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勇者に討たれた元悪役、回帰して平穏に生きたいのに世界が許してくれない〜ネメシスリバース〜  作者: Tonkye
第二章 英雄への未練

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第23話 本心

 禁書を取り込み、古代魔法・波動を手に入れてから約1ヶ月、俺は地道に波動の訓練を続けていた。


 まず、破壊の波動は、物理属性魔法だ。


 範囲と威力を調整する事により、オーラと魔力が混ざり合った白い球体を、最小で拳サイズから最大でその10倍の大きさに調整できる。

 効果は、小さければ小さい程強固になり貫通力が上がる。逆に大きくすると貫通力は下がるが、着弾時に爆発を起こせる様になり、状況に合わせて使い分けが可能。

 何度も使ってみて分かったが、どちらかというと魔力よりオーラを消費する感じなので、魔力よりオーラの扱いに長けた俺にとっては使い勝手の良い魔法だ。


 対して渾然の波動は、4大属性混合魔法だ。

 混合とは言ったが、それぞれ単独の属性として使用可能だし、例えば火と風を組み合わせたりした混合魔法としても使える。

 威力も調整出来るので、状況に合わせて多様な使い分けが可能。

 こちらは破壊の波動と異なり、本来の魔法を使う魔力を多く消費する。


 破壊の波動は攻撃特化で個人的に相性が良いし、渾然の波動は魔法の基礎が疎かだった俺でも、実質4大属性を操る魔術師と同等の力を得た。



 渾然の波動・火の攻撃、これもギルベルトに防ぎ切られた。


「小僧……御主、一体何者だ!」


「平穏に生きたいだけの、只の学生ですよ」


 貫通力高めの破壊の波動・小は、発動時間も短く、連射が可能。

 遠距離から渾然の波動・土属性で足止めし、破壊の波動を連射。

 本来なら鋼鉄の盾でも貫通する破壊の波動・小だが、ギルベルトは冷静に盾の角度を調整しつつ後ろに逸らしている。


 ならばと合間に破壊の波動・中を放つが、これも盾でしっかりと防御された。


 流石は鉄壁の剣聖、盾の扱いがヤバい。


 そもそも、剣聖評価で7サークルの魔法を物ともしない時点で、この人もまたブレイブハートのメンバー同様、人外レベルだな。


 ブレイブハート冒険記でもギルベルトの記述があったが、今から6年後、剣聖の名を賭けてミラと一騎討ちをして敗れたのを機に、一線を退いたと描かれていた。

 6年後だから今より少しは衰えていたのかもしれないが、それでもこんなのに真正面から剣で勝つって、ミラの奴も相当だな。



 なんにせよ、人外ではない俺はというと、禁じられた古代魔法である波動を使ってるのにもかかわらず、全然ダメージを与えられていない。

 やはりあの防御を突破するには、イチかバチかの接近戦を仕掛けるしかないか?


「どうした小僧、これが限界か?」


 ギルベルトの身体からオーラが溢れ出している。その圧倒的な威圧感……俺で7オーラだとしたら、この人は回帰前のレオンと同じ9オーラはあるんじゃないか?

 あんなのと接近戦? いやいや、命が幾つあっても足りないぞ?


「御主の魔法には驚いたが、そろそろ、その刀で向かって来い!」


 どうする? このまま遠距離から攻撃しても、鉄壁の防御を崩せる自信がない。7サークルって、結構凄いハズなのに……相手が悪過ぎたか?




