第22話 己を証明する戦い
……結局、あの場に居づらくなった俺は、早々に寮に帰って来た。
あまりに早い俺の帰りにアンナは驚いていたが、いつもの親子喧嘩だと伝えたら納得していた。
ベッドの上に寝転がり、回帰してからの、そして今日の父との再会の事を考えていた。
(俺の言葉は凶器……か。そういや、おまえもそんな事言ってたな、ネメシス)
(……まあ。だが、周りはともかく、傲慢不羈だった頃の言葉と今の御主の言葉は、明確に違うとオイラは思ってるけどな)
(ハッ、もしかして慰めてくれてんのか?)
(回帰してからは基本的にポジティブだった御主が、珍しく落ち込んでるからな)
落ち込んでるか……。そりゃ、回帰して生まれ変わり、今度は父とも上手くやろうと思ってたのに、結局はなんにも変えられなかったからな。
回帰前……父は俺を勘当した時、人の痛みが分からない者に、家は継がせられないと言った。
その後……裏社会では、人の痛みなど気にしていたら生きて行けないと悟り、父の事を理想主義の甘ちゃん野郎なんて思いもした。
だが、俺が勘当されてから5年後……後に分かることだが、魔王の手下がヴェイルハートの領地と王城の両方に潜り込み、様々な問題を起こした後、全ての罪を父に擦りつけた。
父は最後まで無実を訴えたが、魔王の手下は狡猾に国の中枢に味方を増やし、結局父の訴えは届かなかった。
ヴェイルハート領は、王国最大の交易都市だ。当然、その利権を欲する者は大勢いた。そこを、魔王の手下に突かれたのだ。
当時は5歳離れた弟である【アイン】が次期当主としての教育を受けている最中だったが、アイツは俺と正反対の優しくて気弱な性格だった。
まだ未熟だったセインは、父が失脚した時も何も出来ず、事の顛末を黙って眺めている事しか出来ないまま無実なのに牢獄へと送られてしまった。
その時の俺は、俺が次期当主になっていればこんな事にはならなかったと、自業自得だと父を嘲笑うと同時に、やはり自分の家だった場所が消えてしまった事にやるせなさも感じでいた。
そして、あれは何度目かのエレナが俺を連れ戻しに来た時の言葉だった。
父は、悔い改めて俺が戻って来るのを待っていたし、その準備もしていた……と。
その時は、何を都合の良い事をと一笑したが、後にとある件で、父が本当に俺が更生してくれるのを死ぬまで待っていた事を知り、自分の不甲斐なさを嘆いたのだ。
(だからこそ……今度は、親孝行とまではいかなくとも、もう少し良い関係を取り戻せたらと思ってたんだがな……)
(ふむ、オイラから言わせてもらうと、御主は変わったぞ。周りからはまだ怖がられてるが、それでもエレナやレオンから好かれてるじゃね〜か。それが御主の意図していない展開だったとしても、御主が変わらなければミラもマリウも、御主の事など気にもしない人生を送るハズだったのだからな)
ブレイブハートのメンバーとは関わりたくないとは言いつつ、実際はアイツ等に慕われてるかもしれない現状に満足している自分がいる。
アイツ等と下手に関われば、俺も魔王との戦いに巻き込まれるかもしれない。
今は回帰前のアドバンテージがあるが、ブレイブハートのメンバーは正真正銘の化け物なんだ。波動を習得したとはいえ、既に成長限界を迎えている俺では、この先の戦いにはついて行けないのは分かりきってる。
……なのに、もしかしたら、俺もブレイブハートの一員として、英雄になれるかもしれない……なんて、淡い期待を抱き始めている。落ちぶれて、裏社会に堕ちたこの俺が。
いつまでも未練がましい自分が嫌になる。なら、その未練を断ち切るか。
(それにしても、今日は随分と優しいじゃないか? いつもそうだと嬉しいんだがな)
(オイラはあくまで因果の管理者。しょぼくれたままの御主を見てるより、ど〜しようもない事に悩んで、足掻いてるおまえを見てる方が楽しいしんだよ)
(前言撤回。おまえはやっぱり薄情なカラスだよ)
――神歴783年・夏季 第31日
翌朝……俺はアカデミーをズル休みし、ソルディア王国騎士団本部……剣聖ギルベルトの下へと足を運んでいた。
「ほう、まさかこんなに早く会いに来るとはな、小僧」
「ええ、小狡い方法でウチの父を言いくるめてまで俺に会いたいのかと、気を使いました」
「相変わらずムカつくガキだな。で、騎士団の訓練に参加する気になったのか?」
「それは、貴方が俺に勝てたら考えようと思います」
年老いたとはいえ、まだまだ現役の剣聖と呼ばれるギルベルトに勝つなど、今の俺ではとても難しい話だろう。
英雄になれるかもしれない……そんな未練を断ち切るには、今の俺の可能性を確かめるしかない。
その相手として、レオンの師匠となるこの男は絶好の相手だ。
もし、ギルベルトを越える事ができれば、俺も胸を張ってブレイブハートの一員になれるのかもしれない。
もし、無様に負けたのなら……やはり俺はその器ではなかったとキッパリ諦め、平穏に生きる事にしよう。
「……面白い。だが、ワシはおまえが相手したチーズとはレベルが違うぞ? まあ、おまえを鍛えられるのならば、相手してやらんでもないがな」
「鍛える? 口でやられた仕返しに虐める、の間違いではないんですか?」
「とことん口の減らない小僧だ。なら、今からたっぷりと虐めてやろう」
ニヤリと笑みを浮かべるギルベルトの目は、既に獲物を捕える野獣の目に変わっていた。
「良いですよ。口で負けて、戦っても負けたなら、剣聖の看板は下ろしてもらいますよ」
◆
そして、俺はギルベルトに人払いをお願いし、たったふたりで騎士団の闘技場で向かい合っていた。
「……ほう、刀か。珍しい得物だな」
今回俺が選んだ武器は刀。東洋の島国発祥の武器であり、この国では珍しい片刃の剣だ。
回帰前の俺は、この刀を愛用していた。打ち合いには向いていないが、普通の剣以上の斬れ味が気に入っていたから。
「ええ、剣聖を相手にするのだから、最も使い慣れた得物で戦いたいと思いまして」
対するギルベルトは、ロングソードと盾。ギルベルトの最も特筆すべき点は攻撃力ではなく、王国の盾と呼ばれる防御力なのだ。
そんな鉄壁の剣聖を相手に、俺の刀がダメージを与えられるとは最初から考えてなかった。剣で挑んでも、秒で負けるのは俺自身がよく知っているのだから。
「ハーッハッハッハ、まさかこのワシを相手に真剣で勝負を挑むとはな。小僧、性格だけでなく頭もイカレてるみたいだな」
「ええ、イカレてなきゃ、貴方に喧嘩を売ったりしませんよ」
「よかろう……ならばかかってこい。特別に、ワシをこの場から一歩でも動かせたら、御主の勝ちで良いぞ?」
剣のみでの互いの実力差を考えれば、ギルベルトの余裕は当たり前といえる。
だが……。
「お願いがあるのですが、今から俺が使う力は、絶対に他言無用で」
「なに……!?」
「破壊の波動」
余裕をかましてるギルベルトに、容赦なく古代魔法・波動をぶっ放した。
俺の波動は、あれからも熟練度を上げ、今では個人推定6サークルの魔法に劣らない威力を誇っていた。
ギルベルトには絶対に剣だけでは勝てない。だから、俺は惜しみなく波動をメインに戦うと決めていた。
回帰前の俺には無かったこの力があれば、俺も英雄になれるかもしれない……と。
「ぐうおおおおおっ!?」
波動を盾で防いだギルベルトだったが、波動が着弾時に爆発し、その勢いを殺せずにあっという間に一歩どころか10メートルは後退した。
「き、貴様……まさか、魔法まで!?」
「貴方の申し出通りなら、もう俺の勝ちなんですが……続けますか?」
それでもほぼ無傷な所、やはりギルベルトも人外だな。
「……すまなかった。どうやらワシは御主をみくびっていた様だ。7オーラと7サークルの逸材を相手に対して、あまりに礼儀がなっていなかった。改めて、一戦お願いしたい」
7オーラと7サークル? 個人的にはどちらも過大評価で6くらいかと思っていたんだが、俺ってそんなにオーラとサークルのレベル上がってたのか?
まあ、それはそれで好都合だ。
「こちらこそ、この程度で終わってたら、何のために貴方と戦ったのか分からなくなりますからね」
《ギルベルト視点》
驚いた……心底驚いた。
先日の試験で、おそらく5か6オーラの実力はあると測っておったが……まさか、こんな若僧が7オーラ、その上魔法の腕まで7サークルだとは。
どちらか片方だけでも引く手数多の人材が、その両方をこの歳で兼備してるなど……このワシですら、過去を遡っても聞いた事がない。
「恐ろしき才能……。神託は、コイツを見落としたのか?」
神託に選ばれたレオンの才能も疑いようがない。 だから、神託が間違えたとは思わない。
ただ、それ以上の才能を秘めた存在がいるのだ。 神託がカインを選ばなかったのだとしたら、それはもう見落としたとしか考えられぬ。
「さあ、続けますよ……。渾然の波動」
小僧から新たな魔法が放たれた瞬間、ワシは油断してると本当に負けるかもしれないと、危機感を抱いたのだ。




