142.ファーマーさん、オーク相撲
サイカはメニューから交配の組合せを決定する。
二匹のオークにハートエフェクトが発生し、光エフェクトに変わり、一匹のオークへと姿を変えていく。そして普段より少し強い光を放つ。
(こ、これはランクアップエフェクト……!)
元々、配合おじさんであるジサンがワクワクしないはずもなく……
==========================
フワフワ・オーク レベル:37 ランクL 雄(ヤワラカ系)
×
ユッタリ・オーク レベル:37 ランクL 雌(フックラ系)
↓
タクマシ・オーク レベル:50 ランクN 雄
==========================
(……)
「~~~~~っっ!!」
サイカは覚悟はしていたもののトンダから教わったメモ帳を再度、確認せずにはいられなかった。
==========================
ヤワラカ雄×フックラ雌=同ランクのシッカリ or ”ゴウワンの高ランク”
==========================
思えば高ランクエフェクトは失敗の証であった。
なぜかランクMを飛び級して、ランクNにランクアップするという無駄な幸運も発動していた。
==========================
飼育数8/10
●サワヤカ系
ニッコリ・オーク レベル:37 ランクL 雄
サワヤカ・オーク レベル:35 ランクK 雄 ×2
ホロヨイ・オーク レベル:35 ランクK 雄
●ゴウワン系
タクマシ・オーク レベル:50 ランクN 雄
カラテ・オーク レベル:35 ランクK 雄
●ヤワラカ系
フワフワ・オーク レベル:37 ランクL 雌
●フックラ系
コエコエ・オーク レベル:35 ランクK 雌
==========================
「ランクN……ゴウワン系…………やらかした」
サイカはうな垂れる。ジサンもその気持ちはよくわかった。
「おいおい、本格的に相撲の方がいいんじゃないか?」
「……!?」
意気消沈するジサン達の元へ、その様子を見兼ねたのか、隣の飼育小屋からトンダが声を掛ける。
「しかし、ランクNか、すごいな……」
「え……?」
「レベルを見てもらえば分かるが、ランクMからNの壁は厚く、私が教えた組合せでもなかなか生まれないんだ」
「へぇ……で、でも、食べられないんでしょ……?」
「え……まぁ……」
「~~……」
トンダのランクに関する慰めは今のサイカにはあまり効果がなかった。
「ところで相撲とは何だ?」
「えっ……」
意外な人物がトンダへと尋ねる。
唯一、全く落ち込んでいないサラであった。
「さっき言っていただろう? “本格的に相撲の方がいいんじゃないか?” と……確か主が最初にここに現れた時も言っていた。”相撲部屋にでもするつもりかい?” と」
(……そうだったっけ?)
「あぁ……確かに言った」
(……!)
そうだったのである。
(…………)
サラは興味なさそうにしていたように見えたが、意外と話を聞いているのだとジサンは小さく驚く。
「え、相撲って何ですか……?」
サイカもサラに被せるように尋ねる。
「えっ、お前さん達……本当にオーク相撲を知らないのか?」
「「「オーク相撲……?」」」
◇
「はっけよーい…………のこったぁ! のこったぁあ! のこったぁあああ!」
「ぶひぃぶひぃいいぶひぃい!!」
「ぶひっ、ぶひぶひ、ぶびぃいいい!!」
「ぶびぃいいいい!!!」
一匹のオークが勢いよく弾き飛ばされ、もう一匹のオークが土俵上で満足気に仁王立ちしている。
「「「……」」」
「これがオーク相撲だ……」
「「「……!」」」
ジサンらが絶句する間に次の取組が始まる。
「はっけよーい…………のこったぁあ!」
トンダにより牧場の離れの一角に連れて来られた三名は二匹のオークが土俵上で、激しく体と体をぶつけ合っている姿を目の当たりにする。
(……なんという迫力)
オーク達は肉弾戦で戦ってはいるのだが、肉体強化のスキルか魔法を使っているのかその度に、激しいエフェクトが発生し、視覚的にも凄まじい攻防が繰り広げられていた。
「うぉおおおおお! やれぇえええ!!」
「いけぇええええええ!!」
しかも、結構、ギャラリーも集まっていた。
「わぁあああ!! きゃぁああああああ!! いけぇえええええ!!」
(ん……?)
ギャラリーの中には、どこか見覚えのある女性が高まっている感じで熱狂していた。
「あ、あれは……」
「あぁ……見ての通り、イルカだ」
「あ、はい……」
「イルカもオーク相撲の熱狂的ファンだ……」
トンダがやれやれといったような表情で言う。
◇
「いやはや、恥ずかしいところを見られてしまいましたな」
トンダのパーティ”トンダ牧場”の狩人役の女性、イルカは照れ臭そうに頭を掻きながら、そんなことを言う。
「トンちゃんから聞きましたが、サイカさん、オーク相撲に参戦するんですか?」
イルカはキラキラした瞳で尋ねる。
「え……い、いや、まだ決めたわけじゃ……」
「あ、そうなんですね……」
イルカは少し残念そうにする。
「と、まぁ、何となくわかったと思うが、オーク相撲とはその名の通り、オークの土俵上の格闘技だ。オークの牧場と双璧をなす産業であり、オーク相撲部屋を経営している人も少なくない」
「小嶋くん、知ってた?」
「い、いえ……」
「私も……昔からスポーツとか格闘技観戦にはあんまり興味なかったからなぁ……」
ジサンとサイカは顔を見合わせる。
「逆にすごいな、君ら……そんな君らのためにもう少し説明するが、オーク相撲部屋を経営しているものはオーク・トレーナーとも呼ばれている。テイマーでなくても、決められた場所においてはオークを戦わせることができ、さっきも言ったが、単なる趣味ではなく、観戦料から得られる金銭により商業としても成立している。ちなみに、この共用牧場内ならどこでもオークを戦わせることが可能のようだ」
「……なるほどです」
サイカは少々、複雑そうな表情で聞いている。
サイカは悩んでいた。
確かにここは高ランクのゴウワン系が活躍できそうな場である。しかし、元々は美味しいお肉をジサンに食べさせたいと思っていたのであった。
”できること”と“やりたいこと”は似ているようで全く異なるのだ。
「食用オークの生産はどうしても非情さが必要になる……」
「えっ……」
「初日のいざこざがあっただろう? 覚えているよな?」
「はい……」
(リリース・リバティのメンバーとの口論のことか……)
豚を侮辱語に使用したリリース・リバティに対してトンダが怒ったのであった。
「彼らは言っていた。お前らも結局、金のためにブタを屠殺してるんじゃねえか? と……」
トンダはやや暗い面持ちで言う。
「食用とするならまだマシだ。サワヤカ系は百害あって一利なし、ゆえに間引く……」
「……」
「彼らの言うことは間違っていない。図星だからこそ、なお、カッとなったのだ」
「……」
結局、トンダはそれ以上、その話題を続けることはなかった。
その話をした真意には、畜産の厳しさをサイカに伝えたこと、そして自身の胸中を打ち明けたかったというのもあるかもしれない。




