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22. 敵の前線基地の中と大佐

(敵の前線基地の中と大佐)


 ヒカルさんに連れられて、大佐の部屋に入った。

 チャイコフ大佐は、立って窓の外を眺めていた。

「彼が、噂のキーマン……?」

「彼が、一条ヒロ……」

「僕がここに来ることを、前々から知っていたんですね」

「こちらにも、情報網はある……、それに君が掛かっただけだ」

 大佐は、背中を向けたまま、僕たちを無視するように窓の外を眺めていた。

「これから、どう為さるつもりですか……?」

「それは、こちらが訊きたいことだ」

「このままでは、戦争になりませんよ」

「そうだな……、向こうでは、何をしている……?」

「いえ、何もしていません……、検問所の警備と貴方がたの見張りだけです」

「ご苦労なことだ……」

「本当に……、何のために戦っているのでしょう?」

「君には、この結末が分かっているのではないのかな……?」

「少しだけですが……」

「聞かせてもらいたいな……」

「すべては、仕組まれたことだと思っています。大佐は何処まで知っているのですか?」

「私は、何も知らない……、ただ命令に従っているだけだ。軍人だからな」

「それでいて、戦わず、兵隊に街で仕事をさせている。凄いことだと思っています」

「兵たちに、仕事をしてもらっているのは、生活のためだ。本国からの送金が止まったからだ。給与意外だが……」

「どう言うことなんでしょう……? 本国から見放されたんでしょうか……?」

「それでも、給与は振り込まれているから……、まだ、我が国の軍隊だ。それでいて、占領地のことは占領地でやれというのなら、働いて稼ぐしかないじゃないか……、戦いより先に生活だ。俺はそう思っている」

「素晴らしい考えです。武力を使わずに、この街に順応しようとしている」

 大佐は笑って振り返り、私とヒカルと初めて向き合った。

「武力……、拳銃と自動小銃だけで戦争をするのか、昔の騎馬戦だな。今は、馬すらない」

「そうですね……」、僕も笑って答えた。

「それでは、今度は、君の考えを聞かせてもらおう。仕組まれたとはどういう事かね?」

「簡単な推理ですよ。日本から米国軍が撤退して、国防軍がその後を継いだ。間もなく、露国軍が攻めてきた。普通に行けば、今頃、本土上陸でしょう。そうなれば、日本国は、米国軍を頼りにするしかない。しかし、米国軍は、ベガと引き換えでないと協力しないと言うでしょう。追い詰められた日本国は秘密結社ケンタウル舎に助けを求める。それで地下にもぐっているケンタウル舎の所在がばれると言った、三国合わせた陽動作戦ですよ。もっと多くの国が関わっているかも知れませんが……」

「逞しい、想像力だな。ベガを捕まえるために、三国、血眼になって探しているのかね」

「その様です。何故、そんなにベガが邪魔なのでしょう。戦争が無くなればいいじゃないですか。ベガは平和を守っています」

「それは、政治家が考えることだ。私は、部下を守るだけだ」

「それが、何よりです。この街に来て分かりました。兵隊も街の人も、皆、幸せそうに暮らしていました。大佐のお陰です」

「そうかね。しかし、こんなこと、いつまで続くと思っているのか。あちらさんでは、騎馬戦すらやりかねない勢いだぞ。戦わせるなら、金をよこせと言ってあるがな」

「でも、これは茶番劇です。ただのベガをおびき寄せるための……」

「小競り合いでも起これば、ベガが出てくると思っているのか……?」

「そう思っているから、嗾けているのでしょう。ベガに人と人が殺し合う行為を止める力はありませんよ。ただのコンピューターですから……」

「目的は多分、ケンタウル舎の所在だ。ベガの力で隠している……」

「ケンタウル舎に何があるんですか……?」

「ベガが居るんじゃないのかね……?」

「ベガは、すでに世界中のコンピューターの中に住んでいます。私たちの細胞一つ一つのように……、一つ二つ破壊しても意味はありません」

「しかし、それでもベガを潰さなければ、世界の戦争抑止の力が効かない。核の睨みが効かないのだよ。ニュースには出てこないが小国では国境紛争が多数、起こっているのだよ」

「何で戦っているんですか……、素手ですか?」

「そうだ、素手の様なものだよ。剣と矛で、古代に帰った様な戦いだよ」

「人は、そこまでして戦いたいのでしょうか……?」

「仕事だからだ。兵隊でいれば、幾らかの報酬が得られる。他に仕事はない。貧しい国とは、そう言うところだ……」

「戦わず……、平和に暮らしていける方法があるはずです。貴方のように……」

「貧しいということは、それすら許さないのだよ。戦って奪い取る。それだけだ……」

「相手のことを思い、分かち合って穏やかに暮らす心は無いのでしょうか?」

「そんな寝言を言っていると飢えて死ぬぞ。敵対する者は地を這うゴキブリくらいにしか思っていない。ただ足で踏みつぶすだけだ」

「でも、三年前までは、世界は平和に暮らしている様に見えましたが……」

「それは、君のいる日本だけだ。世界は紛争の中にいる。未だに終わらない。君は、そんなことを言うために、ここに来たのかね……?」

 僕は、大佐から目線を反らし窓の外を見て、苦笑いして見せた。

「ここに来る前に、経済学の大学教授に逢って来たんです。今の大佐と同じことを言われました」

「それで君は、何をしに来たのかかね……?」

「大佐……、ジーン・シャープを知っていますか……?」

「独裁者を倒すという、民主化運動の立役者だ……」

「僕は独裁者を倒すために来たんですよ」

 大佐も笑って答えた。

「確かに、ジーン・シャープの言うようにすれば、独裁者は倒れるかもしれない。しかし、それは理想だ。確かに民衆が独裁者の言うことを訊かなければ独裁政権は倒れる。領主に食べ物を持って行くのを止めた猿と同じだ。領主は自ら食べ物を作れないから飢えて死ぬ」

「そうです……、独裁者は常に安全なところにいて民衆を駆り立て、戦わせて死に追いやっているんです」

「しかし、現実は一枚岩じゃないんだ。領主に擦り寄って甘い汁吸おうとする者が出てくる。分け前だよ。そう言う連中は、より多くの猿を使って民主化を潰すんだよ。まさに人の業と言うものじゃないかね。だから成功することもあるが、また失敗も多くあるんだよ」

「それでも、僕は戦争を止めて、独裁者を無くしたい」

「やはり、君は危険分子だな。この政権の転覆を考えている」

「大佐だって、そうじゃないですか。本国の意向を訊かない……」

 大佐と僕は、睨み合いながら、笑った……


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