儀式
二日目の深夜、事態は急変した。
魔力抑制剤の効果が出始め、屋敷内全員で胸を撫で下ろした、ほんの数十分後だった。
「緊急!緊急!全員部屋に集合!!」
突然の号令だった。子守番をしていた医療班からの招集の呼びかけだった。
隣にいたキース先輩は瞬時に事態を悟ったのか、近くにいた人に「ご両親を呼んで」と告げた。
転びそうになりながら部屋に入ると、床に描かれた魔法陣の真ん中に男の子が寝かされている。
そして部屋に入ってくる研究所のみんなは、それぞれ魔法陣の縁に膝を着き、手を陣に触れている。
誰かが言った。最後の儀式なのだと。これから旅立つ魂が迷わないように、皆で見送る、最後の儀式なのだと。
私はもう何も考えられなかった。
ただただ悔しかった。
奪うばかりで与えることのできない自分の魔力が。
ただただ悲しかった。
この腕の中にあった小さな命が消えようとしていることが。
カトリーヌ夫人の嗚咽が響く。
御当主が夫人の肩を抱く。
誰も何も言わなかった。
ただ静かな時が流れていた。
その時だった。
まるで屋敷の中に雷が落ちたのかと見紛うかのような閃光とともに、その人は現れた。
誰もが畏怖するその姿をもって。
その場にいる誰もが、目にしたものが信じられないとばかりに、目を見開き、口をポカンと開けている。
その人は部屋の中を見回すと何かしらに気づいたのか、男の子を抱く両親に向かって、こう言った。
「ああその子?ちょっと貸して」
貸してって何だ。貸してって。皆の顔にそう書いてある。
その人は驚きで声が出ない両親から男の子を受け取ると、先ほどまで皆が立っていた魔法陣の前に歩を進め、真ん中に寝かせた。
そして陣をぐるっと見回ったあと、首を捻り、線を何本か書き足した。
彼がローブを翻す。
人々が息を飲む。
彼が魔法陣に手を触れる。
その刹那、眩い光が屋敷中を包み込んだかと思うと、一瞬にして暗闇へ。
そして暗闇の中には…ほのかに灯る淡い光。
その温かな光が消えると同時に、再び屋敷に明かりが戻った。
「…ふにゃ…ふにゃあ…ふ…んぎゃあ…んぎゃあ」
まるで産声のような泣き声を上げる我が子に向かって夫人が走り寄る。御当主が脇腹を押さえながら後を追う。
高らかに掲げられた男の子を見て、研究所のみんなが歓声を上げた。
大きな大きな歓声を。
私はその歓声をぼんやり聞いていた。
こっそり隣に立った彼の胸に泣き縋りながら。




