20. スミレとヒロの合宿
(スミレとヒロの合宿)
次の日……、
研究室に入ると、ダブルベッドより狭い、セミダブルのベッドがソファーのあったところに置かれていた。
それと昨日頼んだ、コーヒーマシンと冷蔵庫も部屋の隅に置かれていた。
「ベガ、……、何でベッドが置いてあるんだ?」
「今日から、泊まり込みで、合宿だそうですよ」
「合宿って誰と……、……?」
「私しか、いないじゃない……」、遅れて入ってきたスミレさんが答えた。
「え、えー、スミレさんと泊まるんですか? ここで……、このベッドで……?」
「ちょっと狭いわね……、ダブルベットが、テーブルにあたって入らなかったのよ。もうちょっと広く作れば面白かったのにね……」
「いえ、そう言う問題じゃなく……、男と女が検査衣一枚下は裸で……、ベッドの前にいるなんて、可笑しくなっちゃいますよ!」
「何いっているのよ。可笑しくなるのよ。私たち……、ここで生活するんだから……」
「え、え、えー、そんなこと聞いていない……」
「何いっているのよ。ベガに人間を教えるのよ。ベガの体を作るのよ。ここで生活するしかないじゃない。人間の営みを教えるには二十四時間、夜のこともね。嬉しいでしょう」
「え、えー、スミレさんは、それでいいんですか……?」
「もちろんよ。私が始めたことだから、完成させたいわ。ベガを人間にすることを……」
「凄い……、体を張った、研究者魂ですね……」
「そんな……、カッコいいものじゃないわよ。貴方、私の好みだから……、一緒に生活できるって嬉しいわ……、貴方は……?」
「そっちですか……、……、僕も、嬉しいですけど……」
「よかった……、その前にコーヒーマシンと冷蔵庫はここに置けないわ」
「僕も、そう思いました……」
「第一ゲートの前にでも置きましょう。そこなら、いつでも飲めるでしょう」
「ちょっと遠いですが、食事はどうするんですか……?」
「もちろん、学食で……、でも、ここまで持って来て、ここで朝昼晩と食べるのよ。この部屋で、ベガに感じさせながら食べる。それも人間の営みだから……」
「すべて、ベガの為というわけですね」
「そうよ……、人間の営みの実像よ。凄いでしょう……」
「凄ですけど……、ベガに分かってもらえるでしょうか……?」
「それを私たちが検証し、研究開発するのよ。ただの生活じゃないのよ。分かっている?」
「でも、スミレさん嬉しそうだから……」
「あら、そうかしら……、新婚生活みたいで、わくわくしない……?」
「僕は気が重いですよ……」
「多分、結婚とは、そういうものよ……」
「スミレさん、結婚したことあるんですか……?」
「失礼ね……、あるわけないでしょう。男と同棲したこともないわよ」
「でもこれって、合宿というより、同棲じゃないですか……?」
「まー、あ、深く考えないように……、男と女は成る様に成るものよ」
「どう言う意味ですか……?」
「だから、深く考えないように……、それより、朝ごはん食べたの?」
「食べてないですけど……」
「じゃー、ちょうどいいわ。朝ご飯から始めましょう」
「朝ごはん、ここで食べるんですか?」
「決まっているじゃない。ベガ、神経工学科の菊池茜に電話して……」
「了解……」
「茜……、学食いって朝食、何でもいいから、二人分持って来て……、コーヒーも付けてね」
「えー、え、今からですか……? 私も食べたい……」
「いいわよ。じゃー、三人分持って来てよ。朝食代は、神経工学科に付けておいて……」
「そんなん、代金、付けでいいんですか……?」
僕は生活費のことまで考えていなかった。
「ここの生活費は科で持ってもらうわ。まさか、極秘のベガプロジェクトの名前を出すわけにはいかないでしょう……」
しばらくして、菊池茜から電話が掛かって来た。
「お姉さん……、ここを開けて……」
「茜……、ここで食事するから、あんたも検査衣に着替えてくるのよ」
「またですか……」
「そうよ……、早くしなさい」
「え、茜さんも、この部屋で試験体になったことがあるんですか?」
「そうよ……、私と茜でこの部屋の機器とセンサーの調整をしたのよ。裸になってね。茜もなかなかの天才なのよ。見た目には、そう見えないけど……」
