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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第4章『執事に惑わされています!』
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memorys,72

 わたしは思い違いをしていたのかもしれない。

 神木さんとの別れで傷ついていたわたしを支えて、好きだと伝えてくれた白藤さんなら無条件に自分から離れることなどないだろうと、妙な自信を抱いてしまっていた。それは自分が勝手に思っていただけで、その絶対は白藤さんが守るものではない。そんなことにも気付かなかったなんて、どうしようもない馬鹿だ。


「怖かったって?」


 静かに白藤さんが問う。


「もしも白藤さんを好きになったら、また神木さんのように離れなきゃいけない日が必ず来るんじゃないかって……そう思ったら返事とか考えられなくなって、考えることからも逃げてた」


 正直、白藤さんを好きになったのかは今もまだはっきりとを言えない。

 でも、そんな曖昧な気持ちのままだったとしても、これだけは分かる。


 わたしは白藤さんを失いたくない。


「わたし間違ってた。白藤さんが好きなのか分からないから、このまま自然に離れることがお互い幸せなんだって……でも違ったの。白藤さんが居なくなるって聞いて初めて気が付いた。また気持ちを伝えないまま離れたらきっと後悔するって。本当に今更なんだけど、ちゃんと伝えたいと思う!」


 少し困惑気味の白藤さんを見つめて、わたしは意を決して言い放った。


「側にいてほしい」


 相手の目が大きく見開かれる様子を眺めながら、ぎこちない口調で続ける。


「返事って言っておいて変なんだけど、まだはっきりと白藤さんが好きだって言えない。けどね、わたしには白藤さんが必要なの……どのくらい時間がかかるか分からないけど、いつか白藤さんに答えられるようになるまで一緒に居させてほしいの」


「お前……」


「お願いだから、どこにも行かないで」


 再び沈黙が辺りに漂う。気まずさと恥ずかしさから、少しだけ目線を下げて返事を待った。しかし、返事の代わりに聞こえてきたのは意外なことに笑い声だった。思いっきり吹き出し、お腹を抱えて笑い始める相手をうろたえて見つめる。


「なんで、ひどいよ! 笑うことないでしょ!」


 確かに今更返事なんてしたものの、こんなの返事でもなんでもなかった。結局のところ相手に好きなのか、もしくはそうでないのか伝えるべきなのに、それもしていない。笑われるどころか、最悪もっと呆れられてしまう確定案件だ。


「悪い……お前ほんと可愛いよな」


 やっと笑いを堪えた白藤さんが涙目のまま告げる。


「かわっ……え?」


「どっから聞いた情報なのかは知らないけど、そもそも俺はいなくなったりなんてしないぞ? お前に黙って執事辞めるとでも思ってたのか?」


「え?」


「考えてもみろ。俺がお前をどんだけ長い年月想ってたと思ってんだよ……それをたかが3か月間告白の返事をスルーされただけのことでお前を諦めて屋敷から去るはずがないだろ」


「でも……だってメイドさんたちが」


 一気に頭が混乱する。聞き間違いをするはずはない。確かにあのメイドさんは白藤さんが居なくなると言っていた。なのに居なくならないとはどうゆうことなのだろうか。


「たぶんそのメイドが言ってた居なくなるっていうのは、クリスマス旅行の準備で一足先に俺が現地へ向かうことを言ってたんじゃないか? 明後日の朝に立つから、今日の夜にでもお前に言っておこうとは考えてたんだが……まさかそんな勘違いをされるとは思ってもみなかったよ」


「え、わたし……勘違いしてた?」


 なんだか残念そうに言っていたメイドは、きっと頼りになる人が抜けてしまうから、白藤さんが居ない間の仕事分担を心配していたせいだったのだ。ただ“いなくなる”というワードだけで誤解してしまい、こんな突っ走った行動をしてしまったのだと分かった途端、この場から消え去りたい衝動に駆られた。


「わたし、ほんとアホだ」


 顔中が赤面しているんだと気が付くほどに熱く、背中や手の平には変な汗が滲んできたように感じる。


「ああ、本当にアホだよ」


 冷静に返された白藤さんの言葉で余計、顔すら見れずにいた。もうこの際、さっきのわたしの発言を全て撤回して、そのまま後ろの扉を開けて逃げ出したい気持ちだった。しかし、そんなわたしの考えを読んだかのように白藤さんはそっと自分の方へと抱き寄せる。


「心配するな。俺はたとえ返事を聞くのに何年かかろうともお前の側に何が何でも居続けてやる」


 なぜか泣きそうになった。


「覚悟はいいか? 側にいていいってことは俺とちゃんと向き合うってことだからな。嫌だって言っても離れたりしてやらないから」


 真剣な瞳が眼鏡越しに映る。


「ほら、返事は?」


「えっと」


 戸惑っていると、また抱き寄せられて耳元で囁く。


「早く言えって」


 それはまるで呪文でも唱えられたように、逆らうことを許さない。


「はい。覚悟します」


 そう返すと、体を離し、ご満悦した様子で笑顔を浮かべた。そんな白藤さんの表情を見て、照れるよりも先に嬉しいという感情が溢れ、自然と笑顔になっていた。


「あ、そうだ」


 さっきまで緊張していたのもあって、すっかりあれの存在を忘れていたことにわたしは慌てて手の中にしまっていたものを差し出す。そう、白藤さんの落としてしまったブレスレットだ。


「いつの間にか落としてたのか……」


 落としたことに全く気が付いていなかった白藤さんは慌てたようにブレスレットを受け取る。


「廊下に落ちてたの」


「鍵を取り出すときに落ちたんだな。お前に拾われるのは二度目だな……ありがとう」


 そう微笑んで言われ、私は小さく頷く。


 もしかしたら、このまま白藤さんを好きになっていけるのではないだろうか。


 しかし、いくらでも待つと言ってくれた直後にそんなことを言えるわけもなく、そっと胸の中にしまった。いつか決断できる日がきたら、必ず白藤さんが喜んでくれるような言葉で伝えてあげたい。


 彼の笑顔が一番輝く瞬間はきっと近いと、わたしは信じていた。

このまま白藤さんと亜矢は

付き合うことになってしまうのか!?


みなさん的には今

白藤さん派なのか、神木さん派なのか

実に興味があります( *´艸`)笑

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