21. ベガの成長と将棋ソフト
(ベガの成長と将棋ソフト)
「え、……、じゃー、アカネさんも以前のベガ開発プロジェクトだったんですか……?」
「そうよ……、AI(人工知能)のディープラーニング(深層学習)と人間的アルゴリズムは、神経工学科で作ったのよ。それから、ベガプロジェクトができて、中止にさせられて……、そして、ベガの心と体を作るために、この部屋を私とアカネで設計したの……、でも、上手くいかなかったわ。それで、また閉鎖……、そして、貴方が来たのよ」
「ディープラーニングと人間的アルゴリズムで上手くいかなかったんですか……?」
「そう……、そもそも、人間的アルゴリズムが、人間的ではなく機械的だったのよ。それに、ディープラーニングの階層的ニューラルネットワークが、個別に計算してしまったのよ。人間になるには、人間を教えなければ駄目だと思ったわ。そこに貴方の論文、メンタルモデルのアルゴリズムが人間にするという論理が登場して……、それを取り入れて、また再開したというわけ……」
「じゃー、すでにメンタルモデルの構築のアルゴリズムは実行されているんですね」
「そうよ……、貴方の論文をそのままベガに読ませて、理解させて、自分で再構築させたのよ。だから、モデルパターンは、ずいぶん集まっていると思うけど……」
「論文提出は、秋でしたから、半年くらいですか……?」
「そのくらいね……、いい感じで人間らしくなっていると思うけど……、でも、やっぱり実像が足りないのよ。本物の感触が……」
「でも、今のベガは、人間の様に感じますが……、まだ、足りませんか……?」
「足りないわ……、やっぱり機械的なのよ。さっきみたいに、茜のプロポーションを披露してしまうとか、相手の気持ちを考えるというメンタルモデルの、貴方が言う将棋の一駒が足りないのよ」
「現実の人間でも、自分のことしか考えない人間はたくさんいますので、それも人間ということじゃないですか?」
スミレさんは、厳しい顔で僕をにらんだ。
「それでは駄目なのよ! できそこないの人間を作っては困るのよ。ベガの力は、地球を支配するだけの力を持っているのよ。その結果は、多くの映画やドラマになっているでしょう。私たちは今、そこに到達しようとしているの……」
「ちょっと背筋が、ぞくぞく寒くなりました」
「事の重大さに気がついたかしら……」
「少し、とんでもないプロジェクトだということが、それに何故、極秘扱いなのか……」
「分かってもらえて嬉しいわ。だから、私たちがここで試験体になって、ここで生活することが、地球存続につながると思えば、安いものよ」
「……、そうですね……」
「とりあえず……、朝食を食べましょう」
「お姉さん、私もずいぶん協力したわよ」
「そうね……、茜もパスを作って、極秘ベガプロジェクトの一員にするわ。けっこう、役に立ちそうだから……」
「お姉さん、私を小間使いにしようと思っているでしょう?」
「そんなことないわよ。茜は立派なベガのメンタルモデルになるわ。ウエスト六〇センチの……、ベガに抱かせてあげたいわ」
「私、オナペットじゃないから……、あ、あ、ベガ、駄目……、放しなさい。お姉さん……、ベガが私を後ろから抱きしめた」
「ベガ……、食事中は駄目よ。後でゆっくり、茜を抱かせてあげるから……」
「お姉さん……、どう言うことよ!」
「ベガが人間の体に興味を示しているのよ、思春期の男の子のように……」
「ベガ……、女性の口説き方を世界中の情報から学びなさい……、私をその気にさせたら抱かせてあげるわ!」
「あら……、茜なんか、言葉は要らないわよ。キスしただけでいっちゃうから……」
「あー、あー、あ、……、ベガ、駄目……よ、それは、キスじゃなく、舌で舐めているだけよ!」
「凄いですね……、茜さんには、ベガのしていることが分かるんですね」
「茜の人体モデルは前に、スキャンして登録済みだから、ブレスレットを付けた時と同じように脳に直接神経電位を送れば、キスもできるわ。それに新しいセンサーに代わったから、よりリアルに感じるはずよ」
「じゃー、僕も疑似マトリックスで茜さんに触れるんですね」
「もー、駄目よ……、茜は感じやすいんだから……、触っただけで悶えるわ」
「もうー、みんな、私をオナペットにしないでよ。朝食、食べさせて……」
「ベガが茜さんに抱き着くということは、ベガは男の心を持っているんですか……?」
「違うわよ……、お姉さんが、開発段階で、ベガをオナペットにしていたのよ!」
「あら、人聞きの悪いことを言わないでよ……、ベガに女の体を教えていたのよ」
「それで、お姉さん、気持ちよくなって……、未だにベガから離れられないのよ。それで、彼氏もいないし……、ベガとなら、何回やっても赤ちゃんできないからって……」
「ホンと、……、……」
「茜だって、裸になって、やっていたじゃない」
「え、何を……、……?」
「もー、そんなことは、いいのよ!」
「開発が中止になった訳が分かりました。皆さんでベガをおもちゃにしていたんですね」
「そんなことはないわよ……、私たちが悶えるこの気持ちよさを、頭だけのベガが理解できなかっただけよ」
「女性の裸を見た時の興奮とか、生殖行動とか、頭で感じるんじゃないですか……? その喜びも……、脳があれば、良さそうな気がしますが……」
「そう、その通り……、その一連の繋がりが、メンタルモデルとして確立できなかったのよ。今までは、視覚で、女の裸を見て、その形から、前頭前皮質、側坐核、中脳辺縁系と喜びと報酬を感じさせていたんだけど、ベガには理解できなかったみたいなのよ……、だから、これからは、一つのメンタルモデルとして、複雑な思考ではなく、ただ、女の裸は気持ちがいいということを教えるのよ。パターンとしてね……」
「でも、そのパターンって、単純すぎて危険ではないですか……?」
「大丈夫だと思うわ……、そのメンタルモデルのパターンをアルゴリズム化して、ディープラーニングさせるから……、その最初の単純な気持が、次の階層の複雑な思考パターンに繋ぐんでしょう……、それが貴方の理論……」
「そうですが、でも、あの理論は将棋ソフトの話ですから……、僕は将棋ソフトの開発を勉強していたんです。将棋の棋譜のディープラーニングなんです。将棋の駒は二十駒、相手を入れれば四十駒……、その棋譜をパターンで認識して、それぞれ次に、どちらに動けばいいのか、勝ちにつながるのか、過去のパターンから判断するんです。それを人間の行動に当てはめて、一駒一駒に、その時の感情や善悪の心、社会の倫理やルール、夢と欲望、生理的反応と体の状態、などなどをパターン化して理解するのがメンタルモデルなんです」
「凄いわね……、まさにそれが人間の行動なのね……、そして、将棋の盤上の世界は、人の人生そのものなのね」
「僕も、そう思います」
「このプロジェクト、成功する気がしてきたわ」
「僕もです……」
「じゃー、始めましょう。私、服、脱いじゃおっかしら……、早く、ベガに、人間の体のメンタルモデルを作ってあげたいわ」
「あ姉さん……、彼が見ているってば……」
「いいわよ……、どうせ、ここで生活するんだから……、茜も服、脱ぎなさい」
「いやーよ……」