菊池茜が検査衣を着て、ワゴンに朝食を乗せて持って来てくれた。
「お姉さん、さっき届いたわよ。新しいセンサー、一緒に持ってきたわ」
「ありがとう……、食べる前に、間に合ったわね」
「何ですか……? その丸い、オセロのコマの様な物は……? でも、オセロのコマよりは、少し大きいですね」
「体に流れるホルモンや電流を測ることができる新しいセンサーよ。これからのブレスレットの代わりになるわ」
「どんな感じで、使うんですか?」
「やってあげるわ。肩の少し下の所にシールで張り付けるのよ。ちょっとセンサーの針が出てるいから、付けるときに違和感があるかもしれないけど……、すぐに慣れるわ。両肩に付けるのよ」
「これでブレスレットの代わりになるんですか?」
「それ以上よ。ブレスレットは、位置と電位しか分からなかったけれど……、これは、それに加えて、ホルモンの測定も可能にしているのよ。多分、世界初で、CGM(持続血糖測定器)を改良して更に高度にして作ったのよ」
「ホルモンですか……?」
「そうよ……、人間はホルモンによって支配されていると言ってもいいわ。アドレナリンやドーパミンやオキシトシン、メラトニン……、後、幸せを感じるセロトニン……、すべて、体の中を流れているのよ。これを測定できなければ、心も感情も作れないわ。頭だけではなく、体で感じるように……、分かるでしょう……」
「でも、お姉さん……、多くのホルモンは、視床下部や脳下垂体で作られるんだから、そこでホルモン量を計算すればいいんじゃないの……?」
「確かに、その源は脳かも知れないけれど、体からのフィードバックが無ければ、その気持ちは分からないじゃない。心臓とか胃とか、腸とか、生殖行動とか……、多くの生理的ホルモンは、卵巣、精巣、副腎、膵臓、甲状腺、腸や脂肪細胞から出ているのよ。まさに、体で感じているのよ」
「お姉さん……、あの快感を教えるつもりなの……?」
「そうよ……、人間の生殖行動は、生きる為の源よ。その喜び無くして人生は語れないわ」
「お姉さん、それって、お姉さんの趣味じゃないの……?」
「何を言っているのよ。私のこれまでの努力を、趣味の一言でかたづけないでよね」
「やっぱり、趣味なんだ」
「もう、いいから……、茜もセンサー付けるのよ」
「えー、私も……? 前にベガに私の裸、見られたから……、今度は、私の心の中まで見られちゃうわ」
「さすが、茜……、良く分かっているわね」
「え、……、このセンサーで心の中が見えるんですか……?」
「もちろん、見えるわよ。感情ホルモンといわれている物の動きを測れば……」
スミレさんは、茜さんを後ろから胸を撫でるように抱きしめた。
「貴方が茜を見た時に、抱きしめたいと思った気持ちも、ベガには分かっているわよ」
「そんな……、思っていませんよ」
「ベガ、彼の言ったことは、本当……?」
「いえ、かなり動揺していますので……、嘘です」
「ベガは、うそ発見器か……? ベガ……、メンタルモデルに登録、真実でも、言って良い事と、悪い事がある。特に人の心の中は、マル秘、シークレットだ。僕が例え、茜さんを抱きしめたいと思っても、それは、ただの罪のない空想で、虚しい想像に過ぎない」
「過去の経験からのメンタルモデルのフィードバックですね」、ベガが答えた。
「そう言うことだ。抱きしめたいと思っても、当たり構わず抱きしめてはいけないんだ。社会のルールだ。でも、想像するのは自由だ……、ベガ、茜さんを見て、抱きしめることを想像できるか?」
「私は茜さんの全てを知っています。身長168センチ、バスト85センチ、ウエスト60センチ、ヒップ88センチ、体重50キロ、美しい理想のプロポーションです」
「ベガ……、それは、言ってはいけないのよ。私の個人情報だから、シークレットよ……」
「でも、これは過去のデーターで、現在のプロポーションではありません。私の想像です」
「それでも、言ってはいけないのよ。お姉さん……、ベガに分からせてよ……?」
「これから、少しずつね。でも、茜……、あんた、ウエスト60しかないの……? 羨ましいわね……、何食べているのよ……?」
「お姉さん……、……」




