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16. 働く兵士とヒカル

(働く兵士とヒカル)


 支社と言うので、雑居ビルの一区画と思っていたが、都会の真ん中、間口は狭いが五階建てのビルだった。

 一階は、ジャージーホームの製品を販売している店舗兼、冷蔵庫になっていた。

 そこにも、若い女子店員が二名ほど、忙しく接客をしていた。

 二階は事務所兼倉庫、三階は従業員の休憩室兼宿泊施設、四階五階がヒカルさんの部屋だ。

 俺たちは三階で泊まることになっていた。

「リュウ、お前、凄いなー、これだけの店舗を開いて成功させているのか……?」

「ビルと言っても、こちらも借金だけどな。名義は会社だし、俺に責任はないよ」

「そうかも知れないけど……、お前、凄いよ。ただ者じゃないな……、詐欺師か……?」

「おいおい、人聞きの悪いことを言うな。俺は黒岩乳業釧路支店営業部長だぞ」

「その実態は、国防軍スパイか……」

「お前もな……」

「俺は、課長か……、長が付いたのは初めてだよ」

「俺の下で悪いけどな。まー、俺に付いてこいや……」

「よろしく頼むよ……、部長さん」

 俺たちは、保冷車の荷物を店舗に運び入れてから、ヒカルさんの車で、港に向かった。

「今、釧路の造船所を改築して空母や戦艦を修理できるようなドックを作っているのよ。少し横幅が足りないとか言って……、この春から始めたわ」

「まだ、戦争をするつもりがあるのかね。こんな平和な街で……」

「でも、動けない戦艦や空母を港にほっておかれても困るけど……」

「それは、そうだ……」

 造船所の敷地内は一つの街だった。

 門のある検問所から入ると広い駐車場と社員寮が幾棟もあった。

 そこには、スーパーマーケットやコンビニ、飲食店などが軒を連ねて入っていた。

 その一区画にジャージーホームの販売店兼、ホットドックとコーヒーの店もあった。

 ヒカルさんの案内で、改築中のドックも見せてもらったが、当たり構わず、露国の兵士が目立った。

「凄いね……、露国の兵隊が働いているんだね」

「昼夜三交代勤務で働いているわ。防衛軍は、どうなのよ……?」

「塹壕は掘り終えたとかで、前線警備と、検問仕事だけだ。後は食べて寝ているだけだ」

「いいわね……、それで給与がもらえれば……」

「最近、仕事がきついと、国防しようと思う若者は少ないからな。俺たちみたいな、でっち上げ志願兵以外は、週休二日で街に遊びに行っているよ。露国の兵隊でも、給与は出ているだろう。それでも、まだ働かされているのか……?」

「兵隊から聞いた話だと、個人の給与以外は、本国からの送金が無くなったそうよ。電気もガスも食料も、ここでは、すべて民間から買っているので、お金がないと生きていけないのよ。それで兵士は軍隊の経費を稼ぐために働いているそうよ」

「それも大変じゃないか。よくそれで皆、素直に働いているな。不平不満で暴動が起きそうだけど……?」

「でも、働いた給与は、そのまま兵隊に渡されるし、その内の幾らかは軍隊の経費に取られるけど、残りは自分の物だから、本国からの給与と合わせて、結構いいお金になるみたいよ」

「それは凄い……、それなら、国防軍よりいいかも知れない。ただ暇をつぶすだけの生活よりも……、今度、国防軍の大佐に言って、兵隊を釧路に働きに来させようかな。まるでダブルワークのアルバイトのように……」

「いいわね……、釧路で敵味方関係なく働いて生活していれば、その内、戦争のことなんか忘れるわね……」

「そうさ……、露国でも日本でも領土なんか関係ないことさ……、その土地で生きて、生活をして、仕事をして、家族と暮らす、恋人と暮らす。その幸せがあれば、後は何もいらないじゃないか……、欲を出して他人の土地を欲しがっている奴は誰だ。敵と戦って土地を奪って死んでしまえば終わりじゃないか。こんな不幸なことはない。誰のために戦う。国のため、大統領のため……、大統領は街で笑って生活しているよ。死んでいくのは街で幸せに暮らしていた名もない、ただの若者たちだ」

「あんた……、いいやつだな……」、ヒカルさんが俺の顔をしみじみ見て言った。

「売り上げは、上がっているな。作業員が増えているのか?」、リュウが帳簿を見ていた。

「そうよ……、根室、網走から応援で兵隊が来ているから、増えたのよ。向こうでは人が余っているみたいで……、冬が来る前に終わらせたいみたいよ」

「ここより他に、まだ店はあるんですか?」

「あるわよ……、それぞれ、前線基地にも出しているわ」

「まるで大手ファストフードの店だね……」

「そうよ……、あっちは、ハンバーガー、こちらはホットドックで頑張っているわ。でも、多分うちの店の方が儲かっているわよ。ジャージー牛乳とホットドックだから……」

「それは、凄い……、じゃー次は、その前線基地でも行ってみましょうか……?」

「いい度胸しているわね……?」

「大丈夫さ……、俺は黒岩乳業の課長だから……」

「俺は、そっちには行けないぞ……、顔がばれているからな。次の配達の車で帰るよ」

「OKだ……、俺が確り見ておくよ」

 俺はヒカルさんと車で前線基地に向かった。

 途中に旧自衛隊の駐屯地があった。

「え、自衛隊……、……?」

「そうよ……、北の要なんだから、自衛隊くらいあるわよ!」

「そうかも知れないけど……、今は、露国だろう……、まだ、駐留しているのか……?」

「ほとんど、そのまま居るんじゃないかしら。それでも、演習地は使ってないけどね」

「それは、そうだろう……」

「露国軍が占領してくる前に、市長が説得したそうよ。釧路の平和維持と治安に協力して欲しいと……」

「凄い市長だね……」

「私も知っているけど、不細工な男よ。でも、ジャージーホームの製品を気に入ってくれて、庁舎にも出店させてもらっているけどね」

「市長になるのに顔は関係ないからね。じゃー庁舎にも出入りできるんだ」

「まーねー、……」

「でも、よく自衛隊は残ったね?」

「国防軍に編入されると、どうなるか分からないと言ったみたいよ。国防軍は、うさん臭いって言って、このまま自衛隊で釧路を守って欲しいと言ったみたいよ」

「それでも、よく露国軍と揉めないね?」

「言わば、領事館みたいなものかしら……、でも、ここに残った決め手は、ベガの指示だと言ったみたいよ。ベガって何者なの……?」

「さー、ベガは、こと座の織り姫星だけどね……」

「リュウも、そのベガを探っていたみたいよ?」

「あいつは、二重スパイか……」

「国防軍も露国軍も米国も、あらゆる国が、ベガを捕まえようとしているみたいよ。三重スパイかもね……、お金になることなら何でもやるのよ」

「大らかな奴だ……」

「それを大らかと言うのかしら?」

「いい加減な奴かな……」

「単なる悪党じゃないの……?」

「そうかもね……」

「露国の前線基地だけど、今、行っても余り人はいないわよ。みんな働きに出ているから」

「それも凄いことだね。人が居なければ、前線基地にならないよ」

「みんな、この最果ての地で生きていくのに精一杯なのよ」

「……、晴耕雨読かな」

「何、それ……?」

「自然にしたがって生きると言うことかな」

「そうかもね……、その代わり前線基地には、釧路占領軍大佐が居るわよ。留守番に……、合わせてあげましょうか?」

「君はいったい何者なのか……?」

「何者でもないわよ……、ただのキャバクラ嬢よ……」

「基地に行く前に、その顔の広さで、大学には入れないかな?」

「大学……? 経済学の教授なら知っているけど……、でも、スケベ爺よ」

「本当に顔が広いね」

「キャバクラのお客さんだけど、製品を大学の購買部に入れてもらっているわ」

「それはよかった……、今から連絡取れる?」

「多分ね……、……」

「ちょっと先に寄りたいな……、ベガで思い出してしまったよ」

「ベガと大学と関係があるの……?」

「もしかすると、教授が知っているかもしれない」

「それは、凄いわね。私もベガに逢いたいわ」

「逢えるといいけど……」


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