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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第4章『執事に惑わされています!』
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memorys,71

「えっ、クリスマス旅行!?」


 その知らせを耳にしたのは、冬休みまで残り二週間を切った頃だった。

 夕方、会社から帰宅した陽太と鉢合わせしたところで、その話を聞いた。毎年クリスマスになると、家族で海外旅行をするのが恒例らしい。さすがセレブと言いたいところだが、こんなことにも慣れてしまったわたしの脳内は、一瞬で切り替わってしまった。


「お父さんたちはどうするの?」

「どうかな? 仕事が落ち着いていたら、合流できるかもしれないけど、今年は兄弟だけで過ごす形になるかもしれないな」

「そうなんだ」


 家族全員でクリスマスを過ごせないことを残念に思いつつも、どこかで安堵している自分がいた。家族全員が揃うということは、つまり神木と会うことになるということだ。いつまでも避けてはいられないとわかってはいるのだけど、まだ心構えができていないのが正直なところ。また、あの日のことを思い出して、悲しみに沈んでしまうんじゃないかと思うと、怖くて堪らなくなる。


「クリスマスにどこへ旅行するかは内緒な」


 沈み気味だったわたしは、その言葉にすぐさま顔を上げた。


「え? なんで?」

「どこへ行くかわからないのも、わくわくするだろ?」


 少し無邪気に笑う陽太に、さっきまでのモヤモヤとした感情が和らいでいく。


「確かにわくわくする」


 そう返すと、陽太は満足そうに微笑んだ。もしかすると、陽太がクリスマスを企画したのだろうか。


「じゃあ、体調に気をつけてクリスマスまで待っててくれ」

「わかった」


 そこで陽太とは別れ、じきに夕食の時間であることを確認していたわたしは、そのまま食堂を目指した。その途中、何かを踏みつけてしまったようで、足元から音がしたのに気づく。


「これって……」


 床へと目を向けた瞬間、それが誰のものなのかを瞬時に悟った。それは紛れもなく、わたしが白藤にあげたブレスレット。それを拾い上げようと手を伸ばした時、メイド二人が珍しくひそひそと声を潜めながら、背後の部屋から出てきた。わたしがいるとは思わなかったようで、一人のメイドが少し声を張る。


「えっ! 白藤さん、いなくなっちゃうんですか!?」


 強い焦りを覚えたわたしは、メイドに見られないようにブレスレットを拾い上げると、勢いよく走り出した。


(……()()()()()? 白藤さんが?)


 泣きたくなるような、叫びたくなるような、よくわからない感情が一気に押し寄せてきた。


(なんで? どこに行くの?)


 ずっと傍にいるとか言っておきながら、何度も人にキスをして迫ってきたくせして、今さらわたしの前から消えてしまうのかと、じわじわ怒りまで込み上げてきた。

 だが、冷静さを取り戻し始めたわたしは、足を止め、その場で深くため息を零す。


(当たり前か……今さら、どうこう文句を言える資格なんて……わたしにはない)


 本当のところ、執事を続けることを後悔しながらここへやってきたのだから、やめるという選択肢はいつだって白藤の中にはあったはずだ。

 わたしを好きだと告白してくれたのに、三ヶ月も返事をうやむやにしてしまったら、誰だって嫌になるに違いない。呆れられてしまって当然なのだ。それをわたしが怒るのはお門違いで、今さら後悔を感じるなんて、馬鹿と言われても仕方がない。


 ――このまま何も言えずに、また去っていくのを見送るだけでいいのだろうか?


 肝心な時に、嘘の笑顔でごまかして、言いたいことも飲み込んだまま、去っていくのをただ見送る。どれだけ後悔したとしても、それは自業自得。そんなことをまた繰り返してもいいのかと、頭の中で誰かが囁きかける。


「もう……後悔はしたくない」


 自分の気持ちが決まったわけではない。それでも、白藤に何も伝えられずに終わってしまうのは嫌だ。知らないところで別れを決められて、“さよなら”すら言えなかったことにまたうじうじ悩んで泣く、あんな毎日を送るのは、もう懲り懲りだった。

 笑顔で見送ってから泣くよりも、自分の気持ちを伝えて泣いた方がよっぽどいい。


 決意したように、わたしはまた走り出した。






 向かった先は執務室。

 自分が作ったブレスレットをお守り代わりのように握り締めて、目の前の扉をノックもせずに開け放った。


「白藤さん!」


 そこには、驚いた顔でこちらに目を向けた白藤の姿があった。いきなり、ノックもなしに乗り込んできたわたしに驚いたのか、言葉を発することもなければ、いつものような余裕ぶった表情を浮かべることもなかった。


「いきなり来て……ごめんなさい」


 いざ、本人を目の前にすると動揺して、うまく言葉が出てこない。


「珍しいな……お前がここに来るなんて」


 白藤に告白されて以来、執務室には来ていなかった。


「どうした? 何かあったのか?」


 わたしがどうしてここへ来たのか知りもしない白藤は、平静を取り戻し、普段どおりの口調で話し始める。開いていたノートパソコンを閉じると、未だに扉の前から動こうとしないわたしの方へと近づいてきた。緊張から目が合わせられなくなり、思いっきり強く瞼を閉じる。


「亜矢?」

「返事を……しに来ました」


 やっとのことで絞り出した声。しばし沈黙が続き、わたしはゆっくりと、相手の反応を窺うように目を開いた。


「……今さら?」


 呆れ笑いを浮かべた白藤が、予想どおりの返事を返してきたことに、わたしは苦笑いを浮かべた。


「今さらになってすみません……」

「バカ、冗談だ……別に返事はしなくていいって言っただろうが」


 こつんと、白藤の指がわたしの額を優しく弾く。


「確かにそうは言ってくれたけど、三ヶ月も放置なんてやっぱりよくないし……本当はずっと返事をしなくちゃとは思ってたんだ。けど迷いもあったし……怖かったの」


 からかって終わる話だと思っていたのか、真面目に話し始めるわたしを見て、白藤はどこか困惑した表情を浮かべていた。

新たな恋がついに動き出してしまうのか!?


ご意見、ご感想があればお気楽にどうぞ\(^_^)/

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