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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第3章『執事にも覚悟が必要です!』
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memorys,46

 車を走らせること30分、ある公園の駐車場に入る。


「この近くにカフェがあるから、少しだけ待ってて……なるべく早く迎えに行くから」


「うん、分かった」


 車から下り、わたしとは反対方向へ向かう神木さんを見送り、言われた通りカフェへと向かった。



 カフェに入ると店員に窓際の席へ案内され、そこから見える景色を眺める。先程の神木さんと白藤さんの異様な雰囲気を思い出し、しばし考え込んだ。


(もしかして何かあったのかな?)


 白藤さんが“覚悟”の話をした日に、神木さんも少し様子がおかしかった気がする。ただ白藤さんが知り合いだったのに嫉妬したのかとも初めは考えたが、あのふたりの様子から何かあったのだと察した。


(きっと、白藤さんが神木さんにも余計なことを言ったんだろうな)


 しかし、神木さんが何も言わないから逆に聞きづらい。


「ご注文はお決まりですか?」


 いろいろ考え込んでいると、店員が笑顔で尋ねてきた。


「あ、えっと……アイスティをお願いします」


「畏まりました」


 立ち去る店員からまた窓へ目線を移す。


(そういえば、神木さんは誰と会う約束をしてたんだろう?)


 まだ付き合い始めたばかりで、神木さんがどんな人と親しいのかなんてまだ分からない。


(もしかして、女の人だったりして……)


 あれだけカッコいいのだから、女性の知り合いがいてもおかしくない筈だ。過去を気にするわけではないが、付き合っていた女性はきっと綺麗な人だったのだろうと想像しなくても予想は付く。逆に、わたしを好きになったこと事態が奇跡に思えて仕方なかった。


 自分が知らないだけで、今も神木さんに想いを寄せる人がたくさんいるのではないだろうか。そう考え出したら、急に焦りを覚える。


「お待たせいたしました。ご注文のアイスティになります」


「ありがとうございます……」


 まだカフェに来て数分。一時間ぐらい待てると余裕だったのが、今は一分さえ長く感じてしまう。


(きっと、近くにいるんだよね)


 公園の周辺を探せば、きっと直ぐに見つかる筈だ。そう考えた途端に居ても立ってもいられなくなり、わたしは目の前のアイスティを勢いよく飲み干す。空になったグラスをテーブルに置くと、急いで会計を済ませ、公園へと走った。


(確か神木さん、あっちに歩いていったよね)


 かなり広い公園のようで、奥にはテニスコートなんかもある。きっと公園のどこかにいるか、あるいは付近にあるお店にいるかのどちらかだ。


「誰と会ってるか確かめて、見付からないように戻ればいいだけ」


 “よしっ”と気合いを口にし、公園の奥へと足を進めていく。



 しかし、歩いても歩いても神木さんらしき人が見当たらない。公園をジョギングする人や仲睦まじく散歩する老夫婦、ベンチで肩を寄せる恋人、楽しそうに駆け回る子供の姿ばかりだった。


 なら次は、近くのお店を探そうかと公園から出る道を進み出す。そして、歩道へと出た瞬間だった。急いで歩いてくる人影に気付かず、そのままその人にぶつかってしまう。尻餅を付くことはなかったが、バランスを崩しながら後ろにある木に軽く背中を打ってしまった。


「痛っ……」


「痛いのはこっちだ! よそ見して出てくるなっ!」


 打ち付けた背中に痛みを感じながら、慌てて頭を下げる。


「ごめんなさい! 急いでいて」


 かなり怒っている口調に、まだ何か言われることを覚悟していたのだが、それ以上なにも言わない相手に思わず顔を上げた。目の前にいる人物と目が合った瞬間、わたしは後ろにある木の存在を忘れ、慌てて後退る。


「やっぱりお前かよ」


 二度も同じ場所を打ち付け、背中がじんじんと痛みを発していた。だが、そんな痛みなどに構う余裕などわたしにはない。


「あ、その……すみません」


 威圧的なオーラを放ち、こちらを睨み付ける人物。

 それは、朝比奈家の後継者・晶だった。


「お前がなんでこんなとこにいるんだよ! 全く気分が悪いっ」


「ぶつかって、ごめんなさい!」


 ここから早く離れた方がいい。そう思い、もう一度深く頭を下げて立ち去るつもりだったが、相手はそれを許さなかった。


「待て! お前、そんな簡単に俺から逃げられると思ってんのか?」


 皮膚に食い込むぐらいの強さで手首を掴まれ、痛みに顔を歪ます。


「あの時はよくも好き勝手言ってくれたな……俺の受けた屈辱、そんな簡単な謝罪なんかで済まさないぞっ!」


「痛いっ……離して!」


 更に力を籠められ、なんとか振り払おうとするが痛みが増すだけ。


「離すわけないだろ。やっと恨みを晴らせるんだからな!」


 自分の方へ引き寄せ、反対の手を掲げた様にわたしは顔を伏せた。


「何をやっておられるのですか!」


 耳に届いた声に安堵の涙が込み上げる。声がした瞬間に晶の手は外れ、ふらつくように木へと凭れ掛かった。


「亜矢様、大丈夫ですか?」


 優しい声に導かれるように顔を上げていくと、心配そうに見つめる神木さんの瞳が目に映る。


「神木っ、お前邪魔する気か!? 命令だ、そこをどけっ!」


 晶の発言に神木さんの目付きが珍しく鋭く光った。


「晶様、そのご命令はお聞きできません」


「なんだと」


 わたしを庇うように片手を広げる。そんな神木さんの行動に、晶の表情が悔しさと怒りで歪んでいく。


「陽太といい、お前といい……そんな庶民のバカ面女を庇って何になるんだよ! そもそも神木、お前は執事なんだから俺の命令は絶対なんだぞ!」


 しかし、その言葉を聞いても神木さんが怯む事はなかった。

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