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42. スイス国際会議で

(スイス国際会議で)


 ケンタウル舎私設国際会議場……

 最初は秘密会議のはずだったが、ここにきてケンタウル舎社長は、会議の全貌を明らかにした。そして初めて、社長として世間の前に立ち、素顔をさらし、会議の様子を、マスコミを含めて全世界にメディアを通して放送した。

 慌てたのは、サミット常連国の首脳陣たちだった。

「放送するとは、聞いていない。そんなことをすれば、各国暴動が起きる。何のために今まで極秘できたんだ……」、その苛立ちと怒りは、目に見えて分かった。

「私は真実を全世界にお知らせするだけです。今、世界が行なっていることを……、そして、協力を求めたい」

「何の協力ですか、おとなしく死ねと言う協力ですか、もう地球は終わりなんですぞ」

 ものの弾みか、怒りの捌け口だったのか、言ってはいけないことを口走ってしまった。

「いえ、まだ終わりません……、絶滅するまでには、まだ一〇年の余裕があります」

「一〇年で何ができるんだ。宇宙に移住するのが精一杯だ!」

「だから、全世界の人類に最後の協力を求めるのです」

 ケンタウル舎社長は、前方の巨大スクリーンに世界の平均気温のグラフを映像で出した。

「よく見かける産業革命以来の世界の平均気温のグラフですが、現在摂氏一・九度の上昇を見ています。これでは何百年で一度二度かと思われてしまいますが、しかし、近年ここ一〇年だけを取ってみると平均気温はこの通り、加速して上昇しています。後、一〇年もすれば、食物は育たなくなり、深刻な食糧不足の中、人類は滅亡していく……」

「そんなことにはならない。大規模な三階建て四階建ての食物工場は全世界で稼働している。これからもっと生産を増やす予定だ。心配はいらない……」

「本当に食物工場だけで世界の人口を養っていけると思っているのですか? 今でも、ユーラシアの穀倉地帯が不良というだけで、貧しい国まで支援が届かないでいる状態で」

「それでも各国、協力して自国の分を減らして援助している」

「それがいつまで続くのでしょう。環境は加速して気温の上昇を招いている。その食物工場自体、膨大な電力を使って生産している。その電力の源は、環境破壊で得られた電力ではないのですか……?」

「そんなことは無い。再生可能なエネルギーも原子力も使っている」

「貴方が、自信を持って言っている。その足元の現状が、このグラフの結果なのですよ」

「そんなことは無い。これから、再生可能なエネルギーも原子力も数多く建設していく」

「もちろん、各国にそれもお願いしたい。しかし今、一番必要なことは、産業を止めてでも、温暖化を食い止めなければならないと言うことです」

「産業を止めるとはどう言うことだ? それこそ人類に死ねと言っているようなものだ」

「いえ、人類は、それくらいでは死にません。思い出してください……、自家用自動車がなかった時代を……、皆、公共交通機関で、バスや電車で、又は、自転車で、そして歩いて、移動していたではないのですか? 産業革命時代に戻れとは言いません。しかし、世界の平均気温のグラフが示すように、まだ傾斜がフラットの時代、責めて、一九五〇年か一九六〇年、その時代に戻ったつもりで、生活して欲しいのです。私たちは何処で道を間違えたのでしょう。貧しい不便な生活でも、私たちは幸せを感じて暮らしていたはずです」

「絵空事だ。そんなこと、できるわけがない。過去の時代に戻って行くなどありえない」

「それが、できなければ……、温暖化の灼熱地獄の中、飢餓と熱中症の中、死に絶えていくだけです。もはや、環境を食い潰す産業は要りません。そうした産業は、即座に産業転換していただきたい。これから必要になるものは、環境負荷の少ない食糧生産でしょう。環境負荷の大きな企業がなくなり、失業した人々、都会で生活できなくなった人々……、是非、田舎で暮らしてください。これから高気温の中、都会では生活できなくなるでしょう。日本では食料品の物価高で、五キロ一万円の米や千円のキャベツが出てくるでしょう、少しくらい給与が上がってもそれでは生活できません。世界市場の小麦粉ですら五キロ一五〇ドルに達することでしょう。田舎に移住して、少しでも過去に戻って、時給自足できる生活をしてください。食料の生産者は当てにできません。そうすれば、少しでも生き残れる可能性があります」

「無茶苦茶だ……、今頃そんなことを全世界に言ってもどうにもならない。産業転換などあり得ない!」

「いえ、今こそ産業革命を起こすのです。かつて、蒸気機関が産業を変えたように、今は、温暖化を食い止めるための産業革命を……、人類一人一人が温暖化を食い止めるための生活を……、人類が変われば、環境も変わる。今のこの高気温は、地球が示した最後の警告です」

「ご高説もっともだが、それでは宇宙移住計画はどうするんだ……?」

「それも、もちろん、このまま進めます。人類のために、すでにその準備はできています」

「結構……、宇宙に役立つ人間から上げてくれ……」

 最後のこの発言がよくなかった。

 また、この発言が、嘘ではない真実を証明していた。

各国の首脳陣は、誰もが宇宙に逃げ出すように見えた。

地球滅亡は近いと誰もが悟った。


 ケンタウル舎社長は、私設国際会議場からの帰り道……

「お父さん、やっと言ったわね……」

 鯨型潜水艦のブリッジのスクリーンには、宇宙ステーションにいるスミレが映し出されていた。

「あーあ、やっと言えた。ユリコにも褒められたよ。人類全てが助からない移住計画には反対だったからな。それで家を出ていった。でもユリコも、この会社の社員だから、離婚せずに済んだけどな……」

