41. 家路と平和と
(家路と平和と)
「ヒロ……、今日は泊まってくるんじゃなかったのか……?」
「泊まって来たかったけど、向こうは慌ただしいから、自分一人、遊んではいられない」
「損な性分だな……」
「それより、明日、耕作のトラックに乗っていかないと帰れないと思って、タクシーで帰ってきた……」
「バカだなー、もう露国でもないのだから、耕作のトラックでなくても、タクシーでも何でも帰れるよ。今だってタクシーで帰って来たんだろう……?」
「そうさ、3万円もかかった。そうか……、もう密入国しなくていいのか……」
「そうだ、戦争ボケだな」
「でも、電話や通信は、まだできないんだろう?」
「そっちは時間がかかりそうだな。国防軍が一元統制と盗聴で、ぐちゃぐちゃにしたそうだから……、一から構築しなおしているそうだ」
「まだ、かかりそうなんだな。でも、明日、耕作のトラックで行くよ。チャイコフ大佐にも挨拶したいし……、元国防軍で除隊して、耕作の牧場で泊まって帰ろう……」
「そうだな……、それが、いい……」
翌朝……
「寂しくなるわね……」
「でも、リュウは、すぐに帰ってくるから……、今度は、ケンタウル舎の輸送船の同行だろう。頑張ってくれよ。人類の未来がかかっているから……」
「でも私は、そんなに長くはやってられないわよ。ジャージーホームもあるし、キャバクラもあるから……」
「そんなに稼いで、どうするんだ。お城でも建てるのか……?」
「バカね。私の趣味よ……」
「いい嫁さんだ……」
「まだ、奥さんになってないわよ……」
「そう言う意味じゃーないけど……」
「言ったわねー、……」
「まー、まー、仲良くやってくれよ……」
お昼になって、耕作のトラックに乗って、チャイコフウ大佐に会いに行った。
「お世話になりました……」
「帰るんだな……」
「大佐は、帰らないんですか?」
「まー、帰ってもやる事はないし、妻も子も無いからな……」
「親は生きているんでしょう……?」
「あー、それが問題だ……、時代が変わったのに、まだ昔を引きずっている……」
「つまり、仲が悪いんですね」
「そんなつもりはないけどな。気が重いよ……、本国から離れた、日本がいいよ。若い奴らも、皆そう思っている……」
「若い人たちでも、ですか……?」
「ここに来ている若い奴らは、徴兵と仕事が無くて志願してきた連中だ。地元に帰っても仕事がないんだ。ここでは、高収入だからな。帰りたがらない……」
「その気持ち、痛いほど良くわかりますよ……」
「それに、仕事は山ほどある。露国の海軍の船を全て修理しなければならない。五年、六年はかかりそうだ」
「そうですね……、大変な仕事ですね」
「それでも、鉄砲持って、命を的にして、地を這えずり回るよりましだよ」
「僕も、そう思います」
「また、遊びに来てくれ。当分、釧路にいると思うから……」
「はい……、大佐も、健闘を祈ります」
耕作のトラックは、元国防軍の検問所で止まった。
露国の検問所はすでに撤去されていたが、ここはまだ残っていて、警備隊員もいた。
俺たちは、ここで降りて、耕作には、また後日帰り道に乗せてもらうことにした。
リュウは呆れるように、二人の警備隊員に向かって言った。
「まだ、検問しているのか? もう釧路は露国じゃーないだろうー」
「でも、やめろと言う命令もないんですよ。やることも無いので、惰性で検問している感じです」
「どこもかしこも、混乱しているんだな」
「それはいいけど、車、借りるよ。基地に帰るんだ。後で、代わりの誰かをよこすから」
「忘れないでくださいよ。帰れませんから……」
「あいよ……」
後藤大佐は部屋にいた……
「まだ、撤収しないんですね……?」
「あー、それで今揉めている」
「問題でもあるんですか……?」
「基本、露国は信用ならないと言うのが、上の考えだ。釧路には、合わせれば二〇万の露国将兵がいるんだ。枕を高くして眠れないと言っている」
「でも、露国の将兵は、それぞれ働いていますよ。主な仕事は、戦艦の修理ですけど……、街は豊かに賑わっていますよ」
「まったく、おかしな話だ……、敵の軍艦を日本で治してどうする。攻めてくださいと言うようなものだ」
「本当にそうですね。でも修理代金は日本に入るので、それはそれで喜んでいましたけど、それに帯広では、宇宙船の建造にも多くの露国兵士が携わっていますよ」
「そんなに宇宙船を作ってどうするんだ。宇宙戦争でもするつもりか……」
「そうですね……、それより、国防軍でも無くなったので、除隊をお願いします!」