《ギルベルト視点》



 7オーラと7サークルか……。


 属性魔法に関しては、それ程驚異では無い。まだ使いこなせていないのだろう。

 だが、無属性? もしくは物理属性と思わしき魔法は、威力・精度共に驚異的だ。相手がワシでなければ、遠距離からこの攻撃を繰り出すだけで大抵の実力者でも完封出来る程だ。


 実際、小さい方は少しでもポイントを見誤れば、オーラを纏わない状態のワシであれば身体ごと貫通してしまうだろう。

 あくまで余裕を装っておるが、さっきから背筋に嫌な汗をかきっぱなしなのだ。


 それでも、カインはまだ若い。奴にはワシが余裕で全ての攻撃を弾き返してると見え、自分の攻撃が通用しない、と思っているのだろう……そう、表情に出てしまっている。

 正直言って、魔法に関しては学生の年齢でこの域まで到達する者など、このワシの記憶にも無いのだがな。


 であれば、あの歳で7オーラに到達した奴の剣の腕も見てみたい。


 カイン・ヴェイルハートが、一体どれだけの潜在能力を秘めているのかを!




《カイン視点》



「さあ小僧! 御主のチマチマした魔法にも飽きた。ワシに勝ちたくば、正々堂々、剣で勝負してみろ!」


 あんなのと接近戦……いや、勝てるビジョンが見えない。

 でも、頼みの綱だった波動が一切効かず、ジリ貧なのは事実だ。


 クソッ、波動を手に入れて、俺もブレイブハートの一員になれるかもなんて、やはり俺の愚かな妄想だったか。



 ……いいさ、ならば気持ち良く玉砕して、英雄なんてキッパリ諦めて、これからは平穏に生きる事だけに集中しよう。


 刀を鞘から抜く。公爵家の財を使って、マリウに頼んで取り寄せた最上級品だ。ハッキリ言って、回帰前に使っていた刀よりも上等な一品だ。

 これで敵わなければ、所詮俺はその程度だったって事だ。



「お望み通り、刀で相手してやるよ」


「いよいよか……さあ、来い!」


 ミラ程ではないが、俺も縮地に似た技術は使える。一気に間合いを詰めて斬りかかるのがセオリーなんだろうが、裏社会で技を磨いた俺のセオリーは違う!


 刀ではなく、蹴りでギルベルトの盾をズラし、隙間を狙って刀を一閃。

 ギルベルトはロングソードでこれを防いだが、続けて二の太刀、三の太刀、四の太刀で首元を目掛けて振り抜いたが、防がれた所で離脱。一旦間合いをとった。


 奇襲も交えて斬りかかったのに、全て防がれた。クソッ、やっぱり剣も全然通用しない。


「フフフッ、どうした? その程度でよく剣聖であるワシに勝とうと思ったな?」


 とことん余裕か……。こんな化け物に勝負を挑んだ自分が嫌になる……。もう、謝った方が良いかな?




《ネメシス視点》



 もう、謝った方が良いかな? ……なんて思ってる顔だな。カインはどれだけ自分の事を過小評価してるんだ?

 剣聖の顔は、余裕を装っているだけで冷や汗をかいてるではないか。よく見れば全然余裕などないのだと気付けるだろうに。



 それもこれも、回帰前の自分……つまり、どれだけ努力しても、自分の最高到達点はその頃の自分、レオンに秒殺された程度にしか成長出来ないと諦めてるからなのだろうな。


 だが、英雄ではなかったとしても海千山千の裏社会を支配していたのだから、回帰前も充分な実力者だっただろうに。

 だからこそ、今は経験のアドバンテージがあるだけで、結局自分はこれから成長するブレイブハートのメンバーには敵わないと思い込んでおる……。


 波動を手に入れて少しだけ自信がついたから、今回剣聖に勝負を挑んだ。そこまでは良かったが、逆に自信を失ってたら駄目ではないか……。


 そんな事では、これから御主を待ってる因果を乗り越えるなど到底無理だ。平穏な生活? そんなもの、既に大きな因果律の中心にいる御主に訪れる訳ないんだから。


 ……まあ、本人には絶対に言わないがな。



 さあ、見せてみよ! 世界を救うのは、英雄じゃない。カイン・ヴェイルハートなのだと、因果の管理者であるこの我に証明してみせよ!




《カイン視点》



『ウジウジするでない! 見せてみよ、因果に抗う姿ヲ!』


 ネメシス!? やっぱり見てたのか。だからって、この状況で俺にどう抗えっていうんだよ!


