嘘と本当②
一息つくか?そう言って、副所長は新しいお茶を用意してくれた。今度は小さいタルトを添えて。
「ここからは僕が話すね。この先は殆ど僕の我儘の話だから」
そう言って彼は長い足を組みかえた。
「君に与えられた代行任務は、実際はあの日で終了だった。……僕が目醒めた日」
「お前がセレスを泣かせた日、だろ」
副所長がチャチャを入れる。
「…根に持つね。とにかく、邸の主である僕が起きてさえしまえば、邸の観察は必要なかったんだ」
「…全部は理解できていませんが、邸に変化を起こすのは、眠っている所長だったってことですね?」
彼は頷く。…少し物悲しげだ。
「…君が帰ったあと、ようやく意識もはっきりしだして、邸中を調べたんだ。君は魔法を使わずに掃除をしてた。最初は理解出来なかったよ。で、ゲオルグを締め上げて……」
「…私に魔力が無いことを知った。いいえ、違いますね。私が他人の魔力を奪う事を知った」
そう言って彼をじっと見つめる。
「…そうじゃないんだ。この先は実際に見た方が早い」
そう言うと反対側の机から少し身を乗り出して、私の手を取ろうとその手を差し出して……拳を握った。
「ゲオルグ、こっちに来て」
「あぁ」
二人が席を入れ替わる。
「ゲオルグ、セレスの手を取って」
副所長は、一度隣の彼の方を見て頷く。
「セレス、手を出せ」
私はブンブンと首を横に振る。手はお腹の前で握りしめ開かない。
「大丈夫だよ。こう見えてゲオルグは、僕さえいなければ当代一の魔法使いだ。ちょっとやそっとじゃ何ともなりはしないよ」
「…一言余計だぞ」
そう言いながら大きな身を乗り出し、ガバっと私の手を掴んだ。
「パパだめっっ!」
頭の中はパニックで、思わずギュッと目をつぶり叫ぶ。
しばしの沈黙。
そしてそーっと片目を開く。
…あれ?何にも起きない…?
恐る恐る両目を開いて、何となく視線が合った副所長と一緒に、隣の彼を見る。
何故か白目になっている。
「あの…?」
私が声を出すと、彼は頭をブンブン振ってこちらの世界に戻って来た。
「ぱぱ……あぁ…えと何だったっけ。はっ、あ、そうそう。ね、大丈夫だったでしょ?」
私は繋がれた手をじっと見る。
「君は今、誰の魔力も奪っていない。あの時も…そう、風呂に湯を張ったあの時も、誰の魔力も奪ってないんだ」
私はもう一度じいっと繋がれた手を見る。
そして私を見つめる優しい父親の顔を見つめる。