「君の場合は、形として無期限の志願兵だからな。どうなるかわからないぞ」
「えー、え、そんな……、困ります」
「除隊したいのかね……?」
「もちろんですよ。無理矢理、兵隊にさせられたので……」
「そうか……、自分としては、君は兵士に向いていると思うけど……、私は君を買っているのだけどね。今時珍しく、熱い心を持っている」
「熱いのは、気温だけでたくさんですよ。僕は清里に帰りたいんです」
「そうか……、除隊申請は出しておこう……、でも、政府は君を離さないんじゃないのか、ベガのキーマンだからな」
「やはり、大佐も知っていたんですね……」
「少しはな……、露国艦隊を全滅させた男……」
「いえいえ、何処からそんなデマが飛んでいるんですか……?」
「まー、いい……、そう言うことにしておこう。除隊申請はこれからだから、すぐにはどうにかできないぞ。とりあえず、給与は出るからな」
「えー、え、じゃーまた、ここで検問警備ですか……?」
「いや、君を自由にしないと、この駐屯地も全滅させられそうだからな。自由に帰っていいと思うよ。今まで通りだ……」
「え、帰っていいんですね……?」
「そんなに嬉しそうな顔をするな……、どうしても帰りたいんだろ」
「はい、もちろんです。ここを全滅させてでも……」
「やはり、熱いな……、上には、そう報告しておく……」
「リュウも、一緒でいいですか……?」
「構わんだろ……、最初から二人は一緒だ」
「ありがとうございます……」
「もう……、百万円は要らないのかね……?」
「はい、余り税金を頂いても何ですので……、それに密入国しなくて済みそうですし……、まだ、残りもありますから……」
「それは、良かった……」
翌日……
ジャージーホームの牧場についたのは、夜だった……
「おかえり……、よく無事に帰って来られたね……、良かった、良かった……」
女将さんが笑顔で迎えてくれた。
「帰って来られますよ……、釧路はここよりも平和な街ですから……」
「本当だよ、うちじゃー、豚は飼ってないんだよ。材料をかき集めるのに大変だよ。それに工場を持っているんじゃーないんだから、朝から夜中までソーセージを作っているよ」
「そろそろ、工房では、限界だな。釧路で工場を建てるよ。向こうでは、人もたくさんいるからな」
「頼むよ、早くしておくれ。息子の家の人間まで借り出しているんだ。そのうち不平不満が爆発しそうだよ」
「もう、目星は付けて来たから、帰ったら交渉するよ」
「頼むよ、営業部長さん……」
僕たちの会話が聞こえたのか……、奥からミズエさんが車椅子で出て来た。
「お帰りなさい……、無事だったのね……」
「釧路は、いい人ばかりだったよ。北海道の人は、本当に皆、心が温かいと思ったよ」
「心くらい温かくなければ、凍えてしまうもの……」
「本当に……、助けられてばかりだったよ」
「でも、怒るかもしれないけど……、婚約は解消よ……」
「え、どうして……」
「だって、あんなに奇麗で、優しい、素敵なハルナさんがいるじゃない……、ヒロが釧路に行ったすぐ後に、ハルナさんがここに来たのよ。私も、抱いてもらっちゃった。私もハルナさんが好きになっちゃったから……」
「ミズエ……、それは言っちゃーいけないことだろう」
「大丈夫よ、お父さん、そんなことをヒロに言っても、ヒロの気持ちは変わらないから」
「僕も、うかつでした……、ハルの気持ちまで考えられなかった。自分が生きていることを早く知らせたかっただけなんだけど……」
「でも、それで良かったと思うわ。ハルナさんも安心して帰って行ったから……」
「そう……、良かったよ……」
「明日、帰るんだろう……、三億円はどうするんだい……?」
「手紙にも書いたように、一億円ずつもらってください。僕は、帰ってハルと相談します。早く使っちゃってください。いつ返せって言われるかわかりませんので……」
「そう思って、うちは使わせてもらったよ。借金を返して、来月、ミズエを札幌の病院で入院だ……」
「それは良かった。僕のは、もうしばらく預かって置いてください……、何なら、僕の一億円も使ってもらっていいですから……、ハルはそんなに欲張りではないですから……」
「ありがとうよ。さー、ご飯にしようよ。今日は三人が帰ってくるまで、食べずに待っていたんだよ。お祝いの焼肉パーティーさ……」
「それは、嬉しい……、また、帰りたくなくなっちゃうな……」
「嘘……、今にも飛んで帰りたいくせに……」
「わかってしまったか……」




