第11話 誤解
『破壊の、波動』
次の瞬間、エレナから即死レベルの魔の波動が放たれたが、これを辛うじて避ける。
波動は俺の後方の壁を完全に破壊してしまった。
「洒落にならないな……」
対魔法使いの必勝法は、魔法を唱えさせる前に倒す!
一気に踏み込み、エレナに近付いた瞬間……強固な魔法障壁にぶつかり、逆に吹っ飛ばされた。
近付く事すら出来ないのか!?
『ふむ……まだ馴染まないが、この器ならいずれ、私が波動の魔法を極める日も遠くないな』
取り憑かれたエレナは、まるで俺など眼中に無いとばかりに、自分の魔法の威力を確かめている。
(どーすんだよ、カイン。相手の実力を考えるなら、ここは逃げた方が良いと思うぜ〜?)
ここで逃げれば、エレナの身体が完全に禁書に奪われる可能性もある。なら、俺はその邪魔をするまでなんだが……。
『クックック、幸い実験体もいるしな。さあくらえ、渾然の、波動』
それは、先程よりも広範囲の……しかも、感知できる魔力は火・水・風・土の全ての属性が混合した波動だった。
「クソっ! ネメシスリバー……駄目だ!」
レオンとの決闘を思い出し、咄嗟にネメシスリバースを発動しようとするも、直ぐに思い直す。
取り憑かれているとはいえ、エレナが波動の衝撃に耐えられるとは思えなかったから。
だから、必死に横に飛んで波動を回避したのだが……左脚に激痛が走った。
「ぐわああっ!?」
嘘だろ? 掠っただけで脚が……膝から下が無くなってる!?
この古代魔法……あらゆる属性を操る魔法なのか? なら、反則じゃないか!
欠損した自らの足を見ながら、ひどい喪失感を抱く。だが、今は悲観してる場合でも痛みに悶えてる場合でもない。
エレナに取り憑いた禁書の波動は、徐々に威力が強くなっている。現に、渾然の波動は図書館の壁を吹っ飛ばしてしまったのだ。
やはり、この場をどうにかする方法は、ネメシスリバースしか思いつかない。でも、それだとエレナが……。
(カインよぅ、オメー、このネメシス様を馬鹿にしちゃいねーか?)
(なんだよこんな時に!? してるよ! ふざけたカラスだってな!)
我慢はしていても、脚を失った痛みと喪失感から、ネメシスに八つ当たりをしてしまった。
(カラスじゃねえ! ……って、くだらねえ言い合いしてる場合じゃねえな。我が言いたいのは、ネメシスリバースを単なる物理攻撃反射スキルだと思ってんじゃねーだろうなって事だ)
前回の経験を踏まえ、ネメシスリバースとは俺が受けるハズだった衝撃・ダメージの因果を、相手の因果に逆転させるスキルだと認識していた。
現にレオンとの決闘では、ネメシスリバースを発動の際にレオンの攻撃が外れて、その隙に俺がレオンを倒したんだ。
今更だが、もう一度考える。
ネメシスリバースは、あくまで攻撃が当たって受けるダメージ(因果)が、そのまま相手へのダメージになる(逆転)スキルでしかないと思っていた。
そしてあの時も、俺が敗れる事象(因果)が、俺が勝つ事象に変わり(逆転)、その経過としてレオンの脳天を俺が木剣で打ち抜いたのだ。
まず結果という因果を逆転し、経過は後から付いてくるという奇跡が起こったのだ。
(……ネメシスリバースは物理的なダメージだけでなく、訪れるハズだった事象・運命すらも逆転させるスキルだっていうのか?)
(ざぁっつら〜い。そもそも、回帰なんて現象を起こしてるんだぜ? それくらい気付けよ〜)
(なら、今の状況も、変えられるって事か?)
(どうかな〜? それはおまえの想像力……つまり、本来の因果を変えるだけの強い意志と明確なビジョンが必要となる。そして……より奇跡的な因果の逆転には、それなりの代償が伴うのも忘れるな〜? 単なる物理ダメージを反転させた時の代償なんかとは比べ物にならないからな? くれぐれも、ご利用は計画的に〜)
より明確なビジョンに、より大きな代償か……。
『ふむ、大分慣れて来たな。この器の体内の魔力容量と、魔力の練度が高かったからこそだが、これ程とはな。さて、これで準備運動は終わりだ。最後に、とっておきの波動をお見舞いしてやろう……』
もう!? 嘘だろ!? どうする、どうする!?
