先輩
「それで?セレスは何で泣いちゃったの?」
ここは研究所中央棟にある大食堂。私たち3人はさっきの約束通り昼食にやって来た。
憧れのキース先輩は、『やっぱり復帰初日はコレでしょ!』と言いながら、研究所謹製謎肉サンドイッチをほうばっている。
「う〜…相変わらずまっずいね。帰って来たって実感するよ」
「ですよね〜。人間の食べ物じゃないですよ。でも、かの大魔法使いの大好物って話ですけど」
「……………。」
「あれ、コールデンどうしたの?何か固まってる?」
え?え?え?え?謎肉サンドって美味しいんじゃないの?え、そう思ってるの私だけ?それ邸に置いて来たやつだよ?ヤバいヤバいヤバいヤバい?本当に?
頭の中は軽くパニックである。
「おーい、聞こえてるー?」
心ここに在らずの私を、キース先輩の冒頭の質問が現実に戻す。
「…ハッ!ええと私?泣いてた?」
「…泣いてたじゃん。大っきい声で、わんわんと。往生際悪いな〜」
ゴードン君の冷ややかな視線が痛い。
「セレス、初任務で何かあった?」
キース先輩の労るような声に、ついつい胸の内を明かしてしまう。
「ええと、初任務、頑張らなきゃって思ってたんです。自分に出来ることを、精一杯」
「うんうん、それで?」
「副所長から与えられた指示を、1ヶ月かけてこなしました。…私はみなさん知っての通り、魔法がアレだし」
「……うん、それで?」
「…私の1ヶ月の仕事量って、魔法使いの人たちにとっては一瞬で片付けられることに過ぎないんだなぁって思い知ったんです。何ていうか、無力だなぁ、虚しいなぁって。…こんなこと、お二人の前で言うの失礼だとは思うんですけど」
少しの沈黙のあと、先輩が口を開いた。
「セレス、それは間違ってるよ。結果に至る時間の長短が仕事の価値を決めるんじゃない。そこにどんな思いを込めたか、だ」
ゴードン君も頷く。
「そうだよコールデン。僕は君が手ずから作ってくれる報告書が好きだよ。僕の伝えたいことを一生懸命文字にしてくれる」
キース先輩が続ける。
「セレスはいつも自分に価値が無いって言うけど、僕ら誰もそんな風に思ったことないよ」
目の縁に涙が溜まる。
「でも、私のせいで、みんな、他の研究室の2倍、働かなきゃいけないって、私が穀潰しだからって…」
「セレス」
キース先輩が殺気を纏う。
そのオーラに当てられてゴードン君が目を見開く。
「……誰なんだろうね、そんな嘘を君に聞かせるの。ねぇエリック、僕らが忙しいのは、僕らが優秀なせいだろ?違ってた?」
まるで周囲を威嚇するようにゆっくりと言葉を紡ぐ先輩に、ゴードン君はすごい早さでブンブンブンと首を縦に振る。
パンッと手を叩くと、先輩はいつもの優しい目でにっこり微笑んで言う。
「ここじゃ落ち着かないし、デザートは別のところで食べようね」
「はいっ!!」
私とゴードン君は、この日一番いい返事をした。




