第14話 リベンジマッチ
放課後……昨日に引き続き、またひとりで森林区の広場へ来ていた。
目的は古代魔法・波動の練習なのだが、俺が広場にやってくると、ありがたい事に他の生徒は逃げるように去って行った。
ちょっとだけ寂しいと思ったが、これはこれで役得だと思い直す。
波動に関しては、禁忌とされた古代魔法の一種で、率先して人前で使うのは抵抗がある。まあ、使ったのがバレたら捕まるとかは無いだろうが、魔法研究者とかに騒ぎ出されても面倒だしな。今回みたいに練習が必要なとき、勝手に周りから人がいなくなってくれるのは好都合といえた。
回帰後は、周囲には出来るだけ真面目に、そして優しくなった印象を抱いてもらえるように心掛けてはいたが、結果的に今の所効果は無し。
俺が歩けば人は避けるし、声を掛ければ謝られる……それほど、傲慢不羈の異名は浸透しているんだろう。……正直、泣きそうになった。
だったら、敢えて傲慢不羈の異名を受け入れようじゃないか。勿論、そんな態度は絶対にとらないが、もう自分を良く見せようとはしない。そうすれば、余計な人種に絡まれないで済むだろうから。
現にマリウも、俺が傲慢不羈のまま虐めを無視していれば懐かれる事も無かったし、エレナともまだ距離があったハズなのだから。
さて、言い訳はさておき、とりあえず取り込んだ古代魔法・波動を整理し、実験してみよう。
波動は全部で3種類。分かりやすくまとめると……。
“破壊の波動”……全てを破壊する物理特化型。
“渾然の波動”……4大属性が渾然一体となる魔力特化型。
“創世の波動”……破壊と渾然を極めた者だけが手にする究極にして最強の波動。
この破壊と渾然のふたつの波動は、エレナを器とした禁書が繰り出したのを目の当たりにしているからなのか、威力はともかく既に習得済み。
だが、最後の波動……創世の波動は、今の俺では発動条件を満たしていないらしい。
禁書に書かれてあった情報通りなら、破壊と渾然の波動を極めなければならないのだろう。
もしかしたらあの時エレナを器とした禁書が、因果逆転の直前に繰り出そうとしていたのが創世の波動だったのかもしれないが……もはや知るすべはない。
だが、破壊と渾然だけでも破格の威力を誇るのはエレナが取り憑かれた時に実証済み。
このふたつがあれば、申し訳ないがエレナに魔法を教えてもらう必要はもう無いかもしれないな。
そして、辺りに人がいないのを念入りに確認し、破壊の波動を3メートル程の岩山に、渾然の波動を湖に向かって放ってみた。
結果は……岩山は粉々に砕け散り、湖の出来は着弾箇所の水面が渦まき、凍りながら高く打ち上がった後に蒸発した。
正直、自分でもびっくりする破壊力だが、禁書の放ったそれと比べると、威力も範囲もまだまだ未熟だな。
ただ、魔法は魔力を消費して発動するが、波動は魔法とオーラの中間位の力を消費して発動するみたいで、魔力をオーラに変換するすべに長けている俺との相性が抜群だった。
元々魔力量自体は多い方ではあったが、エレナに比べれば若干劣っているだろう。
だが、その分を体力という名のオーラで補えるので、魔力量に換算すればエレナ以上になるかもしれない。
なら、あとはそれぞれの波動の練度を高め、究極の波動・創世の波動を手に入れれば、俺は大魔導士に匹敵する魔法の使い手になれる可能性を得たんだ。
(確かに、コイツはスゲ〜力みたいだナ〜。今は亡き禁書に感謝しとけヨ〜)
(おかげでこっちは視力と味覚が持っていかれたんだ。感謝なんかするか)
でも、代償は大きかったが、得た力が大きかったのも事実。
ふと、俺の中でひとつの考えが頭を過ぎる。もしかして、この波動の力を極めれば、俺自身もブレイブハートに並び立てる力を手に入れられるんじゃないか?
あの、裏社会の影の中から眺める事しか出来なかった、眩しいばかりに輝いていた英雄達の様に……。
いや、勘違いしちゃ駄目だ。俺は凡人だ。第二の人生は、平穏に生きるのが正解なんだ。
そう思い直しつつ、その後もふたつの波動を交互に繰り出していると……背後に人の気配を感じて振り返った。
「やあ、流石だな。一応これでも気配を消して近付いていたんだが」
「また貴女ですか……ミラ先輩」
現れたのは未来の剣聖、ミラ・ドラグランツだった。
流石だと褒められはしたが、俺は人が寄ってきたら分かる様に警戒してたんだ。なのに、半径5メートルの距離まで気付かなかった。
厄介だな……確実に波動を使ってる所を見られただろうし。
「正直、驚いた。剣の腕もさる事ながら、まさか魔法の腕もここまでとは……。神童の名は伊達じゃないな」
「10で神童、15で才子、20過ぎれば只の人ですよ。俺なんか、いずれは剣聖と評判のミラ先輩とは比べものになりません」
「オーラレベルが6で、さっきの魔法を見る限り5サークルの魔導師と遜色ないと思われる君が、いずれは只の人になると? なるほど。君が嫌味な男だという事は理解した。これなら遠慮なく叩きのめせそうだ」
ふたつの波動の威力は、ミラの評価でも5サークルに到達して見えたのか?