「むっ、カラスか……にしても、異様な雰囲気を漂わせておる。ただのカラスではないのか?」


 ギルベルトの意識が一瞬だけネメシスに向けられる。


 卑怯でもなんでもいい、このチャンスをモノにする!


 破壊の波動・大を発動。ギルベルトは直ぐに盾で対応したが、爆発に巻き込まれる。

 その隙に接近し、剣聖の脳天に刀を振り下した!


 ……俺の刀はギルベルトの盾を僅かに擦り抜け、その刃はギルベルトの肩にめり込んだ。


「……クソッ、やっぱり俺じゃ無理か」


 ……が、俺の渾身の一撃は、ギルベルトに致命的なダメージを与えるには至らなかった。



 至近距離でギルベルトと目が合った瞬間、俺は悟った。やっぱり、俺に英雄は無理だと。それでも……。


 次の瞬間、ギルベルトの拳が飛んで来たが、辛うじて飛び退く。刀はギルベルトの肩に残したまま。


「黙ってやられる訳にはいかないんだよな」


 間合いをとり、考える……まだ、俺は戦えると。



「ぐぬっ……まさか、このワシがこれほどの痛手を負うとはな。いつぶりかも覚えておらぬわ」


 ギルベルトは肩にめり込んだ俺の刀を引き抜くと、ご丁寧に俺の前に投げてよこした。


「さあ、刀を拾え。そして、今一度この剣聖と打ち合ってみせよ」


 ……はぁ、人外ってのは、どうしてこうも戦闘狂が多いんだ?


「こうなりゃ、特攻するしかないか」


 剣聖相手に近接戦で勝てるなどと思っちゃいない。さっきの奇襲が失敗に終わった時点で詰みなんだから。


 それでも……俺はこの一戦に賭けたんだ。俺が、英雄になれる器なのかを。


「さあ、来るがいい……カイン・ヴェイルハート!」


 ああ……やってやるよ、裏社会を支配した俺なりの戦法が、どこまで通用するのかをな!




《ギルベルト視点》



 ……足元に、気を失ったカインが前のめりに倒れている。


 最期は、カイン渾身の一撃を盾で跳ね返し、腹に風穴が空く程の拳をめり込ませてやった。



「ぐっ……がはっ!?」


 斬られた肩の痛みで膝を着く。この剣聖が。


 カインの刃は、あと数センチでワシの心臓に到達していた。もし、オーラを肩に集中させて勢いを殺せなかったら、ワシの身体は左肩から真っ二つに斬り裂かれていたかもしれん……それくらい、鋭く重い一撃だった。


 そして、その後のカインの攻撃は、まるで正道とは言い難い剣だったが、その鋭さ、巧妙な罠、小賢しい動き、全てが高次元な邪道の剣だった。

 一体、どこでこんな剣を学んだのか知らないが、この剣聖を苦戦させたのだから大したものだ。



 カインには内密に待機させていた医療班が、ワシの肩に回復魔法をかけ始める。


 恐ろしい……恐ろしい才能。老いたとはいえ、学生の身でこのワシをここまで追い詰めるとは。


 もし、カインがもう少しだけ経験を積んでいれば、いや、今であっても自分の力を信じ切っていれば、ワシは今頃あの世に旅立っていたやもしれぬ。



 聖女の神託は、レオンを英雄に選んだ。ワシは、神託がカインを見落としたのだと思っていた。

 だが、それすらも違う。カインは、見落としようがない程の存在だ。


 だとすれば、カインには英雄としてではなく、もっと別の役割があるのかもしれぬな。


 なら……ワシはもう、無理にカインを鍛えようなどと思うまい。

 この男は、どう足掻いても頭角を表すだろう。既に、現時点ですら規格外と呼べる存在なのだから。



 渾身の拳を腹に受け、気絶しているカインを見ながら思う。


 時が経ち、いずれ来るだろう魔族と人類が雌雄を決する場に、この男がどういう立ち位置でいるのか……ワシらはただ、それを見守る事しかできぬのであろうな……。

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