33. 講和条約とケンタウル舎
(講和条約とケンタウル舎)
露国軍が帯広に来てから、二周間がすぎた。
露国は戦争継続は困難と悟ると、日本国に講和条約と宇宙船シャトルの共同開発、共同使用を申し出た。
これに対して国防軍は、信用できないと突っぱねたが、時の政府は快く了承した。
そして、露国の脅威がなくなると、国防軍は解散し、元の自衛隊に格下げされた。
一元情報統制も解除され、国家保安局も自衛隊情報部に名前を変え自衛隊の一部に編入された。
露国軍に占領されていた釧路、網走、知床は、無条件で日本国に返還された。
しかし、露国軍格部隊の意向で、今までの滞在経費を支払うことと、全ての自国の軍艦修理の理由で将兵たちは、そのまま駐屯地に留まり、今まで通りの出向勤務を続けた。
勇んで本国に帰りたいと言う将兵はいなかった。
そのお陰か、帯広宇宙開発基地周辺にシャトル建造施設が、次々に建設され、露国の資本も入り急ピッチで進められた。
そんな折り、ケンタウル舎の原油タンカーよりも大きな五隻の艦隊が帯広沖に現れた。
シャトル建造用の資材と新たに建設されるシャトル工場の資材と露国将兵の食量を運んできたと言う。帯広市市長は、それを歓迎した。
ヒロたちは、講和条約によって、敵国でもなくなった釧路のジャージーホームにいて、ホットドックの店を営業して時間を潰していた。
ジャージーホームの三階から見える朝の様子は通勤を急ぐ人で賑わっていた。
「ヒロ、今日、帯広に行くか……?」
「……、営業か……?」
「営業もあるけど……、ケンタウル舎の艦隊が来ていると言うぞ。見物も含めて……、凄い変わった戦艦が五隻も来ているそうだぞ……」
「ケンタウル舎と言うのは、あの国防軍に追われていた会社か……? 日本の軍備を一手に建造して全て持ち出していったと言う……」
「平和になったから、のこのこ現れたのさ!」
「そもそも、帯広の宇宙基地はケンタウル舎のものなんだろう……、それをベガの力とはいえ、勝手に稼働させ、国防軍から賄賂までせしめて、ちょっとあそこには行けないぞ」
「それも、そうだな……、俺たち犯罪者か、詐欺しか……?」
「その言い方も、引っかかるけど……、もう国防軍は無いし……、金の流れは霧の中だ。横島局長はどうしているんだ……?」
「あれから連絡はないが、ヒカルの話だと収監されたそうだぞ……、国防軍の時に、かなり強引と言うより、あくどく無茶苦茶なことをやっていたからな。でも、それを言ったら、政府も同罪だからな……、そのうち不起訴で釈放されるだろう。形式的なもんだよ……」
「平和な国に戻るまでの戦後処理だな。ご苦労なことで……、それより俺たちは、敵情視察に来て、いつの間にか戦争も終わって、国防軍も無くなって、帰るところがなくなってしまったな。何処に帰ればいいんだ……?」
「それはやっぱり、元いた国防軍の前線基地だろう……、国防軍では無くなったけれど、軍隊は未だ駐屯しているからな」
「じゃー、役目も終わったし、北海道独立国家構想も、国防軍と共に吹っ飛んでしまったし、そろそろ基地に帰ろうか……?」
「そうだな。基地に帰れば除隊もできるかも知れないからな。もう国防軍ではないからな」
「……、そうだよな。戦争は終わったんだ。国防軍は無くなったんだ。俺たちは自由に帰れるんだ。そんな事、忘れていたよ……」
「本当だ……、余りにも激動の一か月だったからな」
「耕作のトラックはいつ来るんだ……?」
「明日、来るんじゃないのか……?」
「もう検問もないから大手を振って帰れるな。それで除隊、清里に帰れる。嬉しい……」
「ちょっと、寂しい気もするけどな……、ヒロと一緒にいて、楽しかったよ」
「気持ちの悪いことを言うなよ。リュウは除隊したら、また釧路に戻ってくればいいじゃないか? ヒカルさんとジャージーホームをやればいいさ。帯広に更に一〇万人の将兵が増えたんだ。忙しさ、満載だ……」
「そうだな……」
「とりあえず、除隊だ。民間人に戻るんだ!」
「ヒロー、嬉しそうだな……、お前も、戦後処理には少しは責任があるんだぞ。ベガを引っ張り出したのは、ヒロなんだから……」
「そうか……? でも、ベガはもう俺の手を離れて、自立しているから、俺が何もしなくても世界の平和は保たれているよ。そんな事よりも、清里に帰るのが先だ……」
「嬉しそうだな、ヒロ……」
「嬉しいよ……、耕作のトラックは露国の駐屯地に行くんだろ。チャイコフ大佐にも挨拶して行けるな。明日か……、待ち遠しいな!」
「子供みたいだな……」
その時、リュウの隠し持っていたスマートフォンのバイブ機能が着信を知らせた。
「おー、局長からだ。早くも釈放か……?」
「早いな……、もっと叩けば、ホコリも出るのに……、きっと、早く帰ってこいって言うんじゃないのか……?」、リュウは、その場で応答した。
「はい、はい、リュウです……?」
「あんたには、用がないわ……、そこにヒロがいるんでしょう。出してちょうだい……」
リュウは、スマホをヒロに向けた。
「生意気な女の人だ、ヒロを出せってさ……」
「情報局の女? 知り合いはいないけど……」
ヒロは、恐る恐るリュウからスマートフォンを受け取った。
「もしもし……、代わりました、ヒロです……」
「久しぶりね……、元気そうで、良かったわ……」
「えー、どちら様でしたか……?」
「ご挨拶ね……、私の裸を見たくせに……、もう他人ではないのよ……」
「え、えー、そんな……、え、スミレさん……、いえ、茜さん……?」
「そうよ……、忘れるとは、どう言うことよ!」
「いえ、このスマホ、情報局のものだから……、茜さん、情報局に居るんですか……?」
「居るわけないでしょう……、ベガに頼んで、ヒロを探してもらって、近くのスマホを鳴らしたのよ。あんた、スマホも持っていないのね」
「あ、あは、はは……、戦時中は、情報統制でスマホは役に立たなかったんですよ……、それより、何処にいるんですか……?」
「ケンタウルの戦艦よ。宇宙船資材を運んできたのよ」
「確か……、スミレさんに付いて宇宙ステーションに行ったんでしたね……?」
「ヒロも来れば良かったのに……、貴方は教授に付いて行って、天文台に行ったのね……」
「僕の役目は終わったので……、スミレさんは元気ですか……?」
「逢いたい……、……?」
「そうですね……、でも、僕は、振られた方ですから……」
「え、そうなの……? そんな話は聞いていないけど……」
「昔のことですよ……、でも、電話をしてくれたという事は、何か用があったんですか?」
「上手に話を反らすのね……、私が逢いたいと思って、電話をしたのよ。私の裸だけ見て、何もしてくれなかったから……」
「もうー、またそれを言う……、酔っている人に、そんな事できませんよ」
「じゃー、今なら大丈夫ね。十勝港に来ない……? 逢いたいわ……」
「十勝港ですか……?」
「そうよ……、ケンタウルの戦艦に乗せてあげるわ」
「僕を拐わないでくださいね……、天文台に帰るんですから……」
「拐わないわよ……」
「友達も連れて行っていいですか……?」
「それは、駄目! 超極秘事項だから……」
「またですか……? とりあえず、そちらに行きますよ」
「待っているわ……」




