第20話 難癖論破王
剣聖と未来の勇者による模擬戦。レオンの奴、ミラとの模擬権を経てかなり強くなっていたのに驚き、そのレオンを子ども扱いする剣聖にビビって、黙って見ている事しか出来なかった。
なのに、その剣聖と一戦交える? 冗談じゃない! あんな化け物、俺に勝てる訳ないだろうが。
(波動使えばワンチャン勝てんじゃねえか?)
(波動は国で禁忌指定されてる古代魔法だぞ? こんな場所で大っぴらに使えるか!)
とにかく、この場はとっとと退散しよう。触らぬ神に祟り無しだ。
「逃げるのか、カインよ。このレオンを見よ、敵わないまでも堂々とこのワシに向かって来たぞ。学年首席の御主が、それで恥ずかしいと思わぬか?」
この野郎、だったらやってやる! ……とはならないんだな〜。俺、これでも三十路だったから、そんな挑発には乗らないのよ。
かと言って、あの剣聖の表情……諦める気は無さそうだな。この場は逃げ切れても、アカデミーに難癖付けて、騎士団の訓練にも強引に参加させられそうだし。
剣聖もどうせ脳筋寄りの人種だろう。こうなったら、裏社会を生き抜いた俺のやり方で諦めさせてやるか。
(うわ〜、なんか嫌な予感)
表情を変えないまま、剣聖の前に立つ。
「私が2次試験を免除されたのはアカデミー側の決定ですよね? なら、私がこの場で貴方の申し出を断っても、何の問題も無いのでは?」
いきなり理路整然と言い返した俺に、剣聖は少し面食らっている。やっぱり脳筋だ。
「そう難しく考えるでない。折角の機会なのだから、己の力を証明すればいいではないか?」
「貴方の言い分を要約すると、私の実力は貴方の承認がなければ認めない、故に2次試験の免除を取り消す……と? いやいや、こちらに何の不備も無いにも関わらず、理不尽に成績を貶める様な不正は断固として許せませんからね」
「そ、そんな事は言ってないだろう? ワシは、武人として……」
「貴方と戦わなければ武人ではないのですか? 武人でなければ、アカデミーの剣術科の生徒として、試験でも不当な扱いを受けなければならないのですか?」
「だ、だからワシは……」
「そもそも、貴方は今回臨時で試験官を勤めましたが、決定権はアカデミー側にあるのですよ? 何故個人の欲求で私に模擬戦を行えと?」
とにかく早口で捲し立てる。正直、俺の2次試験を公に免除した時点で、俺が剣聖の申し出を受ける義理は一切無いのだから。
(ホント、おまえってたまに毒舌皮肉スイッチが入るよな。流石は傲慢不羈)
うるさいカラスだな。
「っ〜〜、やかましいガキだな! 貴様、強者と戦える機会を投げ出すとは、それでも剣士の端くれか!」
言い返せないのが余程悔しかったのか、剣聖は顔を真っ赤にして、凄まじいオーラを溢れさせながらブチ切れた。
その迫力に生徒達も、教師も、一緒に来た騎士達ですら慄いていた。
勿論、俺も内心ではビビりまくっていたが……ここで引いたら負けだ!
「暴力ですか? ここは騎士団ではなくアカデミーで、私は騎士ではなく学生ですよ? しかも、剣聖である貴方が、怒りに任せて学生を攻撃したとなれば、世間はどう思いますかね? 貴方ひとりの問題で済めば良いのですが」
「き、きぃさぁまあっ!」
その殺気に、背中を冷たい汗が伝う。まさに剣聖の称号は伊達じゃない。正直、今すぐ逃げ出したい。だが、ここで折れたら終わりだ!
「ああ、ご存知かどうかは知りませんが、私の父はこの国の宰相のヴェイルハート公爵です。我が父ながら如何なる不正も許さない人間なのは、ギルベルト様も知っているかもしれませんね。私としては親の力は借りたくは無いのですが、息子がそんな理不尽な扱いを受けたら、騎士団に厳重な注意……いや、警告を出してしまうかもしれません。ああ、当然そんな貴方を臨時講師に選んだアカデミー側の責任も免れないでしょう」
ここで、教師陣の表情も真っ青に変わる。俺の言ってる事も、冷静に考えれば色々無理があるんだが……それをさせない勢いで捲し立てた。
「という訳で、ご理解されましたか? 貴方が私に模擬戦を強要するという事は、これだけのリスクを伴うという事です。それでもまだ、私との模擬戦をご所望ですか?」
「ぐぬっ……ぐぬぬぬぬぅ〜っ!?」
剣聖は身体をブルブル振るわせ、怒りを堪えている。いや、その拳が今にも飛んできそうで怖いんだが……そろそろ、強制的に終わらせるか。
俺は思いっ切り手をパンと叩く。闘技場に、鳴り響いたその音で、全員の意識が我に帰る。
「……と、いう訳で、模擬戦も、不毛な言い争いも、もうお終いにしましょう。このまま試験を終了すれば、全ては丸く収まるのですから……ねえ、先生?」
いきなり話を振られた教師は、戸惑いながらも頷いた。事を荒立てたくないだろうから当然だ。
「そ、そうだな、うん。ギルベルト様も、ここは穏便に済ませて頂けると、アカデミーとしてもありがたいのですが……」
「ここまで言われて、このワシに、引けと言うのか!?」
「ひいいっ!?」
剣聖の怒りは収まらない様だが、教師に八つ当たりしてる時点で終わりだ。
「このワシに……とは? この場に於いて貴方はアカデミーに雇われた側の人間ですよね? それが雇用主に対する態度ですか? 騎士道精神と礼儀はどこに忘れて来たのですか? 願わくば我々学生には、これからも誇らしい騎士の姿を見せ続けて頂きたいと、心から願いたいですね」
「このっ……!?」
剣聖の怒りは収まってないみたいだが、ここまで言われれば間違っても俺を弟子にしようなんて思いもしないだろう。
貴方は黙ってレオンだけ鍛えてやれば良いんです。
その時、タイミングよく授業終了の鐘が鳴った。
「丁度よく鐘も鳴りましたし、私は失礼させて頂きます。ああ、改めて言いますが、私は夏季休暇はヴェイルハート領に里帰りして、次期当主として色々とやらなければならない事が多いので、騎士団の訓練は改めて辞退させてもらいますね。それでは」
剣聖はまだ怒り心頭の様子だったが、俺は知らないフリをして、あまりの出来事に唖然とする生徒や教師達から逃げる様に闘技場を後にした。
(……どうだネメシス、今回は完璧だっただろう?)
(いや……あれを完璧って思ってるおまえって、やっぱり人格が破綻してんじゃねえか?)
成績を落とさず、しかも剣聖に気に入られず、レオンの弟子入りが確定したんだ。結果的には大成功だろう。
(何言ってんだ。これで将来的に厄介事に巻き込まれる確率が下がったんだから良いだろ?)
(ん〜、むしろこのまま済むとは思えないんだが……)
全てうまくいった……そう思っていたのだが、この日から、傲慢不羈と共に難癖論破王なる渾名を付けられてしまった事に、俺は少し泣きそうになったのだった。
《ギルベルト視点》
ぐぬっ! ぐおおおおおおっ!
ワシの地団駄で、闘技場の地面が陥没する。
「ちょ、おやめ下さい……ぎゃっ!」
チーズが止めに来たが、誤って裏拳を食らわせてしまった。
それにしてもあの小僧〜、この剣聖に向かって生意気な口を叩きおって〜。これだけムカついたのは何十年ぶりか分からぬ。
……それと同時に、あの歳でこのワシを……剣聖ギルベルト・ランスロットに向かってあれだけの態度を取れる胆力、剣の腕も相まって、末恐ろしい小僧だと認めざるを得ない。
剣術科の学生なら、騎士団の訓練に参加出来るなど夢の様な話のハズなのに、むしろあの小僧は徹底的に拒みおった。
神託の勇者・レオン……奴はその名に相応しい素質をワシに示した。性格も素直だし、何より強くなる事に貪欲だ。
だが、あのカインは、性格もひん曲がっていれば、強さへの欲も一切感じられなかった。
それでも、ワシの中でレオンより、カインを鍛えてみたい欲求が沸々と高まっていた。
だが、奴は訓練への参加を頑なに拒否しておる。……どうしたものか?
……クックック、閃いたぞ。奴は、夏季休暇は公爵家の領地に帰ると言っておったのう。
更に、奴は自分の父を脅しの材料に使ったが、ワシと宰相殿との関係を知らんらしい。
貴様の言った事を逆手に取ってやるわ!
待ってろよ生意気な小僧……死ぬ程鍛えてやるからな!!