考えろ! エレナから禁書の魂を切り離す……どうやって? 禁書の波動をリフレクトしてエレナだけを無事に済ませる? 無理だ!
考えがまとまらない! どういう結果であれば、エレナを無事に救える!?
(難しく考えるな。おまえが決めた因果なら、必ずそうなるんだよ、我を信じろ)
簡単に言ってくれるな! 最適な因果が思い浮かばないって言うのに!
ふと、エレナを見ると、涙を流していた。
『……ぐっ、まだ意識が……』
すると、エレナの瞳に光が戻った。
「ごめ……ごめんなさい、カイン。わ、私の事はいいから……私を、倒して……」
エレナが禁書に抵抗してるのだろう。つまり、今喋ってるのは、間違いなくエレナだ。
「ああ……最後に言わせて……わ、私はこれまでも、そして……これからも、貴方を愛し……続けます……」
エレナの悲痛な言葉が、俺の胸を引き裂く。
まさか……こんな俺の事を、そんなにも想っていてくれたのか?
勝手に許嫁にされて、俺の事なんか嫌いじゃなかったのかよ?
なら……あの時も?
俺が裏社会で幅を利かせていた頃、エレナが何度も俺に会いに来ていたのは、俺を捕まえるのではなく、俺を連れ戻そうとしていたのか?
あんなにも落ちぶれていた俺の事を、おまえは変わらず想っていてくれていたのか……?
『……ええい! 往生際が悪い!』
エレナの身体が大きく痙攣し、再び禁書の魂が身体を支配した。
『それではさようならだ! 愛する実験体の最後をその目に焼き付けて消えるがいい! くらえっ、我が究極の波動!』
おまえの想い……しっかり伝わった。
なら、もう、これしかない!
「ネメシスリバース!!」
《エレナ視点》
……最近のカインは、確かに傲慢不羈と呼ばれた頃と違う気がする。だからこそ、真面目に魔法を学び、魔法剣士と認められれば、彼が侯爵家当主になる事に文句を言う者はいなくなるだろう。それだけ、一流の魔法剣士とは稀有であり重宝される存在なのだ。
そして、それをサポートするのは妻である私……ウフ、ウフフッ、思わず笑みが溢れるわ。
……とりあえず必要な本は見つけたし、そろそろ研究会の時間なので図書館を去ろうとしたその時、奥の方で不思議な魔力を感じた。
近付くと、図書館の最奥、本棚の一部に強く惹かれた。
そして、無意識のうちに一冊の魔導書を手に取り、おもむろに本を……。
「この本はやめとけ」
「え? カイン?」
魔導書を手に取ろうとした私の腕を、いつの間にか現れたカインが掴んだ。そしてその周りには、何故か黒い羽根が舞い降りていた……。
「え? カインも図書館に?」
「……ああ。ちょっと……魔法の勉強でもしようかと思ってな」
……近い! カインの美しいけど逞しい顔が近過ぎる!
「……オホン、それなら、私が個人的にカインにちょうど良い魔導書をピックアップしてたので、研究会で一緒に勉強しましょう」
私は心臓の音が聞かれやしないかドキドキしてたが、なんとか取り繕う。
「それなんだが……悪いが、今日は遠慮しとく。ちょっと、疲れてな。次回は必ず参加するから」
改めて見ると、カインの顔は真っ青で、脂汗までかきはじめていた。
「どうしたの? 体調が悪いの?」
「心配ない。……でも、今日は早めに帰って休ませてもらうよ。じゃあ……また明日」
そう言うとカインは、見た事もない優しい笑みを浮かべて……時の流れが遅く感じられた。
カインの手が、私の頭を撫でたのだ……。
……頭を撫でてもらった衝撃で、多分私はその場でフリーズしていたのだろう。
気が付くと、カインが帰ってから5分程経っていたと思う。
カインの体調が心配だったけど……でも……。
「カイン! なんで貴方はこんなにも私の心を奪い続けるのよ!」
あまりの嬉しさから、つい叫んでしまったのだった。




