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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第3章『執事にも覚悟が必要です!』
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memorys,36

第3章は“ハワイ編”になります(^-^)/


初めての家族旅行にまたも

いろいろな事がございますが

また良ければお付き合い下さい。

 只今わたしたちは、南国ハワイに来ています。


「すごーいっ!!」


 どこまでも広がるスカイブルーの海に、キラキラと輝く白い砂浜、所々で実を付けたヤシの木。初めて見る海外の風景に、わたしは目を輝かしていた。


「それにしても……」


 ハワイと言えば観光地。テレビで見る風景はどれも、砂浜でも日光浴を楽しむ人で溢れている。しかし、どこを見渡しても人の姿が見当たらない。


「なんで、わたしたちしかいないんだろう? シーズンオフとかじゃないよね?」

「なに言ってるの?」


 疑問を口にすると、横から暉が平然とした顔で言う。


「ここプライベートビーチだから」

「プラっ……!?」

「他人と一緒なんてうるさくて嫌じゃん」

「な、なるほど」


 わたしは愕然としながら、誰もいないビーチを眺める。


(忘れてた……この人たちはお金持ちでしたね)


 生活に慣れすぎて、“お金持ち”という認識が薄らいでしまっていた。


「さぁ! 夕食までは自由だから、好きなことをして遊んでいいぞ!」

「なら、スカイダイビングでもしようかな」


 俊彦の声に、暉がぽつりと呟く。


「スカイダイビングか……やってみたいな。けど初日だし、やっぱり海で思いっきり泳ぐのもいいな。夕食まで時間いっぱいあるし、いっそのこと両方やるのもありだよねっ」

「初めから詰め込みすぎじゃないか?」


 急に後ろから声がかかる。振り返った先には、どこか呆れ顔をした陽太がいた。


「お兄ちゃん」

「少し顔色が良くないようだけど?」


 思い当たることを即座に指摘され、わたしは素直に頷く。


「あ、たぶん昨日は楽しみで眠れなくて……少し寝不足かな?」

「なら尚のこと……初めての海外なんだし、時差ボケが起きる可能性もある。今日はのんびりしてた方がいいんじゃないか? 明日帰るわけじゃないんだから、無理する必要はないからな」

「うん、分かった。ありがとうっ」


 お礼を言うと、少し照れ臭そうな顔をしながら陽太は行ってしまった。


「なら、とりあえず散策してみようかな」


 足を踏み出しかけた時、軽い立ち眩みを覚える。


(お兄ちゃんの言うとおりだ……明日のために今日は休んでおこう)


「亜矢様? どうかされましたか?」

「神木さんっ」


 荷物を抱えたまま、わたしの身長に合わせるように屈んでにっこりと微笑んだ。口調は執事だが、笑顔は神木本来のもの。

 あの日以来、神木はわたしを“お嬢様”ではなく“亜矢様”と呼ぶようになった。なんだか特別扱いをされているみたいで、くすぐったい気持ちになってしまう。


「暑いけど大丈夫?」


 みんなに聞こえないように、こそっと執事口調を外す。


「だ、大丈夫っ」

「そっか。でも昨日は寝れなかったんだろうから……無茶しないようにね」

「う、うんっ」


 “また後で”と、神木はまた荷物を手に、別荘がある方へと向かっていった。


(寝てないの……お見通しか)


 ――やはり神木さんには敵わない。


(少し風に当たったら、部屋で休もうかな)




 どこを目指すわけでもなく、ただ海を見つめながらぼんやりと歩いていると、少し先の方で人影が見える。目を凝らすと、ようやく誰なのかがわかった。


(白藤さん?)


 上着を腕にかけ、珍しく眼鏡もかけずに黙ったまま海を眺めている。その横顔がどういうわけか寂しげに映った。

 一瞬、声を掛けようか迷う。

 ここはめげずに話しかけようと考え、わたしは一気に足を進めていった。


「海、綺麗ですね」


 いきなり話しかけられたせいか、わずかに白藤の顔に動揺が滲む。しかし、嫌味や怪訝な顔をすることもないまま、視線はまた海へと戻されてしまった。


(……なんか、変?)


 あれ以来、あまり喋ることはなくなってしまったけど、相手が元気か元気じゃないかの区別ぐらいはつく。


「海なんて何年ぶりかな~」


 わたしは極力、明るく振る舞ってみた。


「お父さんと子供の頃よく来て、何時間も遊び回ってました。白藤さんも子供の頃は海で遊んだりしました?」


 その問いかけに、目だけをわたしへ向けた。


「いえ、あまり……」


 呟くように答えると、胸ポケットにしまっていた眼鏡を取り出した。眼鏡をかけ終えると、さっきまでの表情が嘘のように、にっこりと笑顔を見せた。


「申し訳ありません。仕事があるので、そろそろ戻ります」

(……あ)


 気づいてしまった。

 短いとはいえ、同じ家で暮らしてきたのだ。相手の些細な変化など、嫌でもわかってしまう。


 ――白藤さんは今、自分を隠した。


 “演技”と白藤は言うけれど、それは少し違うように感じる。人を寄せ付けないために、わざと境界線を引いているように思った。


(……なかなか難しいな)


 別荘へと向かい、去っていく白藤から視線を外し、仕方なく海の方へ体を向ける。一歩動いた途端、何かを踏んだ感触が足裏に伝わった。


(なんだろ?)


 足をどけて、砂にまみれた何かにそっと手を伸ばす。拾い上げ、それがなんなのか見た瞬間にわかった。


「ビーズのブレスレット?」


 青と緑の大きめのビーズが交互に並び、その中に混ざって一回り大きな白いビーズが二つ。明らかに子供が作った物だった。

 なんでプライベートビーチにこんなものがと眺めていると、背後から手が伸び、ブレスレットを覆い隠すように握られ、そのまま奪い取られてしまう。

 視線を後ろへと向けると、別荘へ戻っていったはずの白藤の姿があった。しかも、かなり不機嫌そうな顔だ。


「それは、わたしのです」


 いきなり近い距離で目が合い、慌ててわたしは体を離す。


「そうだったんですか! 踏んじゃってごめんなさい……気づかなくてっ」

「いえ、拾っていただいてありがとうございました」


 そして、また背を向ける。人差し指と中指でブレスレットを持つ白藤の手を、わたしは無意識に目で追った。


(白藤さんがなんでビーズアクセサリーなんて持ってるんだろ?)


 よく見ると、二つの大きなビーズにはアルファベットが刻まれていた。

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