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10. 孤立した占領軍

(孤立した占領軍)


 それから、二週間後……

 本国から第二陣の先鋭部隊一〇万人の将兵と補給艦が釧路、根室、網走に向かった。

「ウェルカムですな……、……」

 市長は、釧路港に着いた五万の新たな将兵と、合わせて一〇万人の将兵たちを歓迎した。

 しかし、補給物資が、すべて下ろし終わって、本国に戻ろうとした頃……

「大変です……、また、第二陣の艦隊も、船底に穴をあけられました。出港できません」

 フラノフ少佐はチャイコフ大佐に訴えた……

「何をやっているんだ……、あれほど、監視、注意を怠るなと言ったはずだ!」

「お言葉ですが、二百人の警備部隊を編成しまして、随時百人の警備隊が昼夜、交代で海陸から警備していました。それでも相手は姿もなく音もなく艦に近づき穴をあけたんです。もちろんレーダーもソナーも使っていましたが、信用するなと言ってありましたが、百人の警備隊の目を反らして、どの様にして近づき穴をあけたのか……、まるで幽霊ですよ」

「もう、いい……、それで次の補給は、本国は何と言っているんだ……?」

「占領作戦は終了した……、後は現地調達せよ、との事でした」

「馬鹿な……、二〇万の兵だぞ……、現地でさえ、そんな食料はないぞ!」

「釧路の食料は、どれくらい持つ……?」

「今、補給を受けたばかりですので、二週間程度は……」

「市長に掛け合ってくる……」


 庁舎では、犬神市長が、堪え切れない笑顔で大佐を迎えた……

「すべて、承知していますよ……、安心してください。もう手配は済んでいますから、飢えさせるようなことはしませんよ。その代わり食料の代金は払ってもらいますけど……、なにしろ、民間業者なもので、彼らの仕事ですから……」

「それは、助かる……、市長はこうなる事態を分かっていたのか……?」

「大佐は、お分かりにならなかったんですか……? 子供でも考えますよ」

「確かに……、それを考え、十分に警備をしていましたが、やられました……」

「戦争では、誤算は命取りですぞ。相手がベガで良かった。こうして笑っていられますからな……」

「それで、手配済みとは、……?」

「また、ベガから電話があったんですよ。占領軍の食料を仕入れるようにと……、それで、第二陣も出港できないと思っていましたが、今日でしたか、残念な事です……」

 市長の抑えきれない笑顔が爆発してしまった。

「それでも、お宅の本国も酷いことで……、補給なしでは、二週間もすれば、食料は底をつくでしょうに……、暴動が起きる前に、ベガが私に知らせてくれたんですよ……」

「……、感謝する……」

「あと、こちらからもお願いがあるのですが……」

「……、何なりと……」

「そろそろ……、と言うよりも、すぐにでも、冬の準備が必要です。釧路は日本海側と違って余り雪は積もりませんが、とにかく寒い、平均でマイナス一〇度は越えます。貴方たちの本国と同じようなものですよ。だから、今からでも、断熱効果の高い宿泊施設を作らなければなりません……、何と言っても一〇万人の将兵ですからね。もちろん、暖房設備も要りますし……、資材はこちらが準備しますので、建設は兵隊さんたちにお願いしたい。もう、それも発注済みですが……、もちろん代金は払ってもらいますよ……」

「……、心得た……」


 大佐は、ひとまず安心して帰って行った。

 翌日から、各守備隊の野営地に大型二階建て、三階建てのプレハブ住宅の資材が搬入された。それも高級なプレハブ住宅だった。

 兵士は、その建設に戦争を忘れて没頭した……

 冬の厳しい寒さは、本国と同じように経験済みだった。

 誰もが、兵舎の建設を優先させた。

 各守備隊の野営地は、夏の終わりまでには、大きな街になった。

 その中に、スーパーマーケットや飲食店、病院、歓楽街……、娯楽施設も登場した。

 しかし、この年の秋、釧路湿原が赤く黄色く染まる頃、占領軍への本国からの送金が止まった。

「どういうことだ……」、チャイコフ大佐は、激怒した。

 報告に来たフラノフ少佐は、後ろに下がって、大佐を注視できなかった。

「……、現地調達せよとのことです……」

「しかし、一銭もよこさないという事は、二〇万の兵士を見殺しにするつもりか……」

「しかし、まだ兵士に給与は振り込まれていますので、少しは救われています」

「当たり前だ、給与まで止められたら、もう露国の兵隊ではないぞ!」

「……、そのようで……、……」

「しかし、隊の運営はどうなる。隊の経費は払えんぞ」

「……、それについて、市長からお呼びがかかっています……」

「呼ばれなくても、こちらから、進んで行くところだ!」


 今回はフラノフ少佐も連れて、大佐は庁舎に来ていた。

「困ったことになりましたな……、本国は、お金を払わないという事ですね」

「そう言うことだ……、占領した土地で、代金は払えないそうだ」

「何をおっしゃるんですか、占領した土地なら、ここは露国と同じじゃ―ないですか、国が、民間業者を使ったんですから、国費で払うのは当然だと思いますけどね……」

「……、ごもっともで……」

「まー、いいでしょう……、兵隊さん達には、働いてもらいましょう。これまで兵舎建設に従事してもらいましたから、民間に出向なされても問題ないでしょう。市でも三百人ほど雇用しましょう。人口がいきなり一〇万人も増えたんですから、こちらも何が何だか把握できない状態でして、軍隊の皆さんのことは、軍隊の方でやってもらえれば助かります。もちろん、役所としての給与は、お支払いします。民間への出向先でも、同様の給与は支払わられます。しかし、それは軍の経費の支払いに充てさせてもらいます。残りは、本国の拒絶した支払いに充てさせてもらいます。野営地で何もすることがなく、遊んでいるよりもいいでしょう……、もちろん、仕事は斡旋します」

「……、しかし、……」

「あー、大丈夫ですよ。この街は、ベガに守られていますから……、それに国防軍は、今頃、兵舎建設に忙しいところです。あれでは、冬には間に合わないと思いますが……、それに、何をケチったのか、普通の工事現場で使うような、安物のプレハブで……、あれで釧路の冬を越そうなんて舐めてますよ」

「……、では、よろしくお願いします」

 大佐と少佐は、頭を下げて、市長室を出た……



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