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39.追撃と海底基地

(追撃と海底基地)


 突然、ベガの声……

「不明な物体が鯨に近づいて来ます。全体をソナー撹乱幕で覆われています。距離二千」

「近いわね……、潜水艦……?」

「沈黙しています」

「じゃー、帯広に来た露国軍の片割れの潜水艦ね……?」

「いえ、国防軍です。ソナー撹乱幕は、ケンタウル舎の開発した物ですから……」

「じゃー、潜水艦も我が社の作った物……?」

「多分……、姿が見えないので、確定できませんが、ケンタウル舎が日本を離れた時に、外洋で訓練に出ていた二隻の潜水艦が確保されていませんでした」

「どうして、すぐに確保しなかったのよ……?」

「ソナー撹乱幕は、磁性流体を使っていますから、液状磁石の様な物。こちらの通信を受けられません。しかし、撹乱幕の中からも、外には通信できませんから、お互い様です」

「何を呑気なことを言っているのよ。どうすればいいのよ……?」

「逃げましょう……」

「何よそれ……、天下のケンタウル舎が逃げるの……?」

「体当たりして、潜水艦を沈没させる事は容易いですが、人的被害が出ます。逃げるが勝ちです……」

「そんなの、全然、勝っていないわよ」

 鯨は、急旋回して黒い物体から逃げた。

「魚雷十二発接近中……、内三発当たります」

「確率……、悪いわね」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう……?」

 鯨は、更にスピードを増して逃げる。

「魚雷までの距離千メートル、着弾数十二発、ホーミング魚雷です」

「今時ならそうでしょう。ヒロ、シートに座ってシートベルトしてよ。暴れるわよ!」

「え、え、え……、暴れる……? どこに座ればいいんですか……?」

「操舵席でいいわよ。早く!」

「魚雷……、破壊します」

 鯨型多目的運用艦は、尾びれを大きく跳ね上げ、跳ね下ろし、着弾前に海流の渦を魚雷に浴びせた。

 魚雷は錐揉みとなって、互いにぶつかるもの、衝撃波で爆発するもの、十二発全て殲滅した。ドーム上のスクリーンの後方では、次々に爆発する魚雷が確認できた

「……、凄いですね……」

「スクリュウで動く潜水艦じゃーないのよ。鯨よ……、鯨を舐めているわね」

「でも……、追われている状況は変わりませんが……」

「第二弾、来ます。魚雷十二発、距離二千……」

「懲りないわね……、魚雷一発いくらなのよ。税金の無駄遣いよ!」

「最新式魚雷ですので一億円くらいです」

「それは、いいのよ……、でも、教えてくれて、ありがとう」

「……、でも、どうするんですか……? 逃げてばかりでも……」

「あ、茜……、基地に連れて来ては駄目よ……、そこで何とかしなさい!」

 スクリーンの中のスミレさんが叫ぶ。

「お姉さん……、冷たい……、どうするのよ……?」

「魚雷までの距離、千メートル、破壊します」

 鯨は大きく跳ね上がり海流の衝撃波を魚雷に浴びせた。

 スクリーンの後方では、爆発する魚雷が多数目撃された。

「全て殲滅……、こちらから攻撃します」

「ベガ……、殺しちゃー駄目よ」

「心得ています……」

 鯨は大きく方向転換して、ソナー撹乱幕の闇の物体に向かった。

 鯨は、撹乱幕の側ですれ違うと、撹乱幕は鯨に吸い付けられる様に吸収されていった。

「撹乱幕収容しました。元々、こちらの物ですので、この鯨でも運用できます。基本磁石ですので、より強い磁力の方にくっ付きます」

 ソナー撹乱幕が無くなった後には、二隻の潜水艦が現れた。

 すかさずベガは、コバンザメ型ドローンを全機出動させ、二隻の潜水艦に穴を開けた。

 潜水艦は、まもなく浮上して、白旗と救援要請の国際信号旗が上がった。

「どうするのよ……、北海道のこんな所で……、救助なんか来ないわよ」

「とりあえず、チャイコフ大佐に連絡して駆逐艦を出してもらいましょう。ベガ……、連絡してくれる……?」

「了解です……、ついでに函館海上自衛隊にも報告しておきます」

「世話をかけるね……」

「お安いご用です」

「ベガって……、だんだんヒロの喋り方に似てこない……?」

「そうですか、嬉しいです……」

「ベガ……、俺なんか大したことないから、もっと立派な人間を手本としろよ……」

「例えば誰ですか……?」

「身近で言えば、スミレさんとか……?」

「あら、私でいいの……?」

「スミレさんでしょう……? この鯨の推進力の人工筋肉を作った人は……、凄いです。助かりました……」

「私も手伝ったのよ」

「茜さんも、いつになく大胆で好きですよ……」

「どう言う意味よ……、大胆の意味が分からないけど……?」

「いつものヒロの当たり触りのない、大好きの大安売りよ」


 その時、壮年の男性がスクリーンに映し出された。

「お父さん……、スイスじゃーないの……?」

「今、帰って来た……」

「お母さんとは、仲良くできたの……?」

「スミレと一緒にいる様だったから、早速逃げて来た……」

「失礼ね……、お母さんほど酷くないわよ!」

「でも、残念だけど、すぐに茜を連れて、またスイスに戻る。でも、いい時に帰って来た……、キーマンのヒロ君に逢えた」

「お父さんて……、もしかして、社長さん……?」

「そうよ……、ケンタウル舎の社長よ」

「社長と言っても、偉くないけど……、息子と娘には頭が上がらんよ」

「いえ、噂は、よく聞いています。自分と同じくらい星が好きなこと……」

「星はいいよな……、見ていると嫌なことも忘れられる。宇宙は広い……」

「本当ですね……、星の好きな人に悪い人はいませんから……」

「いいことを言ってくれるね……、ユリコにも聞かせてやりたいよ。せっかく、潜水艦に乗っているなら、本社に来ないか……、海底基地を案内するよ」

「駄目よ……、これから、ヒロと楽しいことをするんだか……」

「社長……、お願いします。海底基地、見たいです。すぐに行きます!」

「何よ、ヒロ……、逃げる気ね……」

「いえ、社長のお誘いだから……」

「茜は、ヒロを下ろしたら、そのままスイスに向かってくれ。ユリコが、一人でまごまごしている。手伝ってやってくれ」

「え、えー、……、私、まだ、ヒロに抱かれてないわ……」

「仕事が終わったら……、ヒロを好きなだけ抱かせてやるから……」

「社長……、そんないい加減なことを言っては、困ります」

「何を言っているんだ……、君は知らないのか……? 茜だぞ……、一億円払ってでも抱きたい女だぞ……」

 ベガが、すかさず話に割って入った。

「社長……、セクハラです。禁止されています……」

「何を言っているんだ。これは茜を褒めているんだぞ……」

「あら……、一億円出してもらえるのならいいけど……」

「あ、茜……、あんたを解任するわ。私が秘書として社長を監視するから……」

「それは、やめてくれ……、何もしないから、茜で頼む……」

「え、えー、私、ヒロの傍がいいわー」

 その時……、ベガの声……

「海底基地に着きます……」

 前方のスクリーンを見ると、海底の広々としたところに、ドーム型の野球場を思わせる様な透明な球体が、イルミネーションの様な明かりの中、まるで別世界の様な輝きで映し出されていた……



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