ふむ……確かに、自分で言うのもなんだが、現段階だと俺は将来的にブレイブハートの一員として魔王と戦ってもおかしくはないレベルの逸材なんだろうが……レオンもだし、目の前のミラをはじめとしたブレイブハートのメンバーは、これから俺など足元にも及ばない化け物に成長するんだよな。とてもじゃないが、今の俺でも着いていける気がしない。
「ミラ先輩、実はお願いがあるのですが……」
それでも、現段階の実力を評価されて将来的に期待されても困るので、波動に関しては秘密にしてもらいたい所なんだが……。
「いいだろう。ただ、私のリベンジマッチを受けてくれたら、だがな」
「え? 俺が何をお願いするか分かったんですか?」
「いや、分からない。ただ、いずれにしても条件は同じ、私に勝てたら君のお願いを聞いてやろう」
あ〜、この人、ただの戦闘狂だった。
だとすると、絶対に負けられない戦いがここにあるんだが、先日のはミラが俺を舐めてたから勝てただけであって、あらためて剣と剣で戦っても絶対に勝てるという保証はないな。
かといって、まだ威力の調整も出来ない波動を使うのは避けた方が良いし……。
「分かりました。ただ、前回は幸運にも俺が勝ちましたよね? なら勝者の特権として条件の譲歩をさせてもらいます。勝ち負けではなく、ミラ先輩とのリベンジマッチを受けるので、それで条件達成にしてもらいます」
「ほう……かまわないが、もし君が本気を出してないと私が判断したら、条件は未達成にさせてもらうぞ?」
よし、交渉成立だ。少しでも自分に優位な提案をする、この程度の交渉なら裏社会では日常茶飯事だったからな。
「いいですよ。じゃあ、始めましょうか」
「眼鏡は外さなくて良いのかい?」
「ええ、大丈夫です」
正直邪魔だし、戦ってるうちに外れそうではあるが、眼鏡を外したら見えなくなるからな。
互いに剣を構える。
本気を出さなければならないのであれば、王国騎士剣術ではなく、裏社会で磨いた我流で戦わなければならないだろう。
対してミラは、まさに王道の王国騎士剣術で、剣を正眼に構えた。
その表情は、先程までの飄々とした色が消え、完全に剣士のそれだった。
風が止まる……。森林区の木々が、不気味なほど静まり返っていた。
……睨み合いが続く。一瞬でも隙を見せれば、次の瞬間にも斬り捨てられるかもしれない緊張感で、背筋が凍っている。
だが、それはミラも同じだろう。表情は変わらないが、頬を汗が伝うのが見える。
多分、ミラはこの時点では人を殺した経験などまだ無いだろう。
対して俺は、多くの人間を殺めて来た……人を殺した経験のある男だ。その殺気は、未来の超心であり剣聖・ミラであろうと、プレッシャーを圧されずにはいられないだろう。
刃は潰してあるものの、当たり所が悪ければ簡単に死に至る剣による睨み合い。正直、なんでこんな馬鹿らしい事をしてるのか分からない。
大体、ここでもし俺がミラに勝ってしまったら……ミラもまた、レオンと行動する可能性が低くなるんじゃないか?
(察しがいいじゃねえか。オイラは、もはやおまえが狙ってブレイブハートのメンバーを自分の仲間に引き込んでんじゃないかと思ってるぐらいだぜ〜?)
急に念話を送って来たネメシスに、イラッとした瞬間を、ミラは見逃さなかった。
縮地。オーラレベル8以上の武人であれば習得しているハズの技法で、一瞬で距離を縮める移動法。
いや、ミラもまだオーラレベル6って言ってたよな? あれ、嘘だったのか?
気が付けば目の前にいるミラ。振り下ろされた剣を、俺はギリギリで躱す……いや、肩を斬られたから躱しきれなかった。
「うるおああああっ!」
そこから始まると怒涛の連斬。なんとか剣でブロックしているものの、一瞬でも読み間違えれば、俺は剣の嵐に巻き込まれて、ズタズタに斬り裂かれてしまうだろう。
「どうしたカイン! 反撃してみろぉっ!」
「クッ……この戦闘狂がっ!」
無駄口を叩いてる隙も無い。既に何箇所かも分からない位に、ミラの剣は俺の身体を掠っていた。
「ほらぁ! さっきの魔法も使っていいぞ!」
残念ながら、使えたらとっくに使ってる! 息つく暇も与えないくせに、魔法なんか使えるか!
もう、わざと負けたい。いや、このままだと普通に負ける。けどこの戦闘狂、何を言っても俺がわざと負けたんじゃないかって難癖つけて来そうだし……仕方ない。
この戦闘狂を黙らせるには、波動と同じくらいに隠しておきたかった、平穏のために捨てた剣……裏社会を生き延びて来た俺の、本気の我流剣術を見せてやる……。
第二章開始を機に、タイトルの変更します。
旧・ネメシスリバース〜元悪役の回帰英雄譚〜
新・勇者に討たれた元悪役、回帰して平穏に生きたいの に世界が許してくれない〜ネメシスリバース〜
となりますので、宜しくお願いします。




