memorys,35
次の日、わたしは思い出の残る家にお別れを告げ、神木さんとふたりでお母さんのお墓参りへと訪れる。花を飾り、静かに手を合わせながら新たな始まりと想いを母に届けた。
「お母さん、わたし笑顔で頑張るからね」
隣で神木さんも同じように手を合わせる。
瞼を閉じ、真剣に何かを祈る姿が気になり、そっと覗き込む。ふっと目が開けられ、窺い見つめるわたしと目があった。なぜか、照れ笑いを浮かべる。
「お母さんに何を話したんですか?」
「恥ずかしいから内緒だよ」
「ぇえっ」
残念がるわたしに“冗談だよ”と笑う。
「亜矢とのこと報告したんだ。年も離れてるし、立場も違うから大変かもしれないけど精一杯、亜矢を大切にしますって」
「あ、ありがとうございます……」
母に報告してくれた嬉しさに再び幸せを実感した気がした。
「けど、暫くはみんなには秘密にしようか」
「それはもちろんです! お父さんが知ったら大騒ぎなんで」
「それもあるけど……みんなに報告する時は、この先を決めてからの方がいいと思うんだよ」
「この先って?」
聞き返したわたしの左手をそっと持ち上げる。
「亜矢が俺との未来を考えてくれた時……」
その一言に、頬が熱を帯だした。
「それって」
「まだ時間はたっぷりある。だから、ゆっくりお互いを知っていこう……そして、その時が来たらまた改めて言うから」
触れられた手に伝わる体温を逃さないように、軽く握る。
「よろしくお願いします」
「それは、俺の台詞だよ。亜矢と7つも違うから……おじさんって思われないように努力しなきゃいけないね」
それはわたしも同じだよっと心の中で呟く。
まだまだ子供なわたしだから、大人なあなたと堂々と肩を並べる日のために頑張ろうと、強く決意した。
「それでは亜矢様……そろそろ戻りましょうか」
「はい」
繋がれた手をそのままに、わたし達はまたあの家へと向かい歩き出したのだった。
◇◇◇ ◇◇◇
「亜矢と外泊なんて、それはそれは楽しかっただろうな……神木?」
家に着くなり待ち構えたいたのは、陽太さん。しかし、引きつり笑いを浮かべる相手に神木さんは動じること無く執事スマイルを浮かべた。
「無事にご実家にお別れもできましたし、お母様のお墓参りも同行できました。有意義ある時間でしたよね? 亜矢様」
「は、はいっ」
さすが神木さんだ。
顔色ひとつ変えずに、お兄ちゃんの嫌味を払い退けてしまった。
「神木ならいいようなもので……男とふたりきりで外泊なんて父さんは何を考えてるんだ? 後で家族会議だな」
ブツブツ文句を言う陽太さんが目を離した隙に、神木さんがこっそりと耳打ちする。
「旦那様よりも陽太様の方が手強そうですね」
「う、うん」
ウインクまでする姿に、なんだかどきっとしてしまう。
「亜矢様、お疲れになったでしょうからお部屋で少し休まれてはいかがですか?」
「そうするねっ」
これ以上、お兄ちゃんから追求でもされたらボロが出そうだ。わたしは急ぎ部屋へと向かった。
二階へ上がり、もうすぐ部屋に着くというところで曲がり角から現れた白藤さんと出くわす。
「あっ」
思わず声を出したわたしに、相手もどこか気まずそうな表情をした。
「お、お帰りなさいませ。もうお戻りだったんですね……ではっ」
「ちょっと、待ってください!」
なぜか来た道を戻ろうとする白藤さんを慌てて呼び止める。
「……何か?」
嫌々ながら振り返った相手に、わたしは自分の決意を口にした。
「わたし、白藤さんと家族になりたいです!」
「は?」
呆れた声が返ってくるも、構わず続ける。
「また馬鹿って言われてもいいです。わたしは馬鹿になるぐらい今の家族が大好きだから……“ごっこ”なんかじゃないって断言します」
僅かに、白藤さんの表情が和らぐ。
「だから白藤さんとも、いつか必ず笑顔で話せる日が来ると信じてます。出会ったからには、絶対に諦めませんから!」
「……随分、勝手な解釈だな」
「はい、勝手な自己満足ですからっ」
気合いを見せるためにガッツポーズを決めると、予想外にも白藤さんが吹き出し笑い出した。
「えっ?」
「自己満足って……なんだそれっ……発言がアホすぎるだろ」
初めて見る笑顔。
(なんだ……ちゃんと笑えるんだ)
「白藤さん、笑ってた方が全然いいですよ! 笑顔なら何だって乗り越えられるし、大きな幸せになって返ってくるんです!」
その言葉を聞いた途端に、焦ったように顔を上げた。
「え、どうかしました?」
笑顔は一瞬で消され、わたしを凝視する。そして、返されたのは溜め息だった。
「あなたには付き合いきれません」
「亜矢様っ」
後ろから駆け寄ってきた神木さんを見るなり、またも表情を険しくする。
「今回は失言したわたしも悪かったですが……あなた達と仲良くするつもりは微塵もございません。もう口出しもしませんから、どうかご勝手になさって下さい」
「白藤さんっ」
「それでは失礼致しますっ」
そのまま背を向けて立ち去る姿をわたし達は少し呆然と見送った。
「彼もなかなか手強そうですね」
「はい。かなり……」
せっかく笑ってくれたのにと、肩を落とす。
「彼のことも時間を掛けてゆっくりいきましょう。焦りは禁物です」
「そうですね」
こうして、白藤さんとは進展のないまま一週間が過ぎた頃だった。
「突然だが、みんなで旅行へ行こうと思うっ」
夕食の席で、お父さんが満面の笑みを浮かべる。
「まだ家族旅行へ行ったことなかったからな」
「えっ、どこ行くの?」
家族旅行という言葉に、わたしは期待の眼差しを注いだ。
「今回はハワイにしようと思うの。どうかしら?」
涼華さんの声に、わたしはいち早く賛同を示す。
「ハワイっ、わたし行きたい!」
初の海外に胸が踊る。
「たまにはいいですね」
「僕も別に構わないよ」
みんなが賛成のもと、急遽決まった家族旅行。
一体、どんな出来事がわたし達を待っているのだろうか?
ここで第2章は終わりになります!
次回の第3章からは『ハワイ編』
ついに白藤さんも亜矢にっ!?
問題勃発の家族旅行だヾ(o゜ω゜o)ノ゛
また良ければご観覧ください♪