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27. シャトルの行方と国防軍

(シャトルの行方と国防軍)


 横島局長が電話に出るのに、しばらく時間が掛かった……

「お忙しそうですね」

「お陰様で、まさか電話をもらえるとは、思ってもみませんでした」

「お久しぶりです……、元気にやっていますよ」

「それはよかった。軍隊もいいものでしょう」

「そうですね……、現金百万円を持たせてくれて、釧路に派遣させてくれました」

「それの報告は受けています。その成果を直にしてもらえるのですかな……?」

「国防軍の欲しいのは、シャトルですね。それに、宇宙ステーションを建設するためのリニアトラック……」

「それは、もう発注済みでして、納期が遅れて困っています」

「国防軍が追い立てたのではないですか……? 天文台の時のように……」

「あれは、国家的犯罪が行われていたんですよ。当然の閉鎖です」

「ケンタウル舎ですか。彼らは何をしたんですか……?」

「国防装備を持って逃げたんですよ。地下に潜ったと言ってもいい。あれは、税金ですから、ケンタウル舎の私物じゃない」

「しかし、国防装備、詰まり兵器など意味がないじゃ無ですか。動かないのだから……」

「その通り、だからベガを探していたんですよ」

「ベガは、こちらにいます」

「それはよかった。こちらに引き渡してもらいます。さもなければ、破壊してください」

「ベガは、インターネットの中に住んでいる人間なんですよ。人間なんて言うと分かり難いかもしれませんね。バーチャルな人間なんです。貴方と同じように、人を愛する心を持っています。善悪の区別もつきます。戦争、戦い、人と人が殺し合うことは悪いこと知っています」

「それはどうでしょうか。ベガが兵器を使えなくしたことで、抑止が効かなくなり、世界の戦いは、益々増えました。まさに戦国時代ですよ。国境紛争は、至る所で起きています。兵隊は自動小銃と手榴弾で戦っています」

「そうですね。しかし、それでいいと思います。人の手で、人の目の前で、人が死に、殺され、血が飛び出し、内臓が破裂する……、首がもげ、腕がちぎれる……、そんな惨状の中で、殺し合うことの残酷さと悲惨さ、無益なことを知れば、いつか人は矛を収めるでしょう。納めなければ人の精神が持たない……、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、戦争神経症……、それが普通の人間の反応ですよ。それを知らないのは、安全なところで見ている、貴方がた戦争指導者だ。貴方がた戦争指導者が、いつか残酷と悲惨な惨状を知れば、戦わずに済む方法を探るでしょう」

「それは、有り得ない。現に今も、露国軍が理不尽に攻めてきていますから、国防軍は、戦わなければならないのですよ。国を守るため……、次は帯広ですよ……」

「やはり、大樹町の宇宙開発基地でしょうか……?」

「露国も宇宙ステーション建設を急いでいるようなので……」

「それでは、共に使えばいいじゃないですか……?」

「誰もかも、自国のために独占したいのでしょう。それだけ切羽詰まっているのですよ」

「そんなに宇宙は住みやすいところでしょうか……?」

「灼熱の地球よりましと言ったところですよ」

「誰がそんな地球にしたんですか……?」

「それを私に言っても、しょうがないこと……、人類すべての責任ですよ」

「それなら、人類すべてで、償わなければならないのでは……? 宇宙に逃げる前に……」

「私は、専門ではないが、地球環境が元に戻るための限界点を越えてしまったと聞いています。メタンハイドレートが融解を始めたとか……」

「それでも、地球史において、何度でも、絶滅と再生を繰り返してきています」

「だから、ノアの箱舟なんですよ。宇宙ステーションは……」

「罪のない、民を放置して、ですか……?」

「民は、自ら犯した温暖化の罪を、灼熱の地球の中で償うんですよ。先ほど貴方が言ったように……」

「そして、我先にと逃げるのは、温暖化を先導した、企業の富裕層と役人ですか……?」

「それは、私の知るところではありません。強いて言えば、人類にとって役に立つ人間としておきましょう」

「まー、いいでしょう。ノアでも何でも好きにすればいい。地球を脱出したければ、手を貸しましょう」

「それはありがたい……、いつになりますかな……?」

「もう、すでにベガによって、シャトルの建造は始まっています。建造中の物は、間もなく完成するでしょう。飛行試験を含めて、秋には渡せると思います。ただし、賄賂をいただければ……」

