私たちは研究員だ!
研究室のある北棟に併設されたカフェで、私たち3人はデザートタイムと洒落込んでいる。
先ほど初めて知った先輩のドス黒いオーラによる緊張も、美味しいケーキとともに胃袋に消えて行った。
「キース先輩、遅ればせながら任務お疲れさまでした。国外はどうでしたか?」
そう我らがキース先輩は、任務で半年間国外出張されていたのだ!
「そうだね、任務って言っても半分は自分の研究目的だったから、色々新しいものを見られてすごく新鮮だったよ」
「あー、じゃあ先輩もそろそろ研究論文のまとめに入るんですか?」
ゴードン君が訊ねる。
「そうだね、上席研究員になって5年経ったし、ここらでもう一つ論文にしとかないと次が無いから」
そう言って悪戯気に片目をつぶる。
「うわー、さすがだなぁ。僕きっと論文一つも書き上げられないよ。多分ずっとヒラ研究員だ」
そう、私たちは研究員だ。その名の通り。…任務に忙殺されて本来の目的を見失う者が多いのだが。
ここ王立魔法研究所は、元々は国中で起こる様々な事象を研究して解明する事を本業としていた。なぜか時代の経過とともに、今のような何でも屋になってしまったらしい。
だけど出世するためには、本来に立ち返ってどうしても研究論文を上げなければならない。
…これが引退までに出来るのは、研究員のうちほんの一握りだ。
「さすがキース先輩です!!」
二人で声を揃えて賛辞を贈る。
「いやいやエリックもセレスも何言ってるの。君たち6年目でしょ?今年は強制的に中間発表あるじゃない」
「!!!!」
完っ全に忘れてた!隣を見るとゴードン君も同じ顔してる。
「はぁ〜もう、しっかりしてよ?イチケンの名誉に関わるんだからね!」
………任務での色々がすっかり消え去るぐらい、頭の中は真っ白だ。
ふと周囲からの視線を感じて横を見ると、女性職員と思しき数名がチラッチラッとこちらを見ている。
…いや、見ているのはキース先輩だ。
「先輩…変なタイミングで聞いちゃうんですけど、何でお嫁さん貰わないんですか?」
隣でゴードン君が「ブッ」とコーヒーを吹く。
先輩はと言えばいつもの微笑みのまま固まっている。
「この間ゴケンの誰かが言ってたんですけど、キース先輩は王子様みたいな見た目だけど、何かトクシュセイヘキだろうって。だから結婚しないんだって。トクシュセイヘキって何ですか?」
今度はゴードン君が一瞬固まって、そして口を開いた。
「あー…特殊性癖って言うのは……」
「エリック!!セレスに変なこと教えなくていい!あー…セレス?…ゴホン。そのゴケンの人たちについて詳しく教えてくれる?きちんと御礼しないといけないから」
そう言ってニッコリ微笑むキース先輩の隣で、ゴードン君はガタガタと震えていた。




