第17話 未来の勇者vs未来の剣聖
放課後、俺はレオンを森林区の広場に連れて来た。
「なんか、緊張するなぁ」
「おまえが望んだんだろ? 覚悟を決めろよ」
目的は勿論、レオンをミラに会わせるためだ。善は急げという事で、早速ミラにお願いしたのだ。
「あの泥棒猫とカインがふたりきりで会うなんて許容出来ないと着いてきましたが……まさか貴方も一緒でしたか」
ついでに、レオンとミラを天敵とみなしているエレナと……。
「ミラ先輩は未来の剣聖として、1年生の中でも男女問わず絶大な人気を誇りますからね。まあ、僕はカイン様の方が凄いって布教してますからご安心下さい」
なぜかマリウも着いて来ていた。
広場へ着くと、既にミラが素振りをしながら俺達を待っていた。
「まったく……折角久しぶりに旦那様と死合……いや、試合えると思ってたのに」
ミラが呆れた様に、レオンではなくエレナを睨む。
「あら、ウチのカイン様は泥棒猫……もとい、エレナ先輩の相手には勿体無いですから」
「クックック……ここでケリを着けても良いんだよ、氷女」
「あら、それはこちらも望む所ですよ」
未来の剣聖と大魔導師が睨み合う。いや、おまえらが戦ったら俺の目的がズレるだろ。
「ミラ、今日の相手はこっちのレオンだ。コイツを舐めてると痛い目に遭うぞ? ミラは俺とレオンとの決闘を見てなかったのか?」
「……ああ、小物同士の決闘に興味がなかったのでね。旦那様を小物だと思っていたあの頃の自分が情けない」
なるほど、やはりあの時点ではミラの俺の評価は小物だったのか。……くそっ、全力で関わらないようにすべきだった。
「あ、あの、剣術科2年のレオン・ソルブレイドです! 未来の剣聖と噂されてるミラ先輩にお会い出来て光栄です!」
「ふむ、旦那様が認める人間か……。ミラだ、よろしく……するかどうかは、おまえの実力次第だがな」
レオンは緊張でガチガチだが、ミラはまだレオンを小物だと侮っているな。
「じゃあ、早速模擬戦をしてもらおうか」
俺はふたりに木剣を渡す。こうでもしないとミラは真剣で模擬戦を始めてしまうから。
「こんなオモチャで模擬戦とは……旦那様、私達は真剣でないと燃えないタチではないか」
「一緒にするな、この戦闘狂め」
なんで俺まで戦闘狂だと思ってんだよ!
(なんだかんだおまえも、戦ってる時は楽しそうじゃね〜か〜?)
(やらなきゃ殺られるんだから必死なだけだ)
「も、模擬戦? ミラ先輩と、いきなり?」
レオンは相変わらず緊張したまま。そんなレオンを、ミラは疑わしげに見ている。
「やる気が無いならやめても良いんだよ、坊や。代わりに旦那様に相手してもらうから」
ミラは完全にレオンを舐めてるな。
「いいだろう。1分以内にレオンを倒せたら、俺が相手してやるよ。いや、その余裕を1分間維持できたらでも構わない」
「……ふ〜ん、この坊やは旦那様がそれほど買ってるのか。楽しみだねぇ」
ニヤリと笑みを浮かべ、ミラが木剣を構える。
「え? もう?」
レオンが戸惑いながら俺を見るが、その隙を見逃してくれる程、ミラは優しくなかった。
「しゃあ!」
「え? ぐぼぉ!?」
縮地から横凪の一閃。レオンはそれを脇腹にモロに受けて吹っ飛ばされてしまった。
「……旦那様、これでも私は暇人じゃないんだよ。こんな小物の相手させられちゃ困るんだけど?」
「もう勝ったつもりか? アイツは劣勢から挽回するタイプなんだよ」
俺の言葉に、ミラは不満気にレオンを見る。
「効いたぁ……これが未来の剣聖の力か」
痛みを堪えつつ、レオンは笑みを浮かべながら立ち上がっていた。
レオンの身体から真っ白なオーラが溢れ出す。ブレイブフォースを発動したのだろう。
「このオーラはっ……!? 旦那様、前言を撤回しよう。これなら、少しは楽しめそうだ」
ミラもレオンのヤバさに気付いたか。それにしても、未来の勇者を相手に、少しは楽しめそうって。
「いきます!」
レオンがミラに向かって走り出す。縮地など使ってないが、そのスピードはミラを驚愕させた。
「くっ、速い上に力強い!?」
至近距離で激しく打ち合う。レオンが勢いで、ミラは経験と技で応戦し、攻防は一進一退だ。
「はあああっ!」
一心不乱に攻撃するレオン。最初の一撃を受けて吹っ切れたのだろう。
対してミラは、まだその表情に余裕がある。打ち合いながらも、レオンの実力を見定め、隙を伺っている。
「まさかこれ程とはね……まったく、旦那様といい坊やといい、私の一学年下は一体どうなってんだい?」
ミラの冷静だった表情が、楽しそうな狂気に満ちた表情に変わる。
「シャアッ!」
ミラが頭部を狙った一撃をレオンが堅実に木剣で受け止めたが、ほぼ同時にミラが足払いを仕掛け、レオンは地面にひっくり返った。
間髪入れずにミラが木剣を振り下ろす……が、レオンは横に回転して回避してみせた。
このふたりの模擬戦は、俺から見ても才能と才能のぶつかり合う、未来の化け物どもの競演だった。
「なんて奴等だ。やっぱり、俺は絶対こんな規格外の化け物どもに巻き込まれたくない」
(……それ、嫌味か?)
