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12. 潜入、ヒロとリュウの釧路作戦

(潜入、ヒロとリュウの釧路作戦)


 防衛本部、後藤平蔵大佐の部屋……

 ヒロとリュウは、矢野中尉と来ていた。

「二人で、釧路に偵察に行きたいと言う者か……?」

「そうです……、相手がどういう状態なのか分からなければ、戦いようがありません」

「お前、熱いな……、そんなことを言ってきた奴は、お前だけだ」

「偵察機も、ドローンも飛ばせない……、衛星写真は当てにならない。それなら人間が、直に行って、敵情視察するしかないじゃないですか……?」

「お前は、本物のスパイか……? 公安部から送られてきた登録書には、国家反逆行為で志願とあるが……」

「違いますよ……、日本からハワイに行こうとして、捕まっただけですよ。何も悪いことはしていません」

「まー、どいつも、こいつも、同じような者だからな。釧路まで行って、捕まると、即刻死刑だぞ。スパイは……」

「承知の上です……」

「ここにいれば、前線とはいえ、一年間交戦は無い。その内、本土に帰れるかも知れん。一条少尉の場合、無期限となっているけどな。それでも、死ぬことはないと思うけど……、それでも、行きたければ、構わんぞ。偵察に行って来てくれ。だからと言って、この状態がどうにかなるとは思えんけどな……」

「いいんですね。行ってもいいんですね。辰雄少尉も連れて行っていいでしょうか……?」

「本人が承知なら、構わんぞ」

「それで、潜入費用が必要なんですが……、出していただけないでしょうか……?」

「いくらだ……?」

「釧路での滞在費を含めて、二人で二百万円ほど……」

「一人、百万か……、高いな……?」

「ここでは、私たち、無一文で、それなりの身支度も必要なので……」

「でも、まー、いいだろう……、経理部でもらっていけ……」

「ありがとうございます」

「もう一つ言っておく……、お前たちが、釧路で死のうが生きていようが、現隊には、無関係だ。敵と交戦になっても、それは同じだ……、死ねば、皆ゴミだ。兵士は皆、その上を踏み越えていく……」

「心得ています……」


 ヒロとリュウは士官室を出た……

「何だ……、あっさり許可が出たな。あれじゃー、何処にいでも行ってくれって言う感じじゃないか……?」

「そうだな。しかし、脱走兵として、いつでも射殺できるともいえる。どちらだろうかな」

「おいおい、そっちの方が、目的か……」

「大丈夫だよ。お金まで付けて放り出すんだ。泳がして、こちらを見張るのが目的だ……」

「どうやって、街に行く。歩けば一日かかるぞ……」

「昨日のトラックの知り合いに乗せて行ってもらおう……、どちらにしても、潜入するには、手を貸してもらわなければならない。三〇万円払ってでもな……」

 二人は部屋に帰り、迷彩色の軍服脱いで、ハワイに出かけた時の服に着替え、スーツケースを持って部屋を出た。

 あれから、半年が過ぎ、また夏が来る。

 検問所に着いたのは、お昼前だった。

「そろそろ来るぞ……、奴は、ここでお昼の弁当を食べるのが、日課だ……」

「俺たちも、昼飯とするか……」

 検問所の前には、広大な緩衝地帯があり、検問ゲート付近は、物品検査を待つトラックと、ここで休憩をとるトラックのために、高速道路のサービスエリア並みのスペースが設けられていて、食堂、売店、トイレも用意されていた。