「でも、お兄ちゃんも家を出ていったじゃない。家族がバラバラで、私、寂しかったのよ」

「今、考えれば、もっと早く言ってしまえば良かったのかもしれない」

「お父さん、そんな事はないわ。今だからこそ、人類は明日の危機に気が付いたのよ。宇宙移住計画が実行される今だから、残される者は、この地球で生きて行くしかないと思うから……」

「でも、地球を二分してしまった。この混乱を治める方法はあるのか……? 無責任だが、私には分からない」

「大丈夫よ……、夏の暑さに焼かれれば、政府の力のなさが分かるわ。その時、自分の命は自分で守らなければならないと悟るのよ。皆、真剣に考えるわ。地球を守ることを……、メタンや二酸化炭素を出さない生活を……、それが自分の命を守ることだから……」

「そうあって欲しいよ……」

「茜は……? 一緒じゃないの……?」

「……、茜には後始末を頼んできた。記者会見や報道陣でごった返していたから……、私が説明するより、茜の方が、大人の扱いに慣れているからな……」

「大変な仕事を押し付けてきたのね」

「いや……、なかなかの適任だったぞ……」


 その頃……、スイス、ケンタウル舎私設国際会議場では、世界の報道陣を前にして、茜が記者会見の質疑応答を受けていた。

「いつから極秘の宇宙移住計画が始まっていたんですか……?」

「あんたバカ……、そんな事も知らないの……? 宇宙ステーション自体、人類が宇宙で暮らす最初の一歩よ……」

「極秘の宇宙移住計画の方ですよ!」

「あんた本当にバカね。宇宙移住計画なんか極秘でも何でもないわよ。皆、宇宙に住みたいと思っているんでしょう。だから宇宙コロニーがあるんだから、でも世界中の人間を住まわせるほど大きくないのよ。だから、誰が先に住むのか、その人選が極秘なのよ。分かった!」

「じゃー、誰が一番に移住するんですか……?」

「それを知ってどうするのよ……?」

「報道します。記事にします。皆、知りたいはずです」

「だから、知ってどうするのよ。皆んなで、壮行会でも開いて送り出すというの?」

「人類の希望を背負って移住するのだから、どんな人か見たいじゃないですか?」

「嘘……、あんたたちは、それを知ったら、あれこれ難癖付けて、引きずり降ろそうとするのよ。まるで犯罪者のように……、だから極秘なのよ!」

「環境破壊はどこまで進んでいるのですか?」

「あんた記者でしょう。何、仕事しているのよ。見ればわかるでしょう」

「人類滅亡まで、後どれくらいですか?」

「そんな事、分かるわけないでしょう。神様じゃーないんだから……、ただ、このまま気温が上昇すれば、このグラフの通り一〇年余りで、気温が摂氏五〇度近くまで上がるわ。摂氏五〇度で作物が育つと思いの? もし育つとしたらサボテンくらいよ。そうならないために、エネルギーを使わない生活をしようと言っているのよ。車に乗らないだけでも、二酸化炭素は減るわ。それに環境負荷の高い食品ロス、電気、ガス、化石燃料、石油製品も使うのもやめましょう。昔から言われていて、実行できなかった、環境負荷の少ない社会を今、実践しなければ、もう生きていけないのよ。皆んなが、皆んな、宇宙に移住はできないんだから、分かった!」

「本当に、それで人類は生き延びられるんですか……?」

「ほんとうに、あんたたちはバカ……、生き延びられるから言っているのよ。間に合わなければ、みんな極秘で逃げているわよ。あと一〇年しかないのよ。放っておけば一〇年で平均気温が一度上がる。最高気温で摂氏五〇度よ。でも、今から覚悟を決めて生活を変えれば、一〇年で平均気温は一度下がるわ。最高気温は摂氏四〇度よ。作物はギリギリ育つわ。そうすれば、もう一〇年、生き延びられる。更にその一〇年を環境負荷の少ない生活を送れば、更にもう一〇年生き延びられる。そして、地球は再生するのよ……」

 会場は静かになった。

「次の質問は……、誰……?」、次の質問は、もう出なかった……


 全世界はこの会議と、その後の記者会見を見ていた。

 そして、何度も重大ニュースとして放送された。

 もちろん、インターネットでも拡散され炎上した。

 各国、その国民は、行政府に集まりデモを繰り返し、有り余った力は、周辺のビルや商店、車を打ち壊して回った。

 皆、平等の権利を訴えていた。

 しかし、各国の首脳陣は自国に帰り、地球滅亡などあり得ない。環境保護のためのデモンストレーションだと言い切り、専門家を巻き込み、国民の説得にあたった。

 日本では国会議事堂に全国の一般市民が集まり、デモとシュプレヒコールを繰り返した。

 安保闘争以来の三百万人のデモと集会だった。

 しかし、政府は温暖化に対して万全の準備をしているので心配ないと理解を求めた。

 しかし、政府が説明すればするほど、連日連夜抗議のデモが国会議事堂の前で繰り広げられた。



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