(嫌味? 本音だよ、本音)
(あのふたりにおまえは勝ってるんだぜ〜? ただの嫌味だろうがい)
(レオンにはネメシスリバースを使ったからだし、ミラには卑怯な初見殺しみたいなもんだったから。普通にやったら俺なんかがあんな化け物予備軍に勝てるわけ無いだろ?)
(……はぁ、そうかい)
その後も激しく打ち合うふたり。今の所決定打は無いが、それでも技術で上回るミラが優勢だな……。
今まで黙って見ていたエレナも思わず口を開く。
「このふたり……剣士としては、もう学生のレベルを逸脱してますね」
「そうだな。なんせ、未来の勇者と未来の剣聖だからな。マリウも、あのふたりと縁故にしておいた方が良いぞ」
「そうですね……最上位顧客はヴェイルハート家とアストレア家なので、上位顧客として是非繋がりを持ちたいですね」
いや、最上位はブレイブハートにしてくれよ。
「ハァ、ハァ、ハァッ」
レオンの表情に余裕はない。恐らく、体力が限界を迎えているのだろう。
体力が尽きればブレイブフォースも解除されるだろうし、決着は近いか?
「もう限界かい? なるほど、確かに凄まじい才能だな、小物と侮った事は謝ろう。だが、残念だが私が見ている背中はもっと遥か高みにいるのでね」
ミラがチラリと俺の方を見る。いや、俺の背中なんてあっという間に追い抜くんだろうけど。
それにしてもミラはまだ余裕が感じられる。それでも、レオンの実力は認めてる様だな。
自分で模擬戦を仕掛けておいてなんだが、覚醒して間もないレオンがミラとここまでやり合えるとは……やはり勇者だな。
「貴女程の人が見ている背中か……。僕にも、絶対に負けたくない男がいる! その男に胸を張って挑戦できる様になるには、もう負けは許されないんだ!」
レオンもまた、俺の方を見ている。いや、おまえなんて最終的に俺を秒殺する位になるんだが。
すると、レオンのオーラが爆発的に上がった。おそらく、最後の花火か?
「面白い……どちらが“彼”に相応しいか、ここで決めようじゃないか!」
「負けない……もう僕は、負けるつもりはない!!」
(モテる男は辛れえなぁ?)
(まったくだ。俺は15年のアドバンテージだけで今のふたりを上回ってるだけだから、このふたりには他に目標とする人物がいるんだろう。同情しちまうな)
(……冗談だよな? ……いや、まさか本気でそう思ってんじゃねえよなぁ?)
ふたつの強大なオーラが交錯し、反動で突風が吹き荒れる。
「ウオオオオオッ!」
「!? なにっ!?」
……そして地面には、全てを出し尽くして倒れるレオンと、剣を支えに膝を着くミラがいた……。
「やはり、まだ未来の剣聖の壁は高かったか。付き合ってくれてありがとうな、ミラ」
そう言って、俺は膝を着いたミラに手を差し出す。
「ふぅ……まさか旦那様意外にもこんな才能の持ち主がいるとはねぇ。最後は本気になってしまったよ。これからは旦那様が言ってた強い意志を持って、もっと強くならなきゃ」
最後の交錯。レオンの渾身の一撃を、ミラは正面から剣で受け止め、弾き返していた。
まさに紙一重の攻防だった事にミラは悔しさを滲ませているが、それでも前向きに目を輝かせている。でも、強い意志か……そういえば適当にそんな事言ったっけな。
「やはり凄いな、レオン。まさか、初めての立ち合いでミラを本気にさせるとは……流石は未来の勇者だ」
今度はうつ伏せに倒れたままのレオンに手を差し出す。
「ぐっ……つ、強かった……。ミラ先輩、ありがとうございました。もう負けないと誓ったのに……これじゃあ、いつまで経っても君には追い付けないみたいだね、カイン」
レオンもまた、満足そうに俺の手を取った。追い付かけないどころか、おまえは直ぐに俺なんか追い越すんだって。
すると、傷付いたミラに、エレナが回復魔法を使っていた。
「回復魔法は専門外ですが、やらないよりマシでしょう」
「おや、どういう風の吹き回しだい?」
「将来、夫の家臣になるかもしれないのだから、傷くらい癒しますよ」
「家臣? そこは妻と言って欲しいねぇ。勿論、第一夫人でね」
「……いい度胸ですね。第一夫人の座は、絶対に譲りません」
(ホント、モテる男は辛れえなぁ)
(……これに関しては、本当に勘弁してくれ)
「これ、ウチで今1番売れてる回復薬なんですよ。効きますよ〜」
「マリウ君? ……あの時はなんか、すまなかった」
「良いんですよ、レオン先輩。もうカイン先輩への誤解は解けてるみたいですし、レオン先輩も将来安泰みたいですし、今後ともご贔屓に」
「はは、マリウ君って、商魂たくましいね」
気が付けば、なんだかんだブレイブハートのメンバーの仲が少し改善した気がするな。
自分の思惑以上に事が上手く運んだのって今回が初めてなんだが、これからも上手く行ってくれると、俺も平穏な生活に一歩近付けるな!
(ホントは、より拗れた気がしないでもないんだが……まあいいか)




