嘘と本当
目の前には、恐らく客人用の豪華なティーセット。
一体いつ出したのかわからないが、とりあえず勧められるままに喉を潤す。
「あー…改めまして、アレンディオ・クロノス・イェーガーです。…ここの所長をしてます」
銀色にちょっと藍色が混じった髪を、いつもより少しきれいに整えて、薄灰色の瞳の彼が告げる。
「…で、隣に立つのが、ゲオルグ・ガードナー副所長で、ええと、第一研究室室長で……」
それは知っている。
「…他に聞きたいことある?」
そう来たか。
ふー…と一つ息を吐き、私は目を閉じる。
瞼の裏には、目まぐるしく過ぎていったこの頃の日々が浮かび上がる。
「どこからが嘘で、どこまでが本当なんですか?」
目を伏せていた副所長が顔を上げる。
「…俺から話そう。ことの始まり…最初の匿名任務、あれは確かに存在するものだ。…ただ、お前が受任する以前から…正確には10年前から存在する、特殊継続任務なんだ」
「え?」
「研究所業務手続集第六編第二条第四項」
「あ、はい!」
条件反射で返事をする。
「匿名任務。依頼に関する情報を秘匿扱いとする任務。任務に際し入手した情報は専任担当者とその直属上司のみが共有する」
「そうだ。規則に従い、俺は、俺と俺の直属上司のみで本件の情報を共有してきた」
---!!
「…もう隠しても仕方ないから、規則は一旦置いておくね。あの邸の観察…この任務は、僕が僕自身に出したんだ。そして、ゲオルグ・ガードナーを専任担当者に任命した」
「じゃあ私への任務は……」
「第五項だ。」
-専任担当者は、自身の任務の一部を任意の者に代行させることができる-
「…なる…ほど」
ずっと胸の中にあった違和感が解ける。
副所長は続ける。
「数ヶ月前、お前の先遣の研究員から、邸に変化が起こったようだという一報が入った」
私は顔を上げて副所長を見る。
「何人かの研究員を送り込んだが、誰一人として邸の中には入れなかった」
「…それは以前聞いた気がします。魔法使いは誰も入れない、と。扉が開かなかったんですか?」
相変わらず美しい銀色の目の前の人は、ふっと目尻を下げると寂しそうに微笑んだ。
「…それもあるね。邸には強力な結界魔法を施してある。だけどもう一つ…それは、いつか必ず君に話すから、今は少しだけ待って欲しい」
…コクリ。私は彼から目をそらさずに頷いた。




