魔力過多症
「本件総括を務めました、キース・アーヴィングです。この度はありがとうございました。…色々と納得出来ない点は多々ありますが、と り あ え ず、御礼申し上げます」
「あぁ、君がキースくん?若いのに優秀なんだってね。ゲオルグから聞いてるよ。今回は偶然通りがかったら何か懐かしい儀式やってたからさ、ついついね」
「へ〜……?さすが大魔法使いともなると、何千軒とある家の中から儀式中の家を見つけられるんですね。驚嘆です」
「ハハハ、ほんと偶然て怖いよね」
二人は握手を交わしながら笑顔で挨拶をしている。
はたから見れば和やかな場面だが、この部屋は凍りついている。いや、凍りついているのは周りの人間だ。
勇気ある結界班の猛者が口を開く。
「イ、イェーガー所長、ワタクシ、魔法研究所紋章・結界研究室近代結界班、ノボーク・セントラです。先ほどの魔法陣についてなのですが……」
これが口火となり皆が口を開く。
「わ、私は技術魔法研究室建設班、トーマス・ガラクです!先ほどの転移魔法…」
皆が次々に口上を述べる中、パンッ手を叩く音が聞こえる。
「皆さん、落ち着いて。まだ現状は何も変わっていません」
ロエベ主任である。
主任は背筋を伸ばし、所長の前にツカツカと歩み出る。そして深く腰を折ってから口を開く。
「医療研究室特殊医療班班長、アンナ・ロエベです。この度は私どもの未熟さを所長直々に補って頂いたこと、誠に感謝申し上げます」
主任は少し考えたあと、慎重に口を開く。
「…私どもが施した治療は、現在確立された最適なものであると考えております。基礎体力まで回復させうるような医療はございません」
アレンさまはその薄灰色の瞳でロエベ主任をじっと見る。
「…ですので、最後に所長が施された魔法については、私どもの知の及ばぬ所と理解しております。ですが、命助かった以上、魔力過多症とは今後ずっと付き合っていかねばなりません」
…そうだった。
魔力過多症は、心身の成長以外に根本的治療法がない。
普通の魔法使いは、まず肉体、あとから魔力が増えるんだそうだ。そこに知力と精神力を備えて、自己の魔力をコントロールする。
「…ディルク坊やのように、産まれ落ちた瞬間からあのように膨大な魔力を持った症例を、恥ずかしながら私は知りません。もし、体の成長とともに魔力も再び増大するとしたら…今回のようなことは今後も頻繁に起きるでしょう。抑制剤は万能ではございませんので」
主任の言葉にキース先輩も何かに気づいたようで、腕を組んで考え込んでいる。
「不躾なお願いとは存じております。…どうか、お知恵を拝借できませんでしょうか」
皆が固唾を飲んで、アレンさまの、ともすれば冷酷にも見えるその美しい顔を見つめていた。
そして…
「うん、別にいいよー?」
という軽い口調にズルっとこけた。




