14. 星空と車いす
(星空と車いす)
「まだ、寒いわよ。外は……」
僕は、リビングの前にある広々としたテラスに出て、柵に持たれながら、降るような星空を見ていた。
そこに、車いすでやって来た少女がいた。少女と言ったら怒られるかもしれない。二十歳くらいの立派な大人だ。
「彼女のことでも、思っていたの……?」
「どうして、彼女って思うんだい……? 社会情勢を憂いていたんだよ」
「嘘……、さっき彼女宛の大きな小包を見たわ」
「見られてしまったか。息子さんがいるとは聞いていたけれど、娘さんもいるんだね」
「どうして、娘だと思うの……? ただの通りすがりのお客さんかも知れないじゃない」
「……、そうだね……?」
「でも、ここの看板娘だけど……、知らなかった……?」
「そう、聞いていなかったもので……」
僕は財布から1万円を出して彼女に渡そうとした。
「何、これ……、援交(援助交際)……、私と寝たいの……?」
僕は慌てて手を引っ込めた。
「いや、お小遣いをあげなきゃ―いけないかなと思って……、女将さんには、お土産代わりに、たくさん食材を街で買ってきたし……、娘さんがいるとは知らなかったから、何も買わなかったから……」
彼女はニコニコ笑顔で答えた。
「貴方となら一万円で寝てもいいわよ……、優しそうな人だから……」
「いや、だから違うって……、でも、どうして優しいなんて、思うんだい……?」
「だって、あんなに抱えきれないほどの小包を送るんだから……、きっと彼女への思いがたくさんなのね」
「いやー、あれだけでは、足りないけどね……」
「熱い、熱い手紙も書いたんでしょう……? お母さんが言っていた」
「もうー、みんなばれているね……」
彼女は、笑いが止まらない様子だ。
「でも、ありがとう……、あんなに食材がたくさんあって嬉しいわ。私も手伝って、お料理するから、食材が何よりもありがたいプレゼントよ」
「そう、良かった……」
「大森春菜さんって、どんな人なの……?」
「え、えー、そこまで知っているの……? 君によく似た人だよ。良く笑って、星が好きで、でも夜はすぐに寝てしまって、外で、裸になることが好きなんだ」
「ホンと、凄いわね……、おおらかな人なのね……」
「そうだね……、君と同じように、大自然の中で育ってきたから……」
「じゃー、私も好きになってくれるかしら……?」
「……、もちろんだよ……」
「こんな車いすの女の子でも……?」
「車いすは関係ないと思うよ……、心から愛していれば、例え君が寝たきりの、ボケ老人になっても、傍にいたいと思える人なら……、君を支えて生きていくよ」
この話、……、ハルナが言った、愛する人の条件だ……
「そんな人いるかしら……? でも私、この家から一人では出られないのよ……、男の人を探しに行けないわ」
「どうして車いすになったんだい……?」
「馬から落ちて……、昔は歩けたのよ」
「そうー、……、それは辛かったね……、でも、パラオリンピックで見るようにハンディを幸せに変えて頑張っているから……」
「そうなのよ……、私たちは、頑張らないと普通の生活ができないのよ。頑張らなくても、皆と同じように普通の生活がしたい。きっとパラオリンピックの人も、影では数えきれないくらい泣いていたと思うわ。私のように……」
彼女は、車いすから立とうとした。
でも、すぐに崩れるようにテラスの床の上に座り込んだ。
僕は駆け寄り、彼女を抱きかかえようと傍に近づいた。
「駄目よ……、触らないで……、まだ1万円もらっていないから……」
「もうー、そう言うことじゃー、ないけど……」
「大丈夫よ……、一人で戻れるから……、慣れているのよ」
彼女は、下半身を引きずりながら、車いすによじ登り座った。
「……、リハビリ、しているんだね」
「これでも、最先端の脊髄再生治療をしたのよ。少しは良くなっているのかな……、実感ないけど……」
「そう……、きっと良くなるよ。頑張って、リハビリしていれば……」
「火星では、体重が軽くなって、腰痛持ちの人は治ってしまうと聞いたわ。私も歩けるようになるかもしれないわ……」
「そうだね……、火星の重力は地球の三分の一、60キロの体重の人は、20キロくらいになちゃうから、月では、もっと軽く、地球の六分の一、60キロの体重の人は、10キロだ……、でも、宇宙空間では無重力で、体重も〇キロだ……、でも、どちらも生活するには大変だ……、火星では気温の変化は激しく、夏場の昼間で20度、夜ではマイナス90度だ。冬は夏より、もっと低くなる。地球でリハビリしていた方が幸に暮らせるよ」
「じゃー、お月様は……?」
「月は、もっと、もっと、過酷で大気が無いから、太陽が当たっている所は100度、当たっていないところは、マイナス170度くらいとされているよ……、見ている分には、奇麗でいいけどね……」
「貴方、詳しいのね……? でも私、火星に行きたいわ。どれくらいで行けるの……?」
「火星には、普通で6か月、最新技術のレーザー熱推進を使うと1カ月半で行けると言うけどね。火星と地球の位置によって変わるから……、火星は太陽の周りを約二年かけて回っている。火星が一周する間に、地球は二回まわるからね」
「本当に詳しいのね。学者さんなの?」
「学者と言われるほど、学者じゃないけど……、天文台に勤めていたから、もう昔のことだけど……、天文台に来る子供たちからよく出る質問だから覚えちゃったよ。君は、宇宙飛行士になるのが夢なの?」
「成れれば嬉しいけど……、車いすに乗らなくても、宇宙船の中は無重力でしょう。立って移動できるじゃない……」
「君が宇宙飛行士に成るよりも、リハビリして歩けるようになる方が早いと思うよ」
「それだけ、宇宙飛行士に成るのは難しいということね……」
「そうだね……、もちろん僕も宇宙には行きたいけどね。いつか、そんな時代が来るよ。宇宙旅行の時代が……」
「早くそんな時代が来ないかな。願いを叶えてくれる星はないの? 星に願いをって言うじゃない……」
「どうかな……? やっぱり一番星じゃーないかな……? 有名なのが宵の明星、金星のことだよ。太陽に近く、地球の隣の内側の惑星なんだ。でも太陽の周りを225日ほどで回っているから、いつも、いつも同じ位置には見えないけどね。太陽の近くだから、もう夕焼けと共に沈んじゃったけどね」
「じゃー、お願いできないじゃない。他にはないの……?」
「多分、あの明るい星、東の空から上がってくるのが木星、ジュピターだよ。ギリシャ神話ではゼウス、最高の神だよ。きっと願いを叶えてくれるよ」
「私、聞いたことがあるわ。オリンポスの山に住んでいるんでしょう? どうして、空の星になったの……?」
「いや、それを言われると辛いけど、空の星座は、ギリシャ神話をもとにしてできているから、ひときわ明るく輝く木星は、宇宙の全てを支配している神に見えたんだろうね」
「それなら、最高の神なら、私の願いを叶えてくれそうね」
「でも、木星までの距離は7億7千万キロ、君がここでお願い事を叫んでも、木星まで届くには、7百年かかるけど……」
「もうー、そんな夢の無いことを言って……」
「だから、お願い事は、自分自身に向かって叫んだ方がいいよ。きっとそれは励みになる」
「やっぱり、自分自身で努力しろ、ということね……」
「そうだね……」
「お話……、面白かったわ。もう、ご飯になるから呼びに来たのよ」
「ホンと……、お腹空いたよ!」