「来た、来た……、……」

「あれ……、今日は、どうしたんです。そんな、奇麗な格好で……?」

「待っていたんだよ。街まで、乗せて行ってくれないか。昼飯、食堂で、おごるから……」

「それは、ありがたい。乗っていきますか……?」

「おー、……」

 二人はトラックの荷台にスーツケースを放り込むと運転席の三人乗りのシートに座った。

「どこまでですか……?」

「……、……」

 リュウは、六〇万円入った封筒の口を開けて見せた。

「そう言うことですか……、いいですよ。釧路には、明後日になりますが……」

「急がないよ……、娑婆の空気を少し味わってから行きたいよ」

「また、家の牧場に来ますか……?」

「そうしてもらえると、ありがたい。お前んとこの料理は最高だからな……」

「なんたって新鮮ですからね。かみさんも、料理人で、前は民宿もやっていましたから、まだ部屋も、そのままで……、こんなご時世ですからね」

「でも、ちょっと街に寄ってくれ……、買い出しもしたいし、奥さんに土産物の一つも買いたい……」

「喜びますよ。トラックを会社に置いてから、俺の車で行きましょう」

「喜ぶのは……、封筒の中身だろう……」

「確かに……」


 このトラックの持ち主は、黒岩耕作、コウと呼ばれている。

 街で買い物を済ませ、耕作の牧場に着いたのは夕暮れ時だった。

 牧場の緑の風景を見ると、思い出すのは、春菜のことだった。

 元気でやっているのか……?

 空港で捕まって以来、連絡が取れていない。

 街に出て、最初に探したのは、数少ない公衆電話だった。

 しかし、本土との電話は、繋がらなかった。国防軍が止めているようだった。

 耕作の話では、携帯電話も本土とは繋がらず、北海道全域だけだそうだ。

 それでも、占領されている地帯は繋がらないと言う。

 もちろん、インターネットは使えるが、この戦争のことは、一言も出ていない。

 その上、携帯電話と同じように、インターネット電話、メールもブロックされている。

 しかし、人間の本土との行き来は止められず、厳重な審査と監視のもとに往来はできるが、不穏分子に疑われたものは、容赦なく志願兵にされていた。

 耕作は郵便受けから、新聞と幾つかの郵便物を取って、家の中に案内してくれた。

「いらっしゃい……、久しぶりね。帰ってこないから、心配していたのよ。命があってよかったわ……」

「おかげさまで……」

「でも、懲りないわね」

「俺の仕事ですから……」

「はい、牛乳よ……、ジャージー牛の乳よ」

「お、おー、嬉しいねー、また、これが飲めるのが、生きていてよかったよ」

「ジャージー乳……、ここでも飲めるんですね……?」

 春菜の店でも、ジャージー牛の乳を出していた。

 普通の乳牛よりも濃厚で味わいがあるのが特徴だ。

 春菜の所は、近くの牧場から毎朝搾りたてを直接もらって来ていた。

「お前、よく知っているな……、ジャージーなんて……?」

「俺の毎朝の朝食に出ていた……、これを毎朝飲めるのが楽しみだった」

「それはよかった……、ここでは、帰宅すると、この牛乳が出てくるんだ」

「故郷を思い出させちゃったね……、今日は、この乳を使ったシチューだよ」

「お、おー、嬉しいね……」

「それより、ちょっと訊きたいのですが……、郵便なら本土に届くんですか……?」

「届くんじゃないかな……、通販物も本土から届くし、家も通販で送っているから……」

「そうですか……、それはよかった」

「ヒロ、彼女にラブレターでも書くのか……?」

「そんなようなものだ。とりあえず、生きていることを知らせたい。電話も、メールも駄目なら、紙の手紙しかないじゃないか……」

「いいわね……、逢えない時間が愛を育てるって言ってね。まるで、大正時代に戻った様な、ロマンだね……、後で、便箋を持っていくわ」

「便箋なんか、今時、あるんですか……?」

「あるわよ……、牧場、特製のレターセットが……、家は通販で乳製品やハム、ソーセージなんかを売っているから、お客さんにお礼の手紙を添えて送っているのよ」

「いいですね……、では、お願いします……」

 牧場の人は、何処の街でも皆、優しい人たちだ。

 常に自然の営みの中で生きているからなのかも知れない。

 自然の厳しさを誰よりも知っているからなのかも知れない。

 その厳しさに耐えていける強さがあるから、きっと他の人にも優しくできるのだろう。

 優しさは、強さの裏返しだから……


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