11. 釧路国防軍のヒロとリュウ
(釧路国防軍のヒロとリュウ)
あれから、ヒロとリュウは札幌の訓練施設で六か月間、訓練を受け、すぐさま釧路前線隊に送られた……
「……、何とも平和な最前線基地だな……」
「どこの前線基地も、銃の弾一つ打ってないそうだ」
「なんだ、それは……、ここは、本当に最前線の基地か……?」
「一〇キロ先には、敵の最前線基地がある……、しかし、敵の基地からも銃の弾一つ打ってこないし、こちらに向かってくる様子もない。こちらも、塹壕を重機で掘っている有様だ。平和な戦争だ……」
「やる気があるのか、露国軍は……?」
「さー、事情は、同じだろう……、コンピューターの入った武器は使えない。もちろん、戦車も飛行機もミサイルも使えない。レーダー、ソナーは当てにならない。もし、できるとしたら、銃で撃ちあうだけの特攻戦になる。お互い武器と兵士を消耗して、終わりだ。補給は来ない……」
「補給が無いとは、どういうことだ……?」
「補給艦が使えんのさ。ベガに穴をあけられて、沈没寸前だ……」
「じゃー、俺たちの食料は、……?」
「民間業者から買っている。民間船は往来自由だ。しかし、軍事物資は、輸送できない。だから、虎の子の弾薬は無駄にできない。来る有事に備えているのさ……」
「こちらの兵力は……?」
「約五万……、それを釧路と根室、網走に分けて守っている」
「肉弾戦になっても、勝ち目はないな」
「しかし、敵も何を考えているのか、攻めてくる様子はない」
「じゃー、俺たちは何をするんだ……?」
「とりあえず、交代で敵の見張りと、検問所の検閲かな……」
「検問所があるのか……?」
「あるさー、釧路の民間人とは、今も出入り自由さ……、しかし、主要道路には、すべて検問所があり、釧路市の許可した者しか出入りできないけどな……」
「いったい、こんなことを何年やっているんだ……?」
「ちょうど、一年じゃないのか……、去年の春に来たと言っていたから……」
「リュウ、詳しいな……」
「そこまでは、調べ上げて、捕まった」
「こんな平和な戦争だ。和平交渉は進んでいるだろう……?」
「さー、どうだか……、そこまでは、分からん。お偉いさんのやることだ……」
釧路国防軍前線基地に来て一週間……
ヒロとリュウは幹線道路の検問所にいた……
「俺たちに休みはないのか……? 毎日、毎日、働かせて……」
「戦争をしているからな」
「戦争って言ったって、見張りをしているだけじゃないか……、いったい露国の占領軍は何をやっているのか……?」
「さー、多分、同じことをやっているだろう。見張りして、食って寝て……」
「そんなことを、一年もやっているのか……?」
「そうみたいだな……」
「しかし、この道路の交通量は何だ……、まるで大都会並みじゃないか」
「占領軍が入って、人口が増えたからな。今や、更に拡大した露国の中核都市だ」
「俺たちが検問している所は、国境か……?」
「同じ、日本に見えるけどな。日本は島国で、陸続きの国境が無いから、ピンとこないけれど、大陸ではこんなもんだ。交通は、盛んに行き来している。戦争状態じゃないけどな」
「そうなのか……、じゃー、俺たちが釧路に行っても分からないな……?」
「多分な……? ヒロ、スパイに行くのか……?」
「人聞きの悪い言葉だ。視察だよ……、観光と言ってもいいじゃないか……?」
「馬鹿な、向こうにも検問所はある。ここを通る車は、すべて業者登録された搬入業者だけだ」
「報道関係では、入れないのか……?」
「駄目だ……、報道は許可されていない……」
「だいたい、広い原野だぞ……、道路を使わなくても、どこからでも釧路には入れる」
「しかしだな、敵さんの警備状況が分からん今、もし原野で敵さんに出会ったら射殺されるぞ……」
「じゃー、搬入業者の荷物に紛れて侵入するとか……?」
「それを、スパイと言うんだ……」
「あ、そっか……」
「何で、そんなに釧路に行きたい……?」
「興味があるだろう……、向こうの兵隊は何をしているのか……? 一年間も、何も戦わずに、ただ駐留しているなんて可笑しいじゃないか……?」
「だから、戦えんのだよ。補給が無いから……、こちらと同じ状況だ」
「それで、一年近くも国境を見ているだけか……? 俺なら、即刻、地元に帰るけどな」
「帰りたくても、船がない……」
「軍の船が無ければ、民間船で帰ればいいじゃないか……」
「そうだな……、……、敵は何をしているのか……? 興味が出てきた」
「お、ジャーナリスト魂だな……」
その時だった……
「あれー、リュウさん、今度は防衛軍ですか……?」
「釧路を取材していて捕まった……、その節は世話になった」
「それは、ご苦労なことで……」
「これが、懲役ってことだ……、なにも悪いことはしていないのに……」
「は、はーん、政治犯ですか……? 家の従弟もいますぜ。網走ですが……、市議で議員で、街を解放しろと言ていたら、いつの間にか国防軍にされていたという話ですわ」
「国防軍は、人手が足りんからな」
「わしみたいに、運転手だと重宝されますけどね」
「でも、酪農の方は大丈夫なのか……?」
「奥さんと息子で、何とかやってますわ……、こっちの方が、実入りがいいもので……」
「そのようだな……、小麦と米と蕎麦とジャガイモか……? たくさんだな」
「これで、一週間くらいですぜ」
「トラック四台でか?」
「いえね、また明日も来ますぜ。わしらの所は、これくらいですが、他の会社でも運んできますから……」
「……、OKだ……、行ってくれ……」
10トントラックの車列は通り過ぎて行った……
「……、知り合いか……?」
「まーな、釧路潜入の時に手伝ってもらった」
「じゃー、また行けるじゃないか……」
「止めとけ、止めとけ……、ただじゃー行かないさ。往復六〇万円だ。俺は帰りには捕まったから、三〇万しか払ってはないけどな」
「高いな……、俺たちは、一文無しだ……」