「賄賂……、それは、どういうことですかな……?」

「普通の商業取引ですよ」

「もう、建造費は出していますし、契約は履行しているはず……?」

「それは、ケンタウル舎との契約でしょう。ケンタウル舎が、建造しない代わりに、私が執行するのですから……、当然、賄賂がいるでしょう」

「お金で、済むことでしたら……」

「多くは言いません……、3億でどうでしょう……?」

「3億……、何を言っているんですか。バカバカしい……」

「安いものでしょう……、戦闘機1機10億円の時代ですよ……、最新鋭の戦車でも8億円、巡航ミサイルでも2億円くらいするじゃないですか。でも、賄賂、裏金ですから、10億欲しいところを、3億にしたんですよ」

「どこに振り込めば、いいですかな?」

「局長は商売には、疎いようですね。現金ですよ。旧札で3億、黒岩牧場まで届けてもらいます」

「それだけの現金、私の一存では動かせない。持ち帰って話し合いたい」

「もちろん、いいですよ。ただし、急がないと露国軍が賄賂を出すかもしれませんよ。私は、どちらでもいいので……」

「承知した……」

「それでは良い返事を待っています。私は、しばらく釧路にいますから……」

 それには答えず、電話は切れた。


 市長は、薄笑いを浮かべて、ヒロを見た。

「賄賂で3億ですか。羨ましい……、こちらにも少し回して欲しいものです」

「市長……、収賄ですよ」

「そう言う君こそ、国防軍だから公務員ですよ」

「そうだった。忘れていました。でも、賄賂といっても裏金ですから、表には出ないでしょう。市長には、多額の税金が入ってきますから、それで、我慢してください」

「市長を辞めたくなりましたよ」

「それで、3億、手に入れたら何に使うんだ……?」、リュウがヒロを睨んで言った。

「え、え……、結婚資金にしようかと思って……」

「え、まさか、そんな私的なことで……?」

「ハルは……、ハルって言うのは、僕が結婚したいと思っている人なんだけど、貧乏だと嫌だって言うんですよ」

 ヒカルもリュウの横で、ヒロを睨んで言った。

「あ、貴方、本気で言っているの……?」

「まー、いいじゃないですか。国防軍からしてみれば、3億くらいミサイル1機の値段ですよ。それにシャトルは、もともと国の物ですし、いずれ渡さなければならない事なので、その再開を助けたのですから、3億は安いんじゃないですか?」

「ヒロ、いい度胸しているよ。俺よりも、商売人に向いているよ。それとも、詐欺師か?」

「お陰様で、生死を賭けた兵隊までやらされているから、でも、もし3億届いたら、1億は黒岩家に渡すつもりだ。あと1億はリュウとヒカルさんに、残りはハルに渡すつもりだ」

「俺たちに1億……?」

「そうさ……、リュウとヒカルさんがいなければ、ここまで来られなかった。ベガとも逢えなかったと思うよ」

「それほどの事はしてないけど……」

「もしかしたら、人類を救ったのは、リュウとヒカルさんかもしれないぞ。そう思えば、1億円なんて安いものだよ」

「でも、1億円はいいけど……、局長が言っていた、露国が帯広を狙っていると言うのが気にかかるが……?」

「市長、露国軍10万の将兵を駐留させるだけの土地はありますか? できたら、宇宙開発基地の側がいいのですが……」

「もちろん、空いていますよ。ここは北海道ですから……」

「それと、冬に備えて、宿舎も発注してください」

「10万の兵ですか……、大変なことになりますね」

「分からないことがありましたら、ベガに訊いてください。市長の助けになってくれるはずです」

「え、どうやってですか……?」

「簡単です。総合窓口に電話をしてください。ベガが必要な時は、ベガに繋がるはずです」

「釧路のときのように露国軍は、おとなしく、こちらの言うことを聞いてくれますかね」

「今回は手こずるかもしれませんね」


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