大魔法使い
デトパルト家、大広間。
ここには今、常人では会うことも叶わない、想像上の生き物のような人物がいる。
今代の大魔法使い、アレンディオ・クロノス・イェーガーである。
ちなみに研究所ではアレンディオ・イェーガーを通り名にしている。本当はもっと名前が長いのかも知れないが、今はそんな事はどうでもいい。
私、セレス・コールデンは、恥ずかしながら、その大魔法使いの存在を知らなかった。
自分に魔力が無いと思っていたため、正直凄い魔法使いに興味も憧れもなかったのだ。
彼が所長だと知ってからは、それなりに敬意を持ってきたつもりだが、ここにいる研究員たちはその比では無い。
全員が直立不動で背筋を伸ばし、そうでありながらもアレンさまの一挙手一投足を見逃すまいと、目だけはキョロキョロしている。
…私は今まで色々とやらかして来たようだ。
薄々思っていたが、今日は確信した。
でも、それは、アレンさまが悪い。
軽いのだ。口調が。
「要するに、あの子の放出魔力量が今どのくらいか、一目でわかればいいんでしょ?そうすれば抑制剤の適量もすぐにわかる。親子で健やか、みんなハッピーてね」
相変わらずよく回る口で持論を展開する。
「そんな事が可能なんですか?」
キース先輩が問う。
「まぁね。ただ面倒くさくて審議官の承認貰ってない道具使うから、二日待ってくれる?」
「「二日…?」」
皆の声が重なる。
「え?審議委員会って二日ぐらいでしょ?僕の記憶おかしくなってる?」
「「いえ……」」
みんなが心の中で、通常は半年から2年だけどな、と突っ込んでいた事は、私の預かり知らぬことだ。
「というわけで僕は帰るから、後でゲオルグ宛に書状出すよ。じゃ、行くよ?」
そう言ってアレンさまは私の方に手を伸ばす。
『じゃ、行くよ』が自分に向けられた言葉だと本気で理解できなくてフリーズする。
「え?え?」
アレンさまが戸惑う私の腕を掴んだかと思うやいなや、ローブの中に掻き入れる。
「ちょ、ちょっと!」
私の抵抗虚しく、そのまま私ごと…転移した。
残されたみんなの事を考えると、顔から火が出そうだった。
「…ちょっと、所長、所長ってば!!…いい加減に離してくださいっっ!!」
私はアレンさまの手をバシッと叩く。腰のあたりをギュウギュウ抱きしめられながら連れて来られたのは、いつものあの邸。
「あぁ、ごめんごめん。途中で落としちゃったらサイコロみたいにバラバラになっちゃうからさ、つい」
「はぁっ!?そういう事は行動に移す前に言ってください!!」
ちょっと前まで赤かっただろう顔も、今や真っ青に違いない。
「…ったく、で?何でここに連れて来たんですか?今朝は帰れって言われた気がするんですけど!!」
もう何でも言ってやれの気分である。
「ん〜…、やっぱり、謝らないと、と思って」
そう言ったアレンさまは、捨てられた仔犬のような顔をしていた。




