この空気、あまりにも現実的過ぎる。



 改めて見上げる。確かに、これこそが俺を殺した英雄、レオン・ソルブレイドの姿だ。

 まだ若く拙いとはいえ、ブレイブフォースという勇者のオーラをその身に纏い、最後の一撃を俺に放とうと、レオンは木剣を振り上げた。


 その動きは、将来の英雄の姿と……俺を殺した姿と重なった。

 今回もまた、避けられないと感じたその瞬間、俺は自らの敗北を悟る。



 ……ふざけるな。これは死ぬ前の、あの時の後悔をやり直させてくれる機会じゃなかったのか?


 違うとしたならば、なんで再びこいつに倒されなきゃならないんだ?


 この頃なら油断しなければ勝てるなんて思っていたが、結局俺は舐めてたんだ。レオンを退学させないように上手く戦えると……つまりは、また同じ過ちを繰り返したのだ。


 これじゃあ、あの時と同じじゃないか。


 また負けるのか?


 また人生を奪われるのか?


 またこいつの背中を見るだけで終わるのか?


 ……嫌だ。またあの後悔を抱くくらいならば、レオンの脳天に、俺の渾身の一撃を喰らわせたい!



『……さあ、解放しろ!』


 そう強く願った瞬間、頭の中に声が響く。


 また、あの声……やっぱり、これは夢じゃなかったのか!?


『イメージしろ……そして、発動しろ! ネメシスリバースを!』


 ネメシスリバース? 確か、死の間際にもそんな言葉を聞いた。


 確かにあの時、俺は“何か”を発動したんだ。



 ……次の瞬間、俺の脳内に、明確なイメージが浮かんで来た。それは、この窮地を乗り越えるためにどうすればいいのか……というイメージ。


 そして、俺は呟いた。あの時、頭の中に響いた言葉を。



「因果、逆転。ネメシスリバース、発動」



 すると、レオンが振り下ろした剣が俺の脳天に直撃したかと思った瞬間、何故かレオンが脳天を打ち抜かれたかの様に、地面に倒れたのだ。


「なっ!?」


 俺自身、何が起こったのか理解出来なかった。なのに、俺の頭の中には……そうなる事が必然だったかの如く、イメージだけが残っていたのだ。


 本来なら俺が受けるハズだったダメージ(因果)を、レオンが受ける(逆転)イメージが。


 レオンは自分の渾身の一撃によるダメージを喰らって、完全に気を失って倒れた。


 どこからか出現した、舞い落ちる黒い鳥の羽根と共に……。



 訳がわからない……。でも、この決闘に、俺は勝ったんだ。


 ネメシスリバース(因果逆転)。もし、これが自分の受ける衝撃をリフレクトするスキルだったとしたら、俺はとんでもないコモンスキルを手に入れたのではないだろうか?


 俺が受けるハズだった攻撃(因果)が、俺の思い描いた現象イメージを、俺の意志や過程を吹っ飛ばして実現(逆転)する……そんな、理解の及ばないスキルを……。



『カッカッカッ……』


 嘲るような声が、確かに聞こえた。


『……その代償を、忘れるな』


 ……代償?


 今、何か重要なことを言われた気がした。


 だが、その内容が、どうしても思い出せなかった。

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