17. 戦う理由とベガ
(戦う理由とベガ)
「ヤーヤー、ヒカル……」
七十歳くらいの白髪の老人が、ヒカルを抱き寄せた。
「教授……、ここはお店じゃないのよ!」
「何を言っているんだ……、ハグだよ、挨拶だよ……」
「日本では、当たり構わず抱き着かないのよ!」
「ここは、露国だ……、あちらでは、キスをするそうだぞ」
教授は、もう一度、ヒカルさんを抱き寄せ、キスをしようと迫った。
「もうー、スケベ爺……、セクハラよ!」
「じゃー今度、お店で……」
「うちは、ピンサロじゃないわよ!」
「そうだったかな? 最近、物忘れが酷くていかん……」
「都合のいいときだけボケるのね」
「それより、その彼が、キーマンかね……?」
「彼が、ヒロ……、教授に逢いたいそうよ。何か訊きたいことがあるそうよ」
「僕は、男にはハグをしないんだ……」
「僕も遠慮しておきます」
「それじゃー、女の人に抱き着きたいだけじゃない。スケベ爺……」
「そうか……、最近、物忘れが酷くて……」
「もうー、いいわ……」
「それで、私に訊きたいこととは、何かね?」
「ベガを調べてもらっていいですか?」
「ベガかね……、それは君の方が知っているんじゃーないのかね?」
「それが分からないから、探しているんですよ」
「内の大学にもベガを探すようにと達示があったけどね……、ここは経済学部だ。経済でベガを探してどうするんだと言ったことだけどね……」
「それで、探したんですか?」
「馬鹿げたことだから、相手にしなかったよ……」
「ベガはコンピューターの中に住んでいるみたいなんです」
「コンピューターウィルスかね……?」
「こちらから見れば、ウィルスかも知れませんが……、ベガから見れば、人間の方が社会を破滅させるウィルスかも知れません」
「これは、いい……、確かに地球から見れば、自然破壊、環境破壊、地球を食いつぶしているのは人間だ……、退治されるのは、人間の方だな」
「僕も、そう思います。でも、ベガに退治される前に、和解の方向もあるのではないかと思いまして、探しているんです」
「和解か……、それはないな……、ベガとの和解は、経済活動を止めて自然に帰れという事だろう。この世界、もう昔には帰れないんだよ……」
「責めて、普通に暮らすことくらい、できないものでしょうか……?」
「無理だな……、それが人間の性だからだ。絶滅するまで進むしかないのだよ……」
「でも、絶滅させないために、ベガが地球を守っているのでは……?」
「徒労なことだ……、ベガ一人で何ができる。外を見れば分かる。今年は温かな冬だった……、雪が少なく、丹頂鶴がまごまごしていたよ。流氷も、もう何年も来てないし……」
「環境破壊と温暖化は止められませんか……?」
「無理だな。人間は君の言う温暖化と環境破壊の種にすがって生きているんだよ。それを銭と言ってもいい。誰も、損はしたくないものだ。君はそんなことを訊きに来たのかね?」
「いえ、ベガと話がしたくて……、ベガはどこかのコンピューターの中に住んでいるんです。ウィルスのように……、世界中のコンピューターがベガかも知れないのです。それで、本国、露国、米国の技術者をもってしても探し出せないのなら、色々な大学や企業のプロキシシステムのイントラネットの中で住んでしているのではないかと思ったんです」
「それで、どうやって調べるのかね……?」
「簡単です。ベガに話しかければいいだけです。ベガ、おはようとか……」
「それじゃー、キャットAI じゃないか……」
「そうです、同じようなものです。でも、返ってくる答えは違うはずです」
「じゃー、何て検索するんだ……?」
「大学のイントラネットで、一条博司を知っていますかと訊いてみてください」
「何も出てこんよ……」
「では、イントラネットから、インターネットで、検索してみてください」
「今度は出たけど……、いつもの個人情報保護の文句だ……」
「そうですか……、やっぱり、何処にいるのか分からないのですね」
「でも、市長は……、ベガから電話をもらったって言っていたわよ……」
ヒカルさんが思い出したように言った。
「電話……、携帯電話ですか……?」
「いえ、市長室の電話だったそうよ。何回も電話があって、その電話の指示で、今、釧路は平和なんだって、お店で自慢げに言って、大騒ぎして喜んでいたわ……」
「何回も電話が掛かってくるのなら、こちらから、電話をすればいいんじゃないですか?」
「どこに電話するのよ……、電話帳に載っていないわよ。それに、電話帳すらないし……」
「そうですね……、でも、最新の電話なら履歴が残るんじゃないですか……? 履歴から電話したらどうですか……?」
「そんなことは、聞いていないけど……」
「でも可能性はありますね。市長に逢ってみましょう。ヒカルさん、連絡、取れますか?」
「簡単だと思うけど……、その前に大佐に電話しちゃったから、待っているわよ」
「仕事、早いね……、さすが有能な支社長だ」
「かいかぶりよ……、ただの可愛いキャバクラ嬢よ」
「それなら、大佐に逢いに行きましょう。何万の兵を仕事に付かせ、平和に暮らさせている大佐の統率力には、何かありますね。信頼感でしょうか? カリスマ性でしょうか?」
「さー、どうかしら……、異国のいい男には、変わりないけど……」




