ビークス村
「魔症の発生が報告されたのは、東部イスタール地方ビークス村。通称、只人の村、だ」
ゲオルグが、知ってるだろ?と言う目で僕を見る。
「……魔力を持たない人々の村」
「ああそうだ。あの当時、あの村における生活水準の低さと貧困が、王国の懸念事項になっていた」
僕は頷き、続きを促す。
「ビークス村への福祉事業の一貫として、隣町との間に橋をかける事業が持ち上がったんだ」
目を瞑り、イスタールの地形図を思い出す。
「村…とは呼ばれてるけど、確かあそこは離れ小島だったね」
「そうだ。それが生活水準が向上しない理由だろうとお偉いさん方は考えたわけだ」
「僕らにとっては小島だろうが何だろうが不便は無いけど、魔力が無い人々にとって移動手段が存在しないのは致命的だ」
「ああ。だから何人もの魔法使いが派遣されて橋の建築に携わった」
「…なるほど」
ゲオルグの話を聞きながら、彼自身がまとめた当時の関連資料に目を落とす。
「…ところがだ。派遣する魔法使いが次々に体調不良を起こして王都に戻って来た。最初は慣れない生活で疲弊したんだと思われた。…実際、ビークスでの生活環境は我々には快適とは言い難い」
「…何となく想像はできる。だけど、結局ただの疲弊じゃないと判断された。それは何故?」
「…戻った全員が、重度の魔力枯渇状態だったからだ」
衝撃的なゲオルグの言葉が頭の中をグルグル回る。
「魔力枯渇って…彼らは王都から派遣されるぐらいの優秀な魔法使い達だろ?魔力が尽きるなんて有り得るのか?」
「だからウチに調査依頼が来た。何か異常事態が起こってるんじゃないか、と」
「………あの子とはどこで出会ったの?」
「調査に向かったその日、部屋を取った、村で唯一の宿屋があの子の実家だ」
「………………。」
長い沈黙を破るように、ゲオルグはその厳つい顔をふっと緩めて目尻を落とす。
「…あの子は9才だった。女将さんの後ろにくっ付いて、一生懸命働いてたよ」
そして僕の瞳をじっと見て言葉を紡ぐ。
「あの子は希少例だ。それも王国の有史以来初めて見つかった、な。お前にはもうわかるだろ?」
僕は長年の友人の少し歳を取った目尻を見ながら口を開く。
「あの子……セレス・コールデンは、他人の魔力を奪う。そして…それを自分の魔力に変換できる」
ゲオルグはその太い眉をへの字に歪める。
「あのなぁ、その言い方。絶対あの子の前で口にするなよ?……まぁいい。目醒めの祝いだ。一杯飲め」
そう言って差し出された琥珀色の液体を、僕は一気に飲み干した。
「!!!!ゴホッゴホッ!グエッ!?何だよコレ!?すっごい苦いんだけど!?」
「俺の娘を泣かせた罰だ」
「……は?」
「セレスは10才から育ててる、俺の む す め だ」
突然降り注いだ今日一番の衝撃に、僕の口は開きっぱなしだった。




