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26. 宇宙開発基地とシャトル

(宇宙開発基地とシャトル)


 翌日……

 犬神市長のはからいで、三人で帯広市の宇宙開発基地の視察に出かけた。

 ケンタウルス舎の工場が稼働していたころは、毎月のようにシャトルを飛ばして宇宙ステーションの建設にあたっていたという。

 宇宙開発基地は海沿いの広大な敷地に、旅客機が作れそうなほどの大きな工場が併設されていた。

 工場の中は、製造途中のシャトルが二機、放置されていた。

「それじゃー技術者が集まれば、シャトルは作れるのですね……?」

 留守番役の工場長に訊いた。

「もちろんですよ……、資材は運ばれているのに手が付けられません……」

「元いた従業員は、今どうしているのですか……?」

「自宅待機じゃないですか……? 私を含めて給与は出ていますので……、でも隣の民間ロケットの製造を手伝っている者もいますけど……」

「給与が出ている……? 太っ腹なことで……」、リュウが羨ましそうに横目で言った。

「だから、すぐにでも再開すると思っていましたが、一年間も放置されるとは思ってもみませんでした……」

「じゃーシャトル建造の作業員は、すぐにでも集まるんですね?」

「でも、監督や指揮をとってくれる技術者が雲隠れしているんですよ……」

「そちらの方は、すぐに連絡が取れると思います」

「そうなんですか……?」

「ベガ、聞こえているな……、早速、連絡してくれ……、明日から作業開始だ。来られる者からでいい。随時、再開だ!」、ヒロが周りを見回しながら叫んだ。

「了解です……」、何処からともなく、ベガの声。

「ベガがここにいるんですか……? 国防軍の役人が来て、さんざん引っ掻き回して行きましたけど……」

「ベガは何処にでもいますよ。私たちを見守っています」

「そうだったんですね。ここは、ベガの指示が半分です。ベガがいなければ、シャトルの組み立てはできないし、打ち上げもできません」

「大丈夫です。以前のようにベガは働いてくれますよ」

「それで、国防軍が攻めてきませんか……?」

「それをこれから帯広市長に会って、政府と話し合ってきます」

「よろしくお願いします」


 宇宙基地が稼働することを確認してから、三人は帯広庁舎に向かった。

 面会は釧路市長のはからいで、歓迎されて市長室に入った。

 帯広市長は若く、まだ四十代に見えた。

「よく来てくれました。犬神さんから、色々と聞いていますよ」

「それは嬉しいです。でも、ちょっと風向きが変わったみたいなんです」

「風向き……、どう変わったんですか? 北海道独立構想……、いいと思いますよ。今の政府では国を滅ぼしかねない。だいたい報道管制、国防軍など戦時中の日本軍ではないですか……、早く本土と切り離して独立しないと、新たな戦争に巻き込まれます。今度は何を言ってくるのか分からないですから……」

「もう隣に露国軍だから、すでに巻き込まれている様に見えますが……、それでも前に何か言ってきたんですね……?」

「帯広空港の半分を国防軍が使いたいと言ってきたんですよ。しかし、ベガのお陰で戦闘機も輸送機も、一機も飛んできませんでしたけどね」、市長は笑って言った。

「そうなんですね……、実は、ここに来る前に宇宙開発基地の稼働を確認してきました。政府の欲しがっている物はシャトルですね……?」

「そうらしいですけど……、とりあえず、10機注文が入っているはずです」

「10機ですか……、今、二機の製造過程を見てきました」

「予算が入れば、ケンタウル舎の隣の民間の工場でもシャトルを製造する予定でした」

「何故、そんなに必要なのか? 海外に売るつもりでしょうか……?」

「さー、何に使うか分かりませんが、宇宙ステーションの建設のためとは聞いていますが」

「日本には、立派な宇宙ステーションがあるでしょう……?」

 ヒロの言葉に続いて、リュウが思いついたように、市長室の後ろから叫んだ。

「コロニーじゃないですか? 宇宙コロニー……? もうー、三、四年前ですが、米国基地を探っていたとき、宇宙に移住するためのコロニーが必要と士官が言っているのを小耳に聞いたんですが、ただの噂だと聞き流してしまいました」

「宇宙に移住……、温暖化で住めなくなった地球を見捨ててですか……?」

 市長は、今言ったことばを笑いながら打ち消すように……

「しかし、それはないでしょう……、いくらコロニーと言っても、住民すべてを空に上げるなど……、アニメじゃないですから……」

 リュウは、前に出て来て、真面目な顔で言った。

「それでも政府とか、役人とか、富裕層だけとか、少しの人間なら豊かに暮らせるんじゃないですか? タワー・ヒルズや超高級マンションのように、その中にいて生活が完結できるような施設なら……」

「タワー、ヒルズくらいの規模なら、もう空に上がっていますよ。それが今の宇宙ステーションですから、しかしそれくらいの規模なら街一つも入りきれないでしょう」

 ヒロも市長に合わせて言った。

「じゃー、それを幾つも空に上げたいのではないですか……?」、リュウの話し方は真剣だった。その顔には、ジャーナリストの片鱗が見えた。

「何一〇年もかかりますよ。それより、温暖化対策を急いで、気温を下げた方が得策です。百年で二度、気温が上昇するのなら、今の技術なら10年で1度下げられます。真剣に温暖化対策に取り組めば……」、ヒロの昔からの考えだった……

 市長の笑いが止まった。その後は寂しい笑いになった。

「初めから、その気はないのでしょう。地球サミットが開かれて50年、日本の平均気温は上がり続けている。去年の夏など、35度を超えました。ここは北海道ですよ。空に逃げたくなるのも分かりますが……」

「どちらにせよ……、国防軍、政府の欲しがっているのがシャトルと分かれば、交渉できます。カギはやはりベガだったんですね……」

 ヒロは薄笑いを浮かべた。

 市長は、思い出したように、もう一つ重大な発言をした。

「それに、宇宙開発基地には、世界で二台しかないリニアトラックがあるんです。人間を運んだことはないですが、宇宙ステーションの機材を無人で宇宙に上げられます。これなくして宇宙ステーションを短時間で建設できません」

「言わば、ハイパーループですか……?」

「そうです。円筒形のほぼ真空のチューブの中をリニアトラックで、マッハ・3位まで加速させ、後はロケットで打ち上げるんです。ブースターを使わずに空に上げられる一番の方法なんです」

「そんな最先端技術、世界に輸出できるじゃないですか……?」

「しかし、ケンタウル舎は技術供与を拒んだんです。ロケットを使わないミサイルができると言って……」

「無音の兵器にも使える。それも喉から手が出るような技術ですね」

「だから、私は独立構想には賛成です。宇宙産業、宇宙技術だけで帯広は、いや北海道はやっていけます」

「大きく出ましたね。でも、本土とも争いたくないですから、シャトルを製造して政府に販売しようと思っています」

「しかし、もともとシャトルは政府の物ですよ。予算が入っているはずです」

「それでは、製造を再開するための手数料としましょうか。ベガはこちらにありますから」

「政府はともかく国防軍が話に乗りますかね。今、力を持っているのは国防軍ですから」

「釧路に総攻撃だ、と言ってきたのも、国防軍ですから、国防軍に払ってもらいましょう」

「あの、国防軍の横島局長は、私は気に入りませんが……」

「それでは、その横島局長に電話しましょう。市長、受話器を取ってもらっていいですか」

「受話器ですか……?」

「電話をかけるので……、スピーカーにしてください。みなさんに聞こえるように……」



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