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勇者に討たれた元悪役、回帰して平穏に生きたいのに世界が許してくれない〜ネメシスリバース〜  作者: Tonkye
第二章 英雄への未練

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第24話 婚約解消

 騎士団本部の医務室にて目を覚ますと、医務員さんが手当をしてくれていた。

 そして、ギルベルトからの言伝で、俺は騎士団訓練に参加する必要は無い……と言われた。


 ……そうか。ギルベルトは最後まで俺を認める発言はしなかったし、肩に一太刀浴びせる事は出来たが、その表情は余裕そのものだった。

 その後も一方的に攻撃したが全て完璧に捌かれた。あれだけの差を見せつけられたのだから、改めて立ち会った俺への評価は、剣聖のお眼鏡に掛からなかったと思うしかない。


 自分から頑なに訓練への参加を拒んでいたのに、これじゃただの勘違い自意識過剰野郎じゃないか。



 医務員さんに丁寧に御礼を言い、騎士団本部を後にする。


 ……ああ、終わったなぁ……俺の、英雄への道。


 レオンや、エレナや、ミラや、マリウ……俺は、アイツらとは並び立てるような器じゃなかったんだ。


(……おまえさ〜、世界中でどれだけの人間が、剣聖相手に一太刀入れる事が出来ると思ってんだ?)


(少なくとも、成長したブレイブハートの主要メンバーなら、全員一太刀どころかぶっ倒してしまうだろうよ)


(おまえ……まあいいや。これ以上オイラがおまえの未来に干渉するのはルール違反だから)


 それっきり、ネメシスはどこかに飛んで行ってしまった。……薄情なカラスめ、もう少し慰めてくれよ。



 トボトボと歩いて寮の前まで帰って来ると、玄関の前でエレナが俺を待っていた。


「あ、おかえりなさい、カイン様。今日はアカデミーを休んでどこかに行ってたのですか?」


「まあ、ちょっと騎士団にな」


「もしかして夏季休暇の騎士団合宿の件? 断ったと聞いてましたけど、参加するのですか?」


「いや、あちらから丁重にお断りされたよ。器じゃ無いってさ」


「……冗談でしょう? カイン様が器じゃ無いというのなら、他に誰が該当するのですか?」


 回帰前のエレナは、学生の頃から俺に対して憎まれ口しか叩かなかったのに、今は随分過大評価してくれているな。

 これも俺に15年の経験があった分、下手に才能があるって勘違いさせちゃったからなんだろうな。



「まあ、とにかくこれで心置きなく故郷に帰れる事になった。明日でアカデミーは1学期の終業式だし、明後日にはヴェイルハートに旅立つよ。エレナも実家のアストレアに帰るんだろう?」


 すると、エレナが満面の笑みを浮かべる。


「それがですね、御父様とも話して、夏季休暇の間はヴェイルハートの家にお世話になる事になったんです。その……花嫁修行の一環として」


 いつもは氷の女王と呼ばれる美少女が、頬を染めて照れている姿を見て、心臓を撃ち抜かれない男が何人いるだろうか? まあ、俺はその少数派の方だけど。


「なあ、エレナ。俺の人生の目標は、平穏に生きる事だ。国のために戦って英雄になろうとも、今以上に出世して偉くなろうとも思ってない。おまえは将来、大魔導師にもなれる才能があるんだから、結婚なんかより英雄の道に進んだ方が良い……いや、世界のためにもそうしてくれ」


「大魔導師? 英雄? ……う〜ん、私も別にそんな大それたものになりたいと思わないですわ。愛する人と一緒なら、平穏な生活も悪くないですし」


 そうか……もしかしたらエレナも、英雄になりたくてなった訳じゃなかったのか。

 そういえば、回帰前は禁書騒動をレオンと聖女に解決してもらったから、負い目からブレイブハートの一員になるのを断れなかったのかもな。


 今回は負い目もないし好きな人生を歩んでも……いや、それだと魔王から世界の平和が守れなくなるかもしれない。


「とにかく、おまえはこのまま魔法の腕を磨き、大魔導師として魔法を極めてくれよ。必要なら、俺も全面的にバックアップするしな」


「貴方が全面的に支援してくれるというなら考えないでもないですけど、大魔導師って9サークル以上にならなければいけないのですよ? 現在存命の魔術師で9サークルに到達しているのは、かの有名な“帝国の魔女”ただひとりなんですから」


 帝国の魔女ね……。ちなみに、帝国は魔王が現れた際、真っ先に戦いを挑んで壊滅的な敗北を喫する事になる。帝国の魔女も、その戦闘の際に死亡したハズだ。


「そんな高みに辿り着ける才能が、エレナにはある。俺が言うんだから間違いない」


 まあ、実際に俺は未来を知ってるしな。



 ……って、気が付いたらエレナが涙を拭っていた。え? なんで?


「……まさか、カイン様が私の事をそんなにも、評価してくれていたなんて……。私、本当は、カイン様は私との結婚を望んでないのかと思ってました。でも、こんなにも私を気に掛けてくれていたのが嬉しくて」


 いや、結婚は本当に望んでないけど……とは、死んでも言えない状況。


 多分、エレナは本心で俺の事を想ってくれていると知ってしまったからには、一方的に婚約を破談する訳にもいかないだろう。

 そりゃあ、エレナ程の美人に好かれてたなら悪い気はしないというより、嬉しい気もする。

 だが、もし俺と結婚してヴェイルハート家に嫁入りなどしてしまったら、ブレイブハートから貴重な戦力が欠けてしまう。世界が崩壊したら元も子もないのだ。


 ならどうする? なんなら、いっその事結婚してしまい、夫としてエレナをブレイブハートに参加するよう促そうか?



 だが……ここで、俺の心の中に変化が起こった。


 世界の平和のためとはいえ、こんなにも俺を慕ってくれているエレナを、最も危険な戦いに送り込む行為が、どこか道具の様に扱っているのではないか、と。


 自分は戦わず、安全圏から見守るだけの夫……そんな最低な男に、俺は自らなろうとしてるんだ。


 少なくとも、以前の俺はエレナに対して特別な感情はなかったし、むしろ回帰前にも散々難癖をつけられていたと思い込んでいたから、どこか苦手意識があった。

 だが、禁書に身体を奪われそうになったエレナが最期に残した言葉に……俺なんかの事を、本気で想っていてくれたのだと知らされてしまった。


 もう、エレナの事を魔王を倒すための要素だけとは思えなくなっていたんだ。



「……気にかけるも何も、おまえ程優秀なら嫌でも情報は入って来るからな。それに、俺は父上にも嫌われてるし、まだ当主になれるかも不透明な状態で、伯爵家令嬢との婚姻関係を継続するのは本意ではない」


 ……突き放そう。


 回帰前は、俺が勘当された事でなし崩し的に婚約が解消されてしまったから、エレナにも未練が残ったのかもしれない。

 なら、明確に、俺の意志で婚約を解消すれば、エレナならいずれ俺への気持ちを断ち切り、立ち直ってくれるだろう。


 後は……ブレイブハートに加わろうが加わるまいが、エレナが決める事だ。


(……本当に、それでいいのカ? そんな無責任な男じゃねえだろ〜? おまえは)


 このカラス、いつの間に戻って来たんだ?


(買い被り過ぎだ。俺は元々傲慢不羈のロクデナシだぞ? 自分がエレナを戦地に赴かせるなんて重荷から逃げ出すだけだ)


(はいはい、そうかよ〜。ま、せいぜい頑張って無関係だと言い張りな。多分、おまえにゃ無理だよ)


 無理か……。無理かもな。だったら、もしエレナが困った時は、俺に出来る範囲で気付かれない様に助けてみせるさ。

 一方的にエレナの想いを無碍にするのだから、それが俺の償いになるのならば。



「そんなの関係ないわ。私は例え貴方がヴェイルハート家を追い出されても、決して……」


「貴族にとってそれがどれだけ愚かな事かは、伯爵家令嬢のおまえには理解出来るだろう? 下手すれば、俺がおまえの親に殺されるかもしれないんだからな」


 氷の女王と呼ばれるエレナが、表情を歪めて涙を流している。

 そして、エレナにそんな顔をさせてしまってるのは俺だ。俺なんかが……。


「もう、距離を置こう。今後は、アカデミーでも俺に近寄らないでくれ」


 それでもだ。俺には、エレナの人生を背負う覚悟は無かった。

 回帰して、二度目の人生を上手くやろうと思ってたのに、何ひとつ上手くやれてないんだから。



 エレナの涙を見ているのが辛過ぎて、俺は寮に入って行った。


 これでいいんだ、これで……。



 ――神歴783年・夏季 第32日



 翌日、アカデミーは1学期の終業式を迎えた。


 夏季休暇の間、レオンは騎士団の訓練に参加する事が決まっていて、結局俺が参加しない事を嘆いていたが、まあ、そんな事忘れるくらいに、ギルベルトによるハードな特訓を受ける事になるだろう。


 ミラもまた、騎士団の訓練に参加するみたいだ。むしろ騎士団の現団長は父親だし、ギルベルトととも親戚関係なので、以前から騎士団には入り浸っていたらしい。

 今回、レオンが参加すると聞いて闘志を燃やしているようだが、やはり俺が参加しない事に抗議していた。


 マリウは実家の商会の本店が王都にあるので、そこでアルバイトをするらしい。


 エレナは……結局、終業式には来なかった。


 前日の俺の言葉がショックだったからなのは想像出来たし、俺も心苦しかったが、それが俺たちの為なのだと言い聞かせた。



 ――神歴783年・夏季 第33日



 そして、いよいよヴェイルハート領に帰る日がやって来た。


 本当は嫌だったのだが、メイドのアンナを従えて王都の別邸に帰郷の挨拶に向かう。


 幸いな事に父は公務でいなかったが、出迎えてくれたバルザックからとんでもない事が告げられた。


「……えっ!? バルザックも着いてくるのか!?」


「ええ。旦那様からは、御坊ちゃまが次期当主に相応しいか見定めてくれと申し付けられておりますゆえ」


 最近は当主の傍を離れる事がなかったバルザックが、まさか俺に着いて来るとは……。


「代わりに、御坊ちゃまの夏季休暇中はアンナにこの別邸に残っていただきます」


「了解です、バルザック様!」


 アンナも突然の事だったろうに、あっさりと承認していた。



「ふぅ、父上なりの嫌がらせか何か? まあ、別に良いがな」


「私の存在を嫌がらせとは、寂しい事を言ってくれますなぁ。御坊ちゃまが幼い頃、おねしょのシーツを交換までした私を……」


「いつの話をしてるんだ!?」


「それにしても、そのおねしょの形がまるで世界地図の様で、御坊ちゃまはいずれ世界を股にかけてご活躍をするのだろうと期待したものです」


 黙らせたい! このジジイの口を! でも、殺されたくないから無理!


「とまあ、冗談はさておき、私は後ろの馬車に乗って行きますので、御坊ちゃまはごゆるりと……」


 バルザックの深みのある笑顔が不気味だったが、気にしない事にして馬車に乗り込んだ。



「……あっ?」


 すると、既に馬車には先客がいた。


「それではカイン様、参りましょうか」


 満面の笑みで俺を見つめていたのはエレナだった。これがバルザックの笑みの正体か!


「な、なんで?」


「事前にお伝えしてましたよ? 花嫁修行の一環として、ヴェイルハート家にお世話になると」


「いや、でも……」


「まだ当主になるか分からないから婚約を解消すると言われましたが、心配しなくとも私が必ずカイン様をヴェイルハート家の当主にして差し上げます。それなら、婚約を解消する必要はありませんよね?」


(……やっぱりな〜。おまえの目論見はいつも失敗に終わるんだよ〜。カーッカッカッ)


 忘れてた……。エレナは、例え婚約が解消されていたとしても、勘当されて裏社会に堕ちた俺を最後まで連れ戻そうとしていたほどに頑固だったんだ。


「……まったく、こんな傲慢不羈と呼ばれる男と一緒にいても、なんの得も無いだろうに」


「……ついこの間までの貴方なら、婚約破棄もほんの、ほんの少しだけなら考えたかもしれません。でも、今の貴方は違います。貴方は変わろうとしている。なら、その隣でサポート出来るのは、私しかいないと確信してますので」


(カッカッカ! 諦めて流れに身を任せな〜。それにおまえ、笑ってるじゃねえカ〜)


 え? ……言われて気付く。


 俺は、エレナがここにいる事に、あんな事を言ったのに諦めずに俺を支えてくれようとしている事に、内心では嬉しかったのだ。



 馬車に乗り込み、エレナと向かい合わせて座る。


「……仕方ない。でも、あくまでも結婚は保留だ。せいぜいこの機会に、俺に愛想をつかせるがいい」


 今回の婚約解消は、未来の事を考えれば必然の決断だった。なのに……その決意は、たった2日で揺らいでしまった。原因は……。


「ハイ。せいぜい私に愛想をつかさせられるものならつかせて下さいませ」


 ……そう。このエレナの笑顔が、もう少しだけ彼女と一緒にいたいと思わせたから。



「あと……名前。いつまでも様付けされるとむず痒いんだよ」


「あ……ハイ。分かりました、カイン」


 この時、窓から差し込む光に照らされて、嬉しそうに俺の名を呼んで笑みを浮かべるエレナから、俺は目を逸らせなかった。


 自分の心の中で、エレナの存在が確実に大きくなっていた事に、俺はまだ気付いていなかった……。

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