第19話 剣聖の実力
――神歴783年・夏季 第29日
一次試験を終えて2日目、結果の発表を待っている間、俺達生徒は闘技場内に待機していた。
当然、俺の周りに寄ってくる者などレオン以外にはいない。……最近は同じAクラスのクラスメイトにも極力優しく接していたのになぁ。
(おまえ、めっちゃ怖い奴から優しくされたら、その方が怖いって理論知ってるか?)
(なんだと? だったら、俺の努力は無駄だったと?)
(大体、人に優しくするのを努力だと思ってる時点でどうかと思うぞ〜?)
ぐむっ……何も言い返せん。
「いや〜、それにしてもカインは凄かったな〜。相手の騎士、僕の相手より明らかに強かったよね? それを、まるで子ども扱いするんだもん」
レオンが目をキラキラさせてるが、おまえの方が凄いんだからな?
「俺は結局負けたし。騎士相手に勝ったおまえの方が上だろう?」
「いや、結果はそうだけど、過程がね。ってゆうか、あれってわざと負けたよね? 相手の騎士の面子を守るためなんだろ? ホント、見た目と違って優しい所あるんだよな〜」
な、なんでそうなる!?
(バレバレなんだよ、全員にわざと負けたのが。ま〜、相手の騎士の面子を思いやったからなんてお人好しな事考えてんのは、レオンだけだろうがナ〜)
嘘だろ……じゃあ、俺の努力は……。
(だから言ったろう? おまえの努力や企みは全部裏目に出るって。確実にレオンよりも高評価だっただろうよ)
「それでは、2次試験に残った10名を発表する!」
そこで、教師が2次試験……剣聖・ギルベルトとの模擬戦へ進む10人の発表を始めた。
「まず1人目、レオン・ソルブレイド」
「えっ!? ハイ!」
騎士を倒したんだから当たり前だっていうのに、レオンは名前を呼ばれた事に驚き、心底喜んでいる。
まあ、これまでは落第寸前だったんだから、気持ちは分からないでもないが。
その後、滞りなく名前が呼ばれ、いよいよ最後のひとりとなった。
「最後は……オマーケ・モブイェラン!」
「えっ? ……は、はい!」
最後に呼ばれたオマーケは、俺と同じAクラスなのだが、俺と教師の顔を何度か見直した後に、嬉しそうに返事をしていた。
(……どういう理屈かは知らないが、どうやら無事に選考から盛れたみたいだな〜。望み通りか?)
(驚かせやがって。俺の芝居は完璧だったみたいだな)
ネメシスが脅すから、まさか呼ばれないとは思ってなかった。でも、冷静に分析すると、終了ギリギリまで逃げ回り攻撃は一回だけ、しかも負けてる……言葉にすると、選ばれなかったのも納得か。
(ま、予定ではレオンの次くらいの評価を狙ってはいたが、ギルベルトの興味がレオンに集中すると考えれば及第点だ)
「そんな……僕が選ばれてカインが選ばれないなんてありえないよ!」
レオンは俺が選ばれなかった事を、まるで自分の事の様に抗議の声をあげている。
「やめとけ、おまえは折角10人に選ばれたんだ。自分の事だけ考えておけ」
「だって……」
そこで、教師の前にギルベルトが出て来た。
「たった今、発表があったように、これから10人はこのワシと模擬戦を行ってもらう。その結果を以て、今回の実技試験の2位から11位まで決めさせてもらう」
2位から11位? ……なんか、嫌な予感がする。
「1位に関しては、2次試験を行うまでもなく、カイン・ヴェイルハートに決定させてもらった」
や、やっぱり……。
(ほら見ろ。むしろ当然だろうが?)
誰もが、俺の2次試験免除及び1位決定に文句を言う奴はいなかった。
レオンも隣で嬉しそうに「やっぱりねー」と言ってるし。
「ちなみに首席のカインと、2次試験の最優秀者には、特別に王国騎士団の訓練に夏期合宿の名目での参加を認める! 心して戦うのだな」
選ばれた10人は興奮気味に、選ばれなかった他の生徒は悔しそうにして、ギルベルトの言葉を聞いていた。
剣術科の生徒にとって、騎士団の訓練に合流出来るのは、己を鍛え、成績をアップさせるまたとないチャンスなのだ。
勿論、俺は何がなんでも辞退するがね。
「よ〜し、頑張って、カインと一緒に騎士団の訓練に参加するぞ!」
すまん、俺は行かない……って言うと、話が面倒になりそうなので、とりあえず黙っておこう。
そして、2次試験が始まった……。
剣聖・ギルベルトの前に、なす術もなく、ひとり、またひとりとやられていく生徒達。
正直、試験とはいえ学生相手なのだから、もう少し教え導くやり方をしてくれたって良いだろうに。
(なんかあのジーさん、雑魚には興味ないって感じだな)
(大人気ないよな。まあ、目的はレオン只ひとりって事なんだろうけど)
なんにしても、これでギルベルトがレオンを弟子にする流れは確定だ。
そして、俺はおとなしく、ギルベルトとは距離を取ろう。
(そう上手く行けばいいけどな……)
(うるさいな〜。今回は思惑通りに行きそうなのが悔しいのか? フッ、俺だって成長するんだよ)
そして最後のひとり、レオンの出番がやって来た。
「……よし、頑張ってくるよ、カイン」
「おう。おまえなら大丈夫だから、思いっ切りやって来い」
《ギルベルト視点》
やっと勇者の番が来たか。聖教会の頼みとはいえ、見込みの無い学生の相手は逆に骨が折れる。
「宜しくお願いします!」
レオンが一礼し、剣を構える。ふむ、荒削りではあるが、良い構えだ。
「このワシに遠慮などいらぬ。初めから全力で……ブレイブハーツを使って掛かって来い」
レオンは、なぜブレイブハーツを知ってるんだと言わんばかりに驚いた顔をしたが、直ぐにブレイブハーツを発動した。
「では、行きます!」
レオンが思い切りの良い踏み込みから、力の籠った降り下ろしを放つが、これを難なく木剣で受け止める。
なるほど、素晴らしい一太刀だな。これだけで、レオンが間違いなく英雄の素質の持ち主だと理解出来る。
だが、まだ甘い!
何度打ち込まれても、ワシの鉄壁の防御は崩せない。
「どうした? その程度では、このワシを一歩も動かせんぞ?」
「くっ、強い……というより、重い! まるで巨大な岩石に打ち込んでるみたいだ!」
ほほう、それでも尚、諦めずに打ち込んでくるか? これは今から鍛えるのが楽しみだ。
レオンの打ち込みを捌きながら……あの黒髪眼鏡・カインの事を考える。
1次試験で、奴は明らかに手を抜いた。あまつさえ、わざと負けてみせた。
そんな奴を2次試験に選んでも、また手を抜くのは明白。
だから敢えて2次試験を免除し、騎士団の訓練で思う存分実力を見抜いてやろうと考えたのだが……。
周りの生徒を見ると、誰もがワシらの戦いに驚愕している。このレオンが学生の範疇を超えており、それでもワシにとっては脅威でもなんでもない所を見せられてるのだからな。
だが……カインだけは、無表情でこちらを眺めている。あれは、そんなもんだろうと実力を見切ってる目だ。
つまり、奴にとってレオンは……いや、このワシでさえも、こんなもんかと達観してる顔だ。
年老いたとはいえ、この剣聖を舐めるとは……これは予定を変更し、今この場で分からせてやった方が良いのかもな。
意識をレオンに戻す。全力で打ち込みを開始してから、もう何分が過ぎただろうか?
そろそろオーラが底をつく頃だが、それでもレオンは攻め続けている。うむ、根性も合格だ。
ならば、最後はキッチリ、この剣聖の腕を見せてやろう……。
「これが、最後の一振りだっ!」
レオンはこれまで以上の、一際巨大なオーラを纏った一撃を放って来た……。
が、ワシは一切力を使わず、レオンの手首に木剣を打ち込むと、レオンの手から木剣が弾かれた。
「勝負アリ……だな」
脱力して膝を着いたレオンを見下ろしながら、ワシは試験の終了を告げた。
それにしても、最後の一撃……末恐ろしい才能を秘めた小僧よ。
「レオンよ、未来の勇者の名に恥じない素晴らしい姿勢だった。騎士団の訓練に参加するのを、楽しみにしておくぞ」
「……はい、ありがとうございました。でも、僕なんか英雄じゃありませんよ。本当の未来の英雄は、あそこで腕を組んでますから」
レオンの視線を追いかけると、そこには確かに腕を組んでこちらをいるジッと見ているカインがいた。
それにしても、負けた相手がこのワシだというのに、それに妥協せず本気で悔しがってる姿は、レオンの向上心の高さか。大したもんだ。
さて、一度試験を免除した手前、カインの実力を測ろうにもどうすればいいかのう?
うむ……悩んでも埒が明かぬ。
「カインよ! 折角だから御主も一戦交えまいか?」
この剣聖自ら相手をしてやろうと言うのだ。当然、ヤツも喜んで受けるだろう。
「……結構です。あと、騎士団の訓練も辞退させて頂きますので、レオンと実技試験3位の生徒を宜しくお願いします」
そう言って、カインは足早に闘技場を去ろうとしている。
面白い男よ。まさか、この剣聖の申し出を袖に振るとは……舐めおって